空に響かせ

天野和希

序章

 空っぽだった。何もかもが。

 外面だけ豪華に飾って、彩って、遠くから見れば何よりも輝いていたと思う。

 誰もが外面と内面のずれに戸惑うことがある。

 だけど僕の場合は少し違う。

 そもそも中身が無いのだから。

 別に、それで困ることはない。

 むしろ変に中身を持っている人たちよりも他人を傷付けないし、面倒なことに巻き込まれることもない。

 あぁ、なんて素晴らしいんだ。

 そう思っているはずなのに、あぁ、なんて、むなしいんだ。


 自分の人生なんてどうでもよかった。

 少なくとも、に出会うまでは、僕はいつ死んでもいいとすら思っていた。

 紙よりも薄いぺらぺらの人生が自分の扱いのせいで破けてしまうことを恐れること自体、間違っている気がした。

 どうせどう扱ってもいつか破けてしまうだろうから。

 僕が出会ったはまるで川の流れのようだった。

 時には細く透き通り、ただ魚たちを静かに守るような、時には底が見えない程深く広く、人々に安寧をもたらすような、それでいて時には…………、生きるもの全て、飲み込んでしまうような。

 わざわざ足を止めて見ていたのは僕だけだった。

 人々はどこにでもあるような小さな川に、特別な感情を持つことなんてなかった。

 ただ美しい、とそう思った。

 なぜかなんて分からない。

 それに、疲れていたからあまりよく覚えていない。

 でも……は、僕の全てを、ぶち壊してしまうほどに、美しかった。


序章 終

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