第6話 推しにコラボを申し込まれた!

 従業員はユウジの存在に驚いていたが、姫島の連れであるということでスンナリととおしてもらう。


 客がたくさんいるとは思えないほどにシンと静まり返った廊下。

 それぞれが各部屋の中で食事をしているのだろう。


 そして従業員に個室へと案内される。


「それぞれがプライベートルーム。ここなら色んなこと話せるから安心して」


「は、はい。失礼します」


「はぁ~、お腹すいちゃった。ここのお肉のコースすっごくおいしいから。ゆっくり食べましょ。時間はたっぷりあるでしょ」


「……わかりました! 今日はゴチになります!」


 席に着いて数分、食事が運ばれてくる。

 ほんのりとした明かりの中で、先ほどの緊張が噓のように舌鼓したつづみをうつユウジ。


「俺、ステーキなんてここ数年食べてなかったなぁ」


「そうなんだ。あ、もしかして街の北のほうにある古いレストランで食べてたとか?」


「そうそう! あそこのステーキがバリウマで昔はオヤジと食べに行ってたんですよ」


「お父さんと?」


「あぁ~。ダイバーじゃあなかったんですがダンジョンに潜って仕事してたみたいで。ガキのころですけど、数日ぶりに帰ってきたときによく連れてってくれたんです」


「そうだったんだ」


 表情と言葉のトーンで読めた。

 彼の父親は亡くなっている。


 ユウジはそれ以上父親のことは話さず笑って見せるが、そこにはたしかな寂しさがかいまみれた。


「……ゆっくり食べてね。ここのステーキだって一級品よ」


「もちろん! いやめっちゃ美味いっす!」


「ふふふ、君ってほんと美味しそうに食べるね」


「いやぁ~、だってこういう店で食べるなんて今まで想像すらしてませんでしたから」


「君も有名人になれば、こういう店にこれるよ」


「姫島さんってこういう店よく来るんですか?」


「たまにね。でもこういうプライベートで来るのは初めてかも」


「え、じゃあどういう事情で?」


「会食よ。色んな企業の人と話するときに来たりするわ」


「お、おぉ、スポンサーとの秘密の会談ってやつっすか」


「そんな大げさなものじゃないけど。そういえば知らなかったのね。ダイバーとして有名になると話を持ちかけられることがあるのよ」


「アイテムとか、装備とかっすか。うわぁ、やっぱスゲェなぁ」


「君も頑張ってみたら?」


「ははは、いつになるかなぁ。今のままじゃダメってわかってるんですけどね」


「ふふ、たしかに今のままじゃ道は長いね。あ、そうだ。君の今までの動画見させてもらったよ」


「え、マジすか? どうでしたか俺の動画は!」


 前のめりになるユウジを見つつ、姫島は言葉を選んでいるようだった。


「あの、別に遠慮とかいいんで。恩人とか一切抜き。ひとりのダイバーとして、ひとりの視聴者として、大先輩としての意見を聞きたいっす」


「ふぅ~、お説教になるような流れにしちゃったのホントミスったなぁ」


「いいえ! いつかは聞こうって考えてたんっす。お願いします」


「じゃあ言わせてもらうわね。……変身ポーズ、長くない?」


「うぐ! ほ、ほかには」


「カメラアングルも一定だから映えがない。もっと色んなアングルのカメラワークも考えてみればいいと思うわ」


「お、おお……そうか。あれでも色々角度考えてたんだけど、ダメだったか」


「あと、攻撃にエフェクトとかつけてみたら? 当たった瞬間に爆発するようなイメージの」


「エフェクト? それ、いるんですか?」


「いや、いるでしょ。そのほうが映えるじゃない」


「へー、皆そういうの考えてやってるんですね」


「……ほかのダイバーの配信は見てたんだよね?」


「いや、見ててもなかなかわからなくて」


「もう少し勉強なさい。千里の道も一歩からってね」


「はい、もっと頑張ります」


「とはいえ、ひとりでやってもきっとどん詰まりになるでしょう? そこで、いい話があるのだけど」


「いい話?」


?」


 まさに青天の霹靂。

 食事だけでも至上の喜びに匹敵する。


 だがここで最強のサプライズ。



 推しにコラボを申し込まれた!!



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