第17話満月
月に住む月見ちゃんは、人間界に憧れる5歳の女の子。
そこでこの時期に行われる“お月見”に興味津津です。
何故なら地球に住んでいる私達が直接地球の姿を見られないように、宇宙から見た月を見たことがなかったからです。
月見ちゃんはどうしても“お月見”という行事(モノ)を体験したいと思い、あれこれ考えました。
そして、深呼吸をして瞳(メ)を開いた月見ちゃんは、“ポンッ”と手を叩き
「そうだ、弓張の池から地球へ行こう!」
と、嬉しそうにそう言って、早速歩き始めました。
暫く行くと、暗黒に包まれた色をした、大きな池-弓張の池が、姿を現しました。
月見ちゃんは一瞬怖じ気付きましたが、地球へ行きたい気持ちの方が強かったのでしょう。
胸一杯に空気を吸い、鼻を摘まんだ月見ちゃんは、勢いをつけて弓張の池に飛び込みました。
“怖い”と“楽しい”が入り混じった叫び声をあげて、月見ちゃんは地球へ向けてまっしぐらに落ちていきます。
やがて、スットーンと見事着地に成功した月見ちゃん。
キョトンとした表情(カオ)で辺りを見回し、ここが地球の何処かだと気付いたのは、それから10分程経ったことでした。
ふと、見上げた空には丸くて大きな球。
黄色くて明るく輝くそれが、月見ちゃんが住む月だとは気付きません。
次に月見ちゃんは何かヒントはないかと思い、反対側へ顔を向けてみて驚きました。
木で出来た長い椅子のようなもの-縁側に、ちょこんと座るお団子頭の女の子が、月見ちゃんを不思議そうに見つめていたからです。
その女の子も、目の前に突然姿を現した月見ちゃんを、キョトンとした表情(カオ)を向けていました。
「私は早姫、あなたは?」
自分の名前を伝えた女の子-早姫ちゃんは、降りるとまだ立たない月見ちゃんの下(モト)へゆっくりと近づき、そして優しく手を取りながら
「ねぇ、一緒にお月見しよう」
と提案します。
「えっと……うん」
月見ちゃんは言われるがまま返事をし、立ち上がって縁側へ早姫ちゃんと一緒に歩み寄りました。
大きな月と向き合った2人は、他愛ない会話をするうちに楽しくなって、いつしか打ち解けていきます。
「あのね、早姫ちゃん」
暫くして、月見ちゃんはお皿に盛ってあった白くて丸い物に手を伸ばそうとしている早姫ちゃんに、恐る恐る声をかけました。
“なぁに?”と、優しい眼差しを向ける早姫ちゃんに
「私が月に住んでいるって言ったら、早姫ちゃんは笑う?」
と、上目遣いで訊ねる月見ちゃん。どうやら月見ちゃんが不安だったのは、初めての場所(トチ)で出来た新しいお友達に笑われるのが嫌だったようです。
暫くの間、早姫ちゃんの口から何の言葉も出てきませんでした。
胸の鼓動が早くなった月見ちゃんは、思わず泣きたくなります。
でも、それは長くは続かなくなったみたいです。
じっと見つめる月見ちゃんが聞いたのは
「別に笑わないよ」
という、嬉しい言葉でした。
「あのさ、月見ちゃん。
もし、それが本当だったら、私も月へ行って丸い地球が見たいな……」
「うん、いいよ!」
“見せてあげるね”と、満面の笑顔を見せた月見ちゃんの目の前に差し出されたもの。
それは、あの白くて丸い団子でした。
“初めて見た!“と言わんばかりに目を丸くした月見ちゃんに
「おだーんご、一緒に食べよう!」
と、早姫ちゃんは嬉しそうに誘い、右手に持っていたもう1つの団子を、一口頬張ります。
そんな早妃ちゃんに、背後から聞き覚えのある声がかかりました。
どうやら早妃ちゃんのお母さんのようです。
「早姫、さっきから誰と話をしているの?」
「月見ちゃんっていって、月に住んでいるんだって」
「……そんな子、何処にもいないわよ?」
「えっ?」
早姫ちゃんは思わず驚きの声を上げて、先程まで座っていた隣へ顔を向け
「ここに月見ちゃんっていう女の子がいたんだよ」
と、必死に訴えます。
そして今にも零れそうな涙を抑え、心配顔のお母さんに“本当にいたの!”再度訴えました。
「分かった、分かったから泣かないで」
“疑って悪かったわ”と、謝るお母さん。
お団子を食べてしまった事も注意しようと思ったその刹那、泣かれてしまったので、どうやら諦めたようです。
“仕方ないわね”と言う代わりにお母さんは
「早姫、ご飯出来たからおててを洗ってきて」
と、しょんぼりと肩を落としている早姫ちゃんを優しく誘導しました。
早姫ちゃんは一言も喋らずに立ち上がり、お母さんの言う通り、洗面所に向かいます。
そうして悲しさのあまり、深い溜め息を吐きながら、早姫ちゃんは丁寧に手を洗うのでした。
それから11年の月日が経ったある日。
早姫ちゃんは高校生になり、毎日を楽しく過ごしていました。
そんな彼女の下(モト)に、一通の手紙が届きます。
それはあの時忽然と姿を消してしまった月見ちゃんからの手紙でした。
“何だろう?”と不思議に思いながら、ハサミで真っ白くて長方形の封筒を開けていく早姫ちゃん。
中身を取り出して読んでみて驚きました。
何と、あの小さかった月見ちゃんが、第100代かぐや姫に就任したのです。
手紙はそのお知らせ兼就任記念パーティーの招待状でした。
「……来たる10月31日、黄金色の月の馬車が迎えに上がりますので、防寒しながらお庭で待っていて下さい。
尚、長旅になりますから、初めはラフな格好が良いかと思いますだって!」
“お母さん、どうしよう!!”と、いつになく興奮して歓喜の声をあげた早姫ちゃんは、慌てふためきながら、台所で夕食の準備をしているお母さんに、アドバイスを貰いに行くのでした。
お仕舞い
※お暇な時に直しますね。
令和3(2021)年9月21日12:12~11月27日23:37作成
Mのお題
令和3(2021)年9月21日
「月見と団子」
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