第9話 コラボでも俺は大暴れ!

 序盤の道のりは古代遺跡の観光じみた歩みとなった。

 3人はそれこそ観光案内のように駄弁りながら、広大な空間を進んでいく。


「エジプトっぽいにしちゃあ全然暑くないなぁ」


「夜の砂漠ってめっちゃ寒いよ?」


「マジで?」


「でもここはずっと夜みたいね。見て、綺麗な星空。ダンジョンとは思えない」


「ホントっすね。なんか本の中に迷い込んだみたいだ」


「アラビアンナイト? たしかにアラビアンファンタジーって感じだもんね」


「魔法のランプとか落ちてねえかな」


「知ってる? アラジンと魔法のランプの舞台って本来は中東じゃないのよ」


「マジで!?」


「嘘ぉ!!」


「あら、知らなかったのね。あとは帰って自分で調べてみなさい。今は配信」


「は~い」


「おおう、コラボやってるとこういうのあるんだな……」


 進んでいくと古のファラオめいた像と名もなき女神像がいくつも立ち並ぶ場所へたどり着いた。

 一応道はまだまだ続くのだが……。


「どうやら現れたみたいね」


「めっちゃ多い感じ。えーメンドクサ」


「だったら休んでもらってもいいぜ。こっちは体力ありあまってるからな」


「ジョーダン。アタシのほうが登録者数多いんだから、アンタより多少は無茶しないと示しがつかないでしょ」


「じゃあ、皆で仲良くやりましょう。ユウジ君頑張ってね。一番期待してるんだから」


「期待、されましたぁあ! 【変 身】!!」


 例の大げさなポーズののち、ブレイク・フォームに姿を変える。


「これが生ブレイク・フォーム……」


(あれ、変身ポーズあんまり変わってない?)


「さぁ、おいでなすった! かまえたほうがいいぜ」


 建築物の外側は果てしない白い砂漠。

 砂の中から現れたのは紫がかったゴブリンの群れ。


 斧や剣、古びた小銃を手に襲いかかってきた。


「ゴブリンか。じゃあ軽く吹っ飛ばしちゃいますか」


 キララが取り出したのはエジプト神話における"戦争と狩猟の神"の名を冠するアーティファクト。


「降り注げ。"イン=ヘルト"」


 閉じた状態の傘のような杖状のそれを新体操のバトンさながらに操りながらキララは不適に笑んでみせる。


「じゃあ、最初は俺だ!! うぉおおおおお!!」


「グアアアアアア!!」


 開幕ドロップキックで数匹を余波で吹っ飛ばしていく。

 その後もトンファーを取り出して器用に回転させながらゴブリンの胴や頭を砕いていった。


 "開幕いったぁああ!!"


 "物理ゴリ押しw"


 "ドロップキックの音じゃねえ"


 "えぇ……(ドン引き)"


 "パワーファイトは嫌いじゃない"


 "変身して戦うのなんかカッコイイ"


 コメント欄におけるユウジの評価はおおむね好評。

 

 刃物による攻撃はもちろん、銃撃すらものともしない装甲にゴブリンたちは焦っていく。

 次第に集団でのしかかりまでやってきた。


「どわぁああ!! 離れやがれこのぉ!!」


「多勢に無勢っしょ。量で来るなら量で攻めなきゃ」


「援護するわユウジ君」


 姫島が妖術を展開する。

 梵字のようなエフェクトが現れ、キラキラと輝く蝶がいくつも舞った。


 放たれる炎の渦にゴブリンたちが巻き込まれていく。


「じゃあ、アタシもきちっとお仕事するね」


 柔軟かつ軽やかな動きで迫りくるゴブリンを翻弄ほんろうしつつ、杖をかかげると光の槍が天地から放たれた。


「グエエ!」


「ぐぎゃ!」


「さぁ、もっと上げていくよ。リスナーもついてきてね!」


 『煌めく槍』の異名は伊達ではない。

 ほかにも炎や鋼など色とりどりの槍を繰り出してはゴブリンたちを貫いていく。


 ふたりの派手な演出にコメント欄も大盛り上がり。


「す、すっげ。やっぱカラフルなの大事だな」


「ぼんやりしてるとキララに負けちゃうわよ」


「お、おう! 俺だってド派手に決めてやるぜ!」


 ゴブリンはみるみる数を減らしていき、恐れをなして逃げていった。

 

「へへ、やりぃい!」


「ま、こんなもんよね」


「皆お疲れ様。じゃあ続きを……」


 そのとき、コメント欄に不吉な文言が流れたのを見逃さなかった。



 "奴らはただの崇拝者。神はそこにいる"


 3人が一瞬の沈黙に包まれる。

 だがその兆候はすぐにおとずれた。


 一番大きな建築物の扉が開かれると、巨大な図体を動かしながら姿を現す。

 


 


 

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