第2話 「白い炎と晴れのち毒ガエル」
「お兄ちゃん……遅いなぁ。お兄ちゃんのことだから天使なんてちゃちゃっと片付けちゃうのにまだ戦ってんのかな〜」
白い髪の毛を揺らしビデオゲームをしながら兄の帰りを待つ少女は窓から雨が降る外を見つめ、今やっていたゲームを飽きたと言わんばかりに電源を切った。
「ただいま」
「!!」
ドアが開く音ともに兄の声が聞こえ、少女は玄関に向かって走っていった。
「お兄ちゃん!ただい…ま…」
玄関に立っていたのは兄だけじゃなく、兄の足の後ろに1人のピンク髪の少女が隠れていた。
「お兄ちゃん、その子誰?」
「この子はな、お兄ちゃんが守りきれなかった子だ」
「どういう意味?」
「俺がもう少し早く着けばこの子の両親が天使に殺されることはなかった」
「あ……」
「1人になったこの子を俺が引き取った。だからこの子は今日からお前の義妹だ。同じ7歳だけどな」
「妹…」
「俺はまだやらなきゃ行けないことがあるから帰るのは明日の朝になりそうだ」
「そんなにかかるの?」
「まあな。俺が帰ってくるその間に自己紹介とかしとけよ」
2人の妹を残し、少女の兄は家を出ていった。
ピンクの髪の少女はまだ怯えているが、少女はここは義姉として、手を差し伸べるべきだと胸を張り満面の笑みで声をかけた。
「私椎崎テン!あなたの名前は?」
自分の名前を名乗りながら握手の手を少女に向けた。少女はビクッと身体を震わせたがテンの笑顔を見て安心したのか少し微笑み口を開けた。
「轟……エルシア…です」
◇◇◇
(あれから9年か。あの時はすっごい可愛くて大人しくて私に従順だったのに今となれば)
ソファーの上に寝転がりスナック菓子を食べ、ピンク髪の寝癖を爆発させているエルシアを見てテンはため息を吐いた。
「エルシア、髪の毛くらい整えたらどうなの?」
「いいじゃん。今日予定なんもないんだし」
「でもいつ天使が現れるかわかんないんだよ?」
「現れたら現れたでテンが行けばいいじゃん。死なないんだし」
「そうだけども」
「私今日なんもしたくなーい!天使退治で見れず録画機能で溜まってたアニメを消化するの!!」
ソファーの上で足をバタバタさせるエルシアを見て呆れるテン。テン的には2人で天使を倒したいらしい。でもそれをいつもエルシアはめんどくさがっている。またエルシアは天使を倒しに行くと銃弾が減るのが嫌らしい。
はっきり言って天贈人は給料が高い。なので銃弾を買うお金はあるはずだがエルシアの場合、銃弾を買いに行くのがめんどくさいのだろう。
「昔は可愛かったのになぁ」
「なんか言った?」
「言った」
「言ったんだ…。なんて言ったの?」
「今日もエルシアは可愛いなって」
「きも」
「おい」
他愛のない話をしている2人のスマホに一通の連絡が入った。内容は
『有田川町の
というもの。
天使には階級があり、それぞれ「下級天使」「上級天使」「大天使」「特殊大天使」の4つだ。連絡に記されている「下級天使」はその4つの中の階級では1番下の階級だが決して弱いという訳ではなく、攻撃を喰らわずに戦車3台でやっと倒せるほど。
「上級天使」は「下級天使」よりも強く、戦車を何台も用意しても倒せず、天贈人では無い人は絶対に勝てない存在。
「大天使」は天贈人が100人集まっても勝てるかわからない程の強さである。
「特殊大天使」はまず勝てない。勝てたとしてもそれは奇跡。2度は無い。
「吉律中学校か。近くだな」
「ほら行くよ!」
スマホからテンに視線を移した頃にはテンはもう準備万端だった。
「天使の強さは「下級天使」。テン1人で良くない?」
「良くない!二人で行って退治して帰ってくるのに意味があるの!」
「いやないでしょ。てか早く行かないと被害が大きくなるよ。私も気が向いたら行くから」
「絶対行かないやつじゃん!もう!」
テンは頬を膨らましながら家を飛び出して行った。それをソファーの上から見送るエルシアは再びスナック菓子とテレビのリモコンに手を伸ばし、録画していたアニメをつけた。
◇◇◇
『天使が現れました。教員はただちに全校生徒を地下体育館に避難させてください。繰り返します。天使が―』
吉律中学校は現在天使が運動場に現れたことによりお祭り騒ぎになっていた。泣く子もいれば、先生の話を聞かず、走って地下体育館に逃げる子がいれば、天使をみたいと窓にしがみつく子もいた。
トンネルの中にいた天使はムカデの姿に似ていたように天使は何かの姿に似ている。学校の運動場に現れた天使の顔は鹿のようだが首からしたが人の体のようだ。だが両手がなく、代わりに手首から黄色い液体が垂れていた。
天使は学校の入口に向かってとてもゆっくりだが歩き出した。
「見つけたぞ!天使!!」
天使は声がした方を向いた。そこにはヒーロー戦隊のような服装をした男が立っていた。
「俺の名前はミスターサーベラス!!子供を守るスーパーヒーローだ!」
男は自分の名前を天使に叫ぶと手からライトサーベルを出した。
「俺の天贈は『
天使の頭に向かって両方の手から伸びたライトサーベルを振りかざしたその時
「なっ!!」
鹿のような頭が縦に割れ、そこからおぞましい口が現れた。
頭が縦に割れたことにより、ライトサーベルは空振りに終わり、ミスターサーベラスが地面に着地する前に天使の口からレーザーが発射され、ミスターサーベラスは消し炭になった。
「時間稼ぎありがとう。そして間に合わなくてごめん」
「ブラックニンジャソード」で居合切りを不意打ちで食らわそうとしたのは先程家を出たテンだった。
テンの居合切りは目にも留まらぬ速さで天使の体を二つに切り裂いたと思われたが、さっきまでゆっくりでしか動かなかった天使はテンの居合切りを跳んで避けた。そして口を縦に割り、テンにレーザーを放ち、上半身を消し飛ばした。
天使は開いた口をゆっくりと閉じ学校の中に入ろうとするが横腹を蹴り飛ばされた。
天使が見た先には、いまさっき上半身を消し飛ばした天贈人の下半身だけだが戦闘態勢に入っており、レーザーの焼き口には白い炎が燃え盛っていた。
手の代わりに黄色い液体が垂れ、顔が鹿みたいな天使と、ウエスト辺りから上がなく、白い炎が燃え上がっている天送人が運動場で戦っている。
先程まで下半身しかなかった少女の体は徐々に再生していき、腕が再生され、顔はまだ再生されていないが、天使の気配を感じとり蹴りやパンチを繰り返している。
天使も負けじと蹴りやレーザーで少女の体をボロボロにしているが、いくらレーザーで足を消し飛ばそうが、お腹の真ん中を貫こうが白い炎で再生され、決着がつかない。
「驚いた?これが私の天贈、『白く
口の再生が終わったテンが天使の顎に回し蹴りを当て、ダウンをとることに成功した。
まだ鼻から上が再生されていないのにも関わらず、天使のダウンをとったテンだが肩を大きく動かして息をしていることからこの戦いはかなり辛いことがわかる。
天使の気配は感じ取ることが出来るが、最初にレーザーを食らった時に手放してしまった「ブラックニンジャソード」の気配を感じ取ることは出来ないのでとどめがさせず、天使との肉弾戦が続いている。
ようやく目も再生し、愛武器を探すが見当たらない。相当遠くに飛んでしまったようだ。
己の拳だけでこの天使を倒せるのか?と思ったその時、テンの腕に1匹の黄色いカエルが降ってきた。
「…え?」
カエルは次から次へと降ってきて次第には大雨のようにカエルが大量に降ってきた。
「え、なにこれって痛た!?……体が腫れて…てか皮膚が溶けてる!?」
「カエルの種類は『モウドクフキヤガエル』。世界で1番毒が強いカエルらしいよ」
後ろを振り向くとそこには傘を指したエルシアが立っていた。
「アニメ見てたの。そしたら私の力と同じような力をもつキャラクターが居てね、そのキャラクターがカエルを降らせてたから私もできるかなって思ってやったら出来た」
「何それ……もう!こないと思ってたよ!!」
「言ったでしょ?気が向いたら行くって。で、気が向いたから、来た」
テンとエルシアは共に天使の方に視線を向けた。天使はカエルの毒で身体中が溶けていたり、腫れていたりでお得意のレーザーが出せないほど苦しんでいた。
「天使にも効くんだ。カエルの毒。てかテン、大丈夫?」
「私は大丈夫だよ。めっちゃ痛いけど」
エルシアはテンの返事に対し頷くとカエルの毒で苦しむ天使に近づき、愛銃「キアッパ・ライノ」の銃口を向けた。
「私の天贈は『
天使に向かって礼を言うとそのまま引き金を引き、頭を撃ち抜き、この戦いを終わらせた。
エルシアはカエルの雨を止ませ、天使を倒したことを学校に伝えた。そして死体処理班を呼び、あとは家に帰るだけと思われたが…
「あのさぁ!カエル降らしたのエルシアだよね!なんで私も一緒にカエルの処理しないといけないの!?」
「私が来なかったらあのまま泥試合がずっと続いてたんだよ?それを終わらせたんだから感謝して欲しいね!」
2人は運動場に広がる無数のカエルの死体の処理をしていた。
長靴を履いて、ゴム手袋を付けて1匹1匹袋に入れていく作業を初めて2時間が経とうとしていた。
「天使の上だけにカエルを降らせることは出来なかったの?」
「しようと思えば出来ると思うけどちょっとかっこいい登場がしたかったから運動場全体に降らせちゃった」
「もう最悪」
カエルの死体はまだまだ多く、彼女らが家に帰ってゆっくりするのはまだまだ先のようだ。
◇◇◇
『あなたが思う、最強の天贈人は誰ですか?』
『やっぱり椎崎スムノかな?顔もいいしね!』
『最強の天贈人?
『兎丸さんもかっこいいけどやっぱりスムノかな!!』
『最強の天贈人は誰ですか?という質問を100人にしたところなんと!椎崎スムノと答えた人が50人!願楽寺小五郎と答えは人が50人!綺麗に別れました!』
『すごいですねぇ。こんなに綺麗に別れるんですね』
『でもやっぱり女性の方は兎丸さんか椎崎スムノと答える人が多かったですね』
『それでも椎崎スムノを選ぶ人しかいなかったですけどね!』
『私は兎丸派ですけどねぇ…?』
『でも今我々がこうして生きているのは小五郎さんのおかげですけどね』
「お兄ちゃんの女性人気すごいけど50、50で別れるのすごいな」
テンは自身の兄について放送されている番組を見ていた。
「テーン!パンに何塗る〜?ジャム〜?それともマーガリン?」
台所からエルシアがパンに何を塗るのかを聞いてきた。
今日は火曜日。火曜日はエルシアが料理を担当する日となっている。
「ジャムで!」
「了〜解」
朝9時。普通はこの時間、16歳の少年少女は学校へ行かないといけないが天贈人は別なのである。
天贈人として生まれた人は学校に行くことを禁じられ、いつ天使が現れてもいいように自宅で待機か、街を見回りに行かないといけない。
「学校に行かなくていい天贈人はいいな」
「天贈人は暇そうでいいな」
などという人は、1人は2人いると思われるのだが実際そのような発言をする人はいない。
なぜなら天贈人として生まれた人は一生天贈人として生きていかねばならないからだ。
天使が怖くて天贈人をやめたくても許されず、恐怖に怯え、泣きながらこの世を去った天贈人は数え切れないほどいる。
だからこの世界では天贈人として生まれたが最後。自分の好きな道を歩めずに終わるのだ。
「はい。朝ごはんできたよ」
「ありがとうって…エルシアさんや。なんで私のはジャムパンであんたのはピザトーストなんだよ!」
「美味しそーでしょ。あげないよ」
「私もピザトースト食べたい!」
賑やかな朝を過ごし、彼女らは自分の武器の手入れをし、午前を過ごす。もちろん、天使が現れたら手入れの途中だろうがすぐに現場に向かい、天使を倒す。そして家に戻り、武器の手入れをする。これが彼女達のルーティンだ。
「そういえばさ、エルシア」
「ん、なに?」
「お兄ちゃんの天贈について知ってる?」
「あーそれね。私全然知らないのよね。テンは?」
「私も全く知らないんだよね」
「実の妹も知らないとなるとそうとうすごい力なんだろうね」
「でも噂だと5つの天贈を持ってるとか」
「噂でしょ?天贈は1人につき1つって決まってるじゃん」
「そうだけどさ…まぁ帰ってきたら聞けばいいか」
テンの実兄であり、エルシアの義兄。
『椎崎スムノ』
大天使を何回も1人で圧勝し、さらに特殊大天使も1人で倒したという伝説を作り、また、「天贈」は1人1つとなっているが、噂によると椎崎スムノは天贈を5つ持っているらしい。
「またさ、3人で焼肉とか、いきたいよね」
「最後に行ったのがテンが10歳の誕生日記念の時だよね」
「途中、天使の報告が入ってそっちいっちゃったけどね…。お兄ちゃん、元気かな」
そこで話は終わり、部屋は沈黙に包まれた。
お互いの武器を手入れする音だけが部屋に響き、窓の外から鳥の声や、風の音、そして
「元気だぞ」
テンの後ろから男の声がした。
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