第10話ヒラヒラと舞い降りたるは

「なんだろう……

空から何か降ってきた」


v薄曇りの空を仰ぎ見た少年の顔に、まるで狙いを定めていたかのように、冷たいものが当たる。


 それを右手の甲で拭き取り、“今度は正体を暴いてやるぞ!”と気合いを入れ、次を待つ少年-呂望リョボウ


“今か今か”と待ち続けて数十秒後、第二弾がゆっくりと彼目掛けて落ちてきた。


 しかし、それは顔に当たるや否や、直ぐに溶けてしまう。


 彼が想像していたものとは違っていたが、優しく柔らかいものであることは確かなようだ。


 不思議に思った呂望リョボウは、次に両手を合わせると同時に、威勢良く胸の前で開いてみる。


 どうやら、この物質なるものをどうしても捕らえたいようだ。


 すると、空は彼の願いを叶えてくれたようで、先程よりも多めに、間を空けずに降り落としてくれる。


「冷たい!」


 それがテノヒラに当たった途端、呂望リョボウは顔をしかめ、思わず声をあげた。


 不満を顔一杯に表して、テノヒラを覗き見ると、既に形はなく……



呂望リョボウはがっくりと肩を落とし、深い溜め息を吐いた。


呂望リョボウ、こんな寒い中で何をやっているんだい?」

「あっ、師匠!」


“いつの間に帰ってきたのか?”と疑問に思いながらも、声のした方向へ瞳を向け、“お帰りなさい!”と嬉しそうな声で出迎える呂望リョボウ


 その双眸には、大好きな師匠-雲水真人が微笑みながら立っている。


 彼の両手には、集落へ行った時に物々交換をした戦利品が入った袋が、大事そうに握られていた。


「師匠、何を頂いてきたのですか?」


 近づき、じゃれつきながら興味で瞳を輝かせた、呂望リョボウはそう訊ねる。


「芋や粟といった食べ物だよ」

「食べ物ですか?」


“有難いことですね”と、彼はにっこり笑って言った。


呂望リョボウは、寒い中で何をしていたんだい?」


 今度は雲水ウンスイが不思議且つ心配な表情で、薄着の彼に訊ねてみる。


 そう、目の前にいる彼は厚手のコートを身に付けていなかったのだ。


 それでも子供の体温が高い事を知っていた雲水ウンスイは、呂望リョボウの答えを気長に待つ。


「空が曇った時、何か得体の知れない物質モノが降ると、神農様に教えてもらったことを思い出し、観察しておりました」

「そうだったのか……

それは“雪”という名の空からの贈り物だよ」

「雪……ですか」


 呂望リョボウは冷たいその物質の名前を、おうむ返しに口にして

「素敵な名前ですね」

と、瞳を細めて言った。


呂望リョボウ、雪についてもっと知りたいかい?」

「はい!」


 呂望リョボウ雲水ウンスイの講義が聞けると知り、満面の笑みを浮かべて頷き、家に向かって歩き出す。


 が、しかし当の雲水ウンスイは空を見上げているばかりで、一向に動く気配を見せなかった。


 痺れを切らした呂望リョボウが、思わず

「早く家の中へ入りましょう!!」

と、雲水を急かす。


 それを合図に、天使の羽にも似た“雪”と呼ばれた物質モノが、静かにそして確実に2人のモトへ舞い降りた。



令和3(2021)年7月10日17:35~10月4日11:49作成


Mのお題

令和3(2021)年7月10日

「羽」

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