第38話決意新た
「もう、嘘の自分はいらない」
暗闇に浮かぶ、首から上しか写らない、壁に立て掛けてある鏡に向かい、その人間は悔しそうに呟く。
その人間の普段の声質 《コエ》は、もっと明るく、周りに居る人々にも元気を与える程だ。
女子高生らしい“可愛い!”と聞いた誰もが思うような、少し鼻にかかった声で、毎日を友人達と愚痴っては笑いあっている。
でも、その姿は一人になりたくないが為の、或いは誰かに自分の存在価値を認めさせたいが為の演技にすぎなかった。
“いつからこんなことをやりだした?”
特別なんの興味もないこの世界を生き抜く為に、演技でもして、“気を引こう”とでも考えたのか?
そんな事を考えても、遠い過去からやりだしたのなら、記憶を掘り起こしても、何の意味もない。
ただ分かったのは、演技をしてもしなくても、結局自分が見ている世界は変わらなかった。
いや、誰かに自分という名の小説を読ませる為には、自分を押し殺し、誰かが見たいというものだけを追求しただけである。
「滑稽だよ」
落ち込むだけしか出来ない今の自分を、捻くれた言葉を宿す台詞で褒め称えてみる。
それでも……
元気なんか湧くはずなんてないだろうと、もっと肩を落とした。
「……ああ、私は昔いたあの場所に帰りたいのか?」
苦しみ踠いて、ようやく彼女は自分の本当の気持ちに気付く。
それと同時に、目の前の暗闇しか物事を捉えることが出来ない鏡が、音をたてて崩れた。
そして、何故か気が楽になったのを感じる。
「あと少しだけ……頑張ろう」
彼女は、真新しい自分が映る光に満ちた鏡に向けて、そんな誓いを立てて、愛くるしい笑顔を浮かべた。
(そう、これが本来の、何一つ演じていない素の自分なんだ)
「懐かしいあの場所は、こんな私を無条件のまま受け入れてくれるから、好きだ。
だから、出来るだけ早く残りの蟠 《ワダカマ》りを捨て、あの場所へ帰ろう」
“あと3ヶ月だけ”
彼女は、自分にそう言い聞かせるかの如く、強い口調で呟き、暗闇をあとにした。
お仕舞い
令和5(2023)年1月15日16:56~17:47作成
Mのお題
令和4(2022)年10月1日
「女子高生8人、青春を駆ける」
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