短編集1

淡雪

第1話観客のいない展覧会

とある展覧会がある。


そこにはたった1枚の写真があるだけで、他には何もなかった。


一応宣伝はしているのだろうが、お客が全く来ない。


そういう展覧会だった。


主催者側は展示する作品を募集する際、このような展示会だとは説明しない。


すれば、来ないと分かってしまうからだ。


いや、例え展示者が現れたとしても、“自分の作品しかないのなら、逆に目立って注目を浴び、仕事の依頼がくる”という、如何にも浅はかな考えを持つ者達ぐらいだろう。


そんな展覧会に、1人の青年が名乗りを上げた。


見たところ何の特徴もない、ごく普通の青年である。


主催者側に言われた通り、作品を持って来て展示をし、1週間後外して帰っていった。


当然、客は全く来なかった。


後日、青年はこの経験を友人に話して聞かせる。


友人は言った。


「もっと宣伝をすれば、君の素晴らしい作品を、沢山の人達に見てもらえたのに」

“何故、それをしない?”


青年は言った。


「興味がないのに、“来てくれ”なんて誘う事自体ナンセンスさ。

それに、僕は作品を展示出来る場所があるだけでいい。

だから、この展示会は大成功さ」


友人は言った意味こそ分からなかったが、青年をずっと尊敬し続けたという。


令和2(2020)年12月27日8:30~9:21作成

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