第14話 キララと一緒に服を買いに行った!
「……んで、言われたとおり駅前に10時に来たわけだけど」
昨晩、キララは事情を知って、こういうのは早めにやったほうがいいとすかさず約束をとりつけたのだ。
あまりにも強引に進んだのでユウジは流されるままにオーケーした。
「おまたせ~。ごめんごめん。時間かかっちゃった」
「お、おぉ。来たかキララ…………、あ」
自慢の髪をうしろでまとめ上げ、黒いサングラスをかけた彼女が現れた。
新品同然の白いジャケットに黒いチューブトップというへそ出しルックがキララの持つ美しさをより際立たせている。
「おお……」
「なぁにぼんやりしてんの。アタシにみとれるのはかまわないけど、今日はアンタの買い物だからね」
「わ、わかってるよ」
「じゃ、いこ。駅前のデパート。いきなりブランドもの着てもダメだから、まずはこういうところでそれなりに似合いそうなの探す」
「そうなのか?」
「コスプレとかする人もいるけど、そういうのはガラじゃないでしょ? 第一、アンタ変身するからわりとそこらへんはお金かけなくても大丈夫っぽいし」
「あーそういや、そうだな」
「でも、せっかく人気出てきたんだから身だしなみには注意しないとね」
ふたりはデパートに入るとメンズファッションのエリアまで行く。
「そうだね~。こういう青みがかったのとか、ちょっと渋めに挑戦? ううん……」
「おい、これなんてどうだ?」
「なに?」
ど真ん中に『The・羅生門』と黒く書かれた赤いTシャツを明るい笑顔で見せてみせる。
その姿にキララの目からハイライトが消えた。
「どうした? あ、こっちがいいか? ほら、"レッツ・
「……さ~なにがいいかな~」
「うぉい!」
そんなやり取りを繰り返しつつも買い物を終え、フードコートで食事をとることにした。
「うどんうめぇ。うどんが至高」
「アタシそば派」
「そば細くね?」
「当たり前でしょ。え、もしかしてそれが理由?」
「おうよ」
「あきれた」
「そういや、キララもこういうの食うんだな」
「どういう偏見それ。アタシをなんだと思ってんの」
「いや、もっといいの食ってんのかなあって」
「ご冗談。いるのよねえアンタみたいに夢見てんの」
「うへえ、言うねえ」
「時期とか仕事によっては食べるものにめっちゃ気をつかうからさ。けっこうシビアだよ」
「まあ、ダイバーって基本肉体労働だからな。つーかもうアスリート?」
「それだけじゃない。ほら、アタシってば新進気鋭のグラビアアイドルだから。肉体維持はすっごい大事」
「あ~、余計に考えないとってなるか」
「そうそう。……あ、それで、どうなの?」
「ん、どうって?」
「どうって。決まってるじゃん。仮にも人気ダイバー兼グラビアアイドルとこうしてごはん食べてんだよ? なんか感想とかないの?」
よくよく考えれば大層な話である。
たとえそれなりの人気をほこるダイバーであっても、このようなことを体験できることは多くない。
ましてや出会って数日の異性とこうするなどと。
「あー……流れでこうなってたけど、これってけっこう、すごいことだな」
「くす、なにそれ。もっとマシな感想ないの」
「俺にそういうの求めんな」
「あー、ダンジョン配信者がそんなのでいいのかなー。コラボしてて突然話題振られたときに困っても知らないよー」
「いや、そんときはそんときだよ!」
「はーおかしい。あ、食べ終わったんなら持ってくね」
「え、いいよ。俺が持って……」
「いいからいいから」
キララはユウジのぶんの器とお盆も重ねて持って行ってしまった。
(あれ、俺の割り箸握ってる? いや、見間違いか)
瞳を閉じて氷の入った水をゆっくりと飲む。
目を開けるとキララが覗き込むようにジッと見ていた。
「うお!」
「うお、じゃないよ。じゃ、早く帰ろう」
「おお、なんか、すっげぇ距離近くなってねぇか?」
「そんなことないよー。普通普通」
「そっかー……ま、いいや。今日はありがとうな!」
デパートを出て、さてこのまま終了にしてよいものかと考えていたときだった。
「あら、奇遇ね」
「姫島さん!?」
「あ、なにその衣装すっごくいいじゃん! 写真撮っていい?」
ちょうど仕事を終えた姫島と偶然出会った。
身体のラインを浮き彫りにするような、こげ茶色のチャイナドレス。
金色の刺繡でよりきらびやかさを際立たせ、スリットからのぞく白色のサイハイソックスがより足を魅せていた。
白の長手袋に包まれた手でキララを手招きし、一緒に撮影を楽しむ。
ユウジはポーっと彼女を見ていた。
(あら……ふふふ)
姫島はこっそり自撮りした写真をメッセージつきで彼に送った。
『あとで感想聞かせてね♪』
「ん、なにニヤニヤしてんのアンタ」
「いや、なななな、なんもないぞ! あ、そうだ姫島さん。今日俺、買い物したんです。ファッション取りそろえましたよ!」
「あら、よかったわね」
「全部アタシが選んであげたやつだけどね~」
「そ、それを言わないでくれ……」
「あんなヘンテコTシャツ選ばせてあげるわけないでしょ!」
「ヘンテコTシャツ? クス、たしかにユウジ君なら選びそうね」
「えー!? あれヘンテコ!?」
「あきれた。ぜんぜんこりてないや」
夢のように和やかな時間はあっという間に過ぎていった。
上位ダイバーの異性とここまでからめるなど数日前の自分では想像もつかなかっただろう。
(根気よくやってみるもんだな)
ふたりとわかれてから、爽やかな気分の彼に軽風が頬をなでる。
明日から別のダンジョンで配信をするにあたって、準備をするために足早に自宅へ戻った。
(俺もそろそろもうひとつの……いや、あれはまだ使いこなせてないんだよなぁ)
帰り際そんなことを考えながらそっと左腕をなでる。
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