第10話 ボス相手でも俺はとことんぶちかます!

 スフィンクス、と言えばわかりやすいかもしれない。

 造形は古代ギリシャの逸話に近いが守護者や死を見守る存在とはあまりにもかけ離れている。


 もっとさらに恐ろしい、獰猛な怪神のそれは3人を見るや憎悪ににじませた瞳と牙を向けた。


「D・アイ、検索を」


『"シュセプ=アンフ"。このアウター・ダンジョンの支配者。人間をとにかく憎み、見れば見境なく食らいつく獰猛な魔物であり、魔物たちにとっては慈悲深い女神という側面を持っています。高火力の魔力放出による広範囲殲滅戦術を得意としていますのでご注意を』


 "やべえ、ボスきた"


 "あんなの初めて見た"


 "画面越しからでもわかるレベルのヤバさ"


 "でけえな! ほんっとでけぇな!"


 ボス級の登場によりコメント欄も大いに盛り上がりを見せている。


「どうやら逃がしてはくれないみたいね」


「相手にとって不足なし。ここまで火力がそろってんならいけんじゃない?」


「おう! 前は任せろ!」


 "もしかしてクリアできる?"


 "倒せるか?"


 "ヴィリストン姫島とキララがいれば余裕"


 "津川ユウジが足引っ張らないか……"


「でりゃああああああ!!」


 シュセプ=アンフとユウジによる壮絶な殴り合い。

 巨大な前足の薙ぎ払いを両手でタイミングよくつき身体を宙に浮かせる。


 分厚く重い装甲に似合わずトリッキーな動きで肉薄し、回転二弾キックをかました。

 

「ギャアアアアアアアアアア!!」


「いよっし!!」


「はいはーい。上空注意。槍が降るよー」


「おう、槍一本借りるぞ!」


 降り注ぐうちの鋼の槍をつかみ取り、頭上で振り回しながら連続的に叩きつける。

 砂塵をまといながらの峻烈な槍捌きと、姫島の妖術の合わせ技がよりキレと威力を生んだ。


「おら吹っ飛べ!!」


「グアアアアアアアアアアア!!」


 槍を棒高跳びのように地面を突き立て、そこから炎をまとった高速回転蹴りをかますと、シュセプ=アンフの顔面に炸裂しうすら高い砂丘まで吹っ飛ばす。


「ここから一気に畳みかけるわよ!」


「うし、今度は槍とトンファー、そして妖術の合わせ技だ! これぞ三位一体ってな!」


「あんまり前ですぎないようにね~」


 "津川ユウジ、すごくないか……?"


 "状況に応じて戦い方を使い分けてる"


 "キララの槍を利用するとか考えるかフツー……!"


 "上位のいくらか見てきたけど引けを取らないのはたしか"


 "え、この強さで再生数低いの? ありえんくない?"


 "トンファーと槍ってどういう発想?"


(ユウジ君、私よりずっと注目されちゃって。私のチャンネルなのになぁ。でもいっか、彼、すっごく楽しそうだし)


 姫島のファンもまた彼の実力を認めていく。

 彼女やキララにはないパワースタイルの戦闘方法がバランスの良い運びになってよりリスナーを魅了していった。


「ん、アイツなんか様子おかしくないか?」


「そういえば。なんか翼が光ってるような? うわ~キレイ」


「言ってる場合! D・アイも言ってたでしょ。くるわ!」


「ズァァアアアアアアアアアアアア!!」


 大きく広げられる翼に妖光が収束し、見る見るうちに4対8枚に分裂。

 脅威にして神秘。恐怖よりも美しいという恍惚が勝りそうになる。


 姫島はいち早く対魔力防御術式を四重に展開。

 直後に周囲の光景を埋め尽くすほどにまばゆいレーザーが掃射された。


 ドガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガッ!!


(くぅ、レーザー一本一本が追尾機能を持ってるから、ダイレクトにっ! これじゃいつまでもつか)


「くう! なんて威力!」


「なんて数だ。こっから挽回するにゃ、どうすっかな……」


「なんか手があるの!?」


「360度全方位に同時にぶつかってきてるわけじゃない。どうしてもラグがある。……そう、姫島さんから見て一番真後ろ。ツーテンポ遅れてレーザーがぶつかる」


「まさかアナタ……」


「姫島さん、難しいですか?」


「できなくはないけど、アナタ大丈夫なの? もしもレーザーが当たったりでもした」


「俺のこのフォームは硬いのと力強いのが取り柄っすから。それにこの装甲は魔力に対してはかなり耐性がありますんでいけるっしょ」


「わかった。合図したら進んでね」


「え˝、やるの!?」


「よっしゃああ! ドーンと任せてくれ!!」


 姫島の合図を皮切りに、ユウジは一部開いた防壁を飛び出した。

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