第12話あんなこともあったなぁ~一人称編~


 数年前の出来事よ。


 お昼時、混雑したお店で、私は接客という仕事を担当していたの。


 他人が美味しそうに食事をしているのを横目で見ながら、齷齪アクセクと働いて……


“はぁ、疲れたな……”なんて思いも、お客様がいる前では見せられない。


 自分のネガティブな感情を抑えては、レジ打ちをしたものよ。


 そんな日が何日か続いたある日。


“今日は、比較的お客様が少ないのね?”と、不思議そうに首を傾げながら、カウンター席を次のお客様が気持ち良く使えるように、布巾で綺麗に拭いていたのね。


 そんな私に、恐る恐る声をかけてきた青年が1人。


 左側にボーッとして立っていた青年は、何故か緊張して体が小刻みに震えていたわ。


「どうかなさったの?」


 私は、あまりに震える彼を見て、つい心配な声でそう訊ねてしまったの。


 そしたら、その青年はパーカーの真ん中にある大きなポケットに、勢い良く左手を突っ込んでね。


 中にあるであろうものを掴んで引っ張り出した拍子に、右手をその物の下に素早く添えたのよ。


“何かしら?”と思って、黙って様子を見ていたら……


「ずっと、あなたを見ていました。

だから、その……結婚して下さい!」

と、突然告白されたの。


 もう、驚いたのなんのって!!


「20才も離れているおばさんでもいいのなら、結婚してあげる」

「本当ですか?

では、どうかお付き合い下さい」


“是非とも、お願いします!”と、丁寧に頭を下げた姿に私は困惑して、暫くの間言葉が出なくなってしまったの


(えっ、ちょっと待って!)


“この人本気だわ!!”と、回りにいるお客様の瞳を気にして、その場に固まった私は、この場をどうにかしようと考えに考えたけど。


 彼の熱意あるプロポーズのせいで、いいアイデアが浮かばず……


 思わず“断ろう……”とも思ったけど、何故かこの時何処となく面白そうだったから、二つ返事でプロポーズを受けることにしたの。


 これが、人生初の最初で最後の恋よ。


 どう?


 飲食店で働いていた頃の思い出話は、参考になったかしら?


 また何かあったら、ここを訊ねて来て頂戴。


 とっておきのお話達が、あなたを待っているから。


令和3(2021)年4月27日23:45~4月28日0:25作成


Mのお題

平成29(2017)年11月22日

「飲食店スタッフとして働いていた時の思い出」





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