第45話ここまで分かった、世界の仕組み(改稿後)

 対峙する2人の少年。


 一人は頭を抱え、顔は青冷めている。


 もう一人は、勝利に酔いしれているのか、彼に見下した視線を向けていた。


 この少年の名はヨドム。


 この界隈では、ちょっとした名の知れた者であった。


 対して青冷めた少年の名前は、場所ごとに変えている為、固定された名前モノは無い。


 彼にとっての名前は、単なる記号に過ぎず、興味も意味も、ましてこだわる理由すらもなかった。


 その時に出会った者に、印象付ければいい。


 ただ、それだけだ。


 周りにいる人間達は、彼等を役者の一人とでも思っているのか、興味も示さない。


 その証拠に、彼等から距離を置いて行き来していた。


“映画が公開したら見に行こう”


 そんな言葉さえ、通行人からの口から飛び出す程だ。


 しかし、2人も同じような考えらしい。


 周りが見えていない。


 まさに今がその状況トキだった。


 震えが止まらない少年にヨドムが言う。


「あなたが殺害を企てると、同じ思いを持つ誰かが知らない誰かを殺害します。


裏を返せば、誰かを幸せにしたいと考えた場合、誰かが何処かで知らない誰かを愛し、幸せにしてくれるのです。


故に、世界平和を強く願うなら、悪い事は言わない。


最悪な環境を考えるよりも、皆が笑顔でいる環境を考えた方が良い」


 言い終わると直ぐ、少年が力無く跪く。


 それはヨドムに敗けを宣言しているとでも捉えられる姿だ。


 だが、その姿は何処かがおかしい。


 泣きもしなければ、嘆きもしないのだ。


「いやぁ、面白いことを教えてくれて有難う」

「?」

「バイバイ」


 少年が淡々とした声で、ヨドムに別れを告げた刹那。


 彼は声をあげる暇もなく、その場に前のめりに倒れていく。


 代わりに姿を現したのは、見ず知らずの少女だった。


 震えた手には、包丁がしっかり握られている。


 そして、ヨドムの血を浴びたであろうその顔は、恍惚に満ちていた。


 少女の口が素早く動く。


 それはまるで、呪文を唱えているようにも見え、滑稽な姿であった。


「これからは、自ら手を下すこと無く、人類を殺せるな」


 少年は、この上ない喜びを胸に秘め、満足そうに声を弾ませて、その場から早足で立ち去る。


 あとには静寂だけが残り、何事もなかったかのように、時間だけが過ぎていった。


令和4(2022)年7月9日21:15~23:04作成


令和6(2024)年7月24日~28日改稿


Mのお題出題日:令和4(2022)年7月8日

『背筋が凍る怖い話』




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