上源は雷雨なり

水城洋臣

序幕 帝国の崩壊

 唐──。

 かつて中華の覇権を争っていた漢人と周辺騎馬民族をひとつに統合し、最盛期には中央ユーラシアにまで版図を広げ、ヨーロッパにまで影響を及ぼした世界帝国。


 そんな唐も、末期には反乱が相次いだ事で国力が低下。次第に内向きの政策へと変わっていき、いつしか中華と呼ばれる範囲だけにまで、その天下を縮小させていた。


 そんな中で起こったのが、大規模な飢饉である。

 特定地域だけならば、他の土地からの輸送によって抑えられたはずの被害であるが、今度ばかりは旱魃かんばつや洪水、そして蝗害こうがい(イナゴの大量発生)など、複数の天災が一度に起こり、国内の広範囲が同時多発的に食糧難に見舞われてしまったのである。


 食べる物が無い民衆が取るべき道はふたつ。

 飢えて死ぬのを黙って待つか、ある所から奪ってでも生き延びるかである。


 そうして始まった大規模な民衆反乱は、唐王朝が送った鎮圧軍の手に負える範囲を遥かに上回り、およそ十年に渡って続く。

 この乱は、中心的指導者である黄巣こうそうの名を取り、後世に「黄巣の乱」と呼ばれる事となる。


 この乱こそが、唐王朝に終わりをもたらす二人の男を、世に送り出す事となったのである……。






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る