第25話気になって
僕がまだ声優として自立出来ていない頃、“戦友”と呼べる友人と2人、駅前のうどん屋でバイトをしていた。
ここは芸能活動をしている僕等のような輩の事情を分かってくれる若夫婦が営む店。
そして、常連客もまた馴染み深く、優しく時には厳しくしてくれたりして、僕等には勿体無い程有難い場所だった。
そんな働きやすい場所なものだから、数人の同じ仕事をしている仲間とは、バイト時間の取り合いもたまに起きたりする。
それ故に、ファンにとっても嬉しい出会いが待っていた。
なんたって、普段は会えない芸能人の働く姿が生で見られるわけだから、彼等から見ればかなり癒しの場所になっているに違いない。
ある晴れた日の午後、まだ年の頃高校生ぐらいの若い女性2人組が来店した。
服装から察するに、学校の帰りらしい。
彼女達は入口付近のテーブルに腰掛け、メニュー表を見始めた。
そして、注文を受けた僕に対して何やらこそこそ話す姿も見受けられる。
会話の内容は大方想像しなくても、何を言っているのか見当がついた。
実は何を隠そう、僕はこの内の1人に恋をしている。
ちゃんと声優として生活が出来るようになったら、告白までしようと考えている程だ。
倉皇しているうちに彼女達の食事が終わり、支払いを済ませる為にレジへと並んでいる。
レシートを手渡した
それと同時に、初めての顧客へ出前に行っていた友人が、入口から顔を出す。
“有難うございました”という感謝の言葉に背中を押されるように、店を後にする彼女等と友人が入れ違いで入る姿を確認する僕。
すれ違った際に何かが気になったのか、流し目で彼女達を見送る彼に
「
と、僕はにやけながら話しかけた。
“うん……”と生返事をする彼に
「知ってるか、彼女達僕等がいる時に食べに来てくれるんだぜ」
と、嬉しさと少々の自慢を混ぜ合わせて情報を伝える。
「そうなんだ……」
彼はまだ気になるのか、目線を外さずに気のない返事をして
「それじゃあ、また明後日も来るかな?」
と、レジで清算処理を続けていた僕に問いかけた。
「来るんじゃないの?」
今度は僕が気のない返事をする。
このすれ違いがきっかけで、僕等は彼女達と結婚するなんて、夢にも思わなかった。
(完)
令和4(2022)年2月13日13:51~20:28作成
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます