第14話外へ

「本当にいいのか?」

「……うん」


 白いTシャツを着たレンが、目の前に広がる真っ黒に染まった大きな穴と、まるで何かに操られているように虚ろな表情を浮かべている僕を見比べて、訝し気に訊ねる。


「飛び込んだら、もう二度とこの世界には帰れないんだぞ?」

「……別にいいさ」


“ここには、僕の居場所がないんだから”と、今にも消えるような声で、しかししかし穴の外の世界の様子を知る蓮には聞こえる大きさで呟く僕。


 ここの世界で僕は、尤もな理由をつけられては、みんなから仲間外れにされていた。


 時折それが嫌で、勇気を出して訴えてみたけど、全く相手にされなくて……


 次第に僕はこの世界に興味を失くしてでも誰かに見つけてほしくて、暗くなった時を見計らっては、町中を彷徨サマヨい歩いて……


 そんな空虚から救い出してくれたのが、隣りにいる蓮だった。


 彼は何処に住んでいるかも分からない、周りから見れば少し浮いているような不思議な存在。


 僕とは待ち合わせもしていないのに、気づけばいつも隣りにいる。


 まるで待っていたかのように、何も聞かず、優しい瞳で迎えてくれた。


 そして決まって”向こうの世界"のことを、僕に面白可笑しく話してくれる。


 それがいつしか羨ましくなって、気付けば彼と一緒に“外の世界”を見てみたいと思うようになった。


 考えてみれば、今までの僕は“内”という名の部屋に“閉じ籠るだけ”で、結局一歩も外へ出たことがない。


 ならば、これが一生に一度のチャンス……


 僕は逃がしたくない。


「そこまで決意が固いなら……行こう!」

「うん!!」


 そう言ったレンに、握られた手を強く引っ張られた僕の体は、ふわりと浮き、何処へ続いているかも分からない暗い穴に吸い込まれていった。


令和3(2021)年7月21日12:10~12:33土台部分作成

7月22・23日修正あり


Mのお題令和3(2021)年7月20日

「Ryoさん(Supercell)さんのイラストを見て書いた物語」



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