恋は花火とともに

水鳥楓椛

第1話

3月17日


 桜舞い散る美しい春。

 出会いと別れを運んでくる春。


 ーーーピーピーピーピー、


 電子音の鳴り響く病室で俺と少女は手と手を取り合って涙を流している。泣きたくなかったのに、涙はぽとぽとと彼女の眠っているベットを濡らす。とめどなく流れる涙のせいで、もうベッドはぐっしょりと濡れてしまっている。

 お互いに顔を見たいのに、涙に濡れてしまっているせいでそれすらも思うようにいかない。


「………は、るくん」

「一夏っ!逝かないでくれ、一夏っ!!」


 彼女は無言で首を振ってにこっと笑う。そして、乾いてかさかさになったくちびるを動かして風のような声を出す。


「………だい、すきだよ………………」


 夏のように眩しい少女一夏は、向日葵のような明るい笑みを浮かべて俺の顔を見つめる。

 この世にこれ以上に幸せなものがないと言わんばかりの笑みを浮かべた一夏とは反対に、俺はくしゃっと顔を歪ませる。


「あぁ、俺も、俺も君のことが好きだ!!だからっ、だから置いて逝かないでくれっ」

「うれ、しいな………。ありが、とぅ、はる、く………」


 ーーーピー、


 叫びも虚しく非情な電子音が鳴り、俺は膝から崩れ落ちた。

 カサカサになってしまって尚愛おしい彼女の声は、最後まで紡がれることはなかった。


 美しき桜が舞い散る麗かな春、一人の少女一夏の命が桜の花のように美しく、そして儚く散った。


 三月十七日、午後二時五十七分のことだった。

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