凡人

天野和希

序章 つくるもの

 私は凡人になりたかった。

 でも気づいた時に私が立っているのは、いつも1番上だった。

 もっと……そうだ、もっと真ん中辺り、あの辺の、人がいっぱいいるところ。

 あそこで、みんなで励ましあって、支えあって、生きたかった。

 だが私が息をする度に、私の場所を取ろうとする者達が、勝手に落ちてく。

 落ちてく。

 落ちてく。


 何がいいかも分からない白痴どもが、ただの電気信号に騙されて私を崇める。何が悪いかも分からない間抜けともが、快楽のために私を貶す。

 芸術など、タチの悪い新興宗教と同じだ。いや、おかしな思想を植え付けない代わりに、誰も目を覚まさせてくれない音楽の方があるいは。

 何か、勘違いでもしていたようだ。

 価値があるのはでは無い。私じゃなくてもいいのだ。ただそこに縋ることのできる神がいればそれで。

 神、か。

 私が神になれば、世界の見え方は変わるのだろうか。

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