第2話隣の芝生は青く見える

 物差し君が言いました。


「いいな、ハサミ君は…

紙を綺麗に切ることが出来て」


“羨ましいよ…”と嘆く物差し君に、ハサミ君は困惑した表情を浮かべて言いました。


「何を言っているんだい、物差し君。

僕からすれば、線を綺麗に引ける物差し君こそ、羨ましいよ」


 ガックリ肩を落とすハサミ君。


 2人の表情は、とても辛そうです。


 そこで暫くの間、2人は黙って何か良い案が浮かぶまで、ただひたすら待ちました。


 どのくらい待ったことでしょう。


「あっ、そうだ!」

「えっ、何、何??」


 突然声を上げた物差し君に驚き、慌ててハサミ君が訊ねます。


 物差し君は、ニコッと笑って“良い事を思いついた!”と、瞳で訴え

「それなら、お互いの立場を交換してみるというのはどうかい?」

と、先程とは打って変わり、明るい声でそう提案してみました。


「それ、良いアイデアだね!

何か新しい世界が拓けるかもしれないね」


 ハサミ君も、物差し君の熱意につられて、立場を交換することにしました。


 それから1週間が経ち、お互いがお互いに疲弊している姿を見て心配になり、相談に乗ることにしました。


ハサミ君、元気がないけど、どうしたんだい?」


“悩みがあるなら教えてよ”と、瞳で訴える物差し君。


 その思いが伝わったのか、ハサミ君は瞳を潤ませて口を開きました。


「有難う、物差し君。

実は、僕が家の人の中で1番好きな女の子に“ハサミじゃ線が引けないなぁ”って言われて、落ち込んでしまってね」


「そうだったんだ」

“それは悲しいね”と、相槌を打ちながらそう答えた物差し君。


「実は僕も同じでさ、ついさっきお父さんに

“物差しで紙を切ると、切り口が汚くて、人様に見せられない”と、面と面で向かって言われて、思わず泣きたくなっちゃったんだ」


“気が滅入ってしまって、やる気が出ないよ”と、物差し君は嘆き、瞳に涙を溜めて言いました。


 いつも明るい物差し君はどこへやら。


 いつになく暗い部屋が、更に暗くなる程、2人は大きな溜め息を吐き、涙が流れないようにと天井を見つめました。


 暫くの間、何も喋らなかった2人が出した答え。


 それは…


「結局、元の役割の方が、僕には性に合っているということが、良く分かったよ」

「うん、そうだね…僕も実感した」

「無理をして交換するのは、もうやめよう!」

「そうだ、そうしよう!!」


こうしてハサミ君と物差し君は、お互いの役割を再び交換し、ホッと胸を撫で下ろして、笑い合ったとさ。



お仕舞い<(_ _)>


令和3(2021)年1月21日23:20~1月23月21:30作成





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