ジャスティスへのレクイエム(第一部)

森本 晃次

第1話 隣国クーデター

「この世の正義は唯一、戦いによって支配されるものである」


「チャールズ国王、大変です」

 前の日にチャールズ国王の妃が誕生日だったこともあり、盛大な催しが宮廷内で行われた関係もあって、国王はその日は昼過ぎまで就寝している予定だった。

 声のする方をおぼろげな意識の中で見つめたチャールズは、そこに佇んでいるのが自分の腹心でもある軍部参謀長であるシュルツ長官だった。

「どうしたんだ、シュルツ。私は今日は昼まで寝ていてもいい日ではなかったのか?」

 チャールズはそう戒めたが、別に叱っているわけではない。普段から自分への忠義を最優先で考えるシュルツがいきなり睡眠を妨害したのである。それなりに理由があるというものだ。

 シュルツ長官もそのことは重々承知の上のことなので、終始頭を下げまくって恐縮している。

――このシュルツがいきなり来るんだから、何かが起きたことは間違いない――

 とチャールズは感じた。

 シュルツは前の国王である父親の代から国家に、そして王家に尽くしてくれている。それを元国王の父親からも言い聞かされていて、

「いいか、チャールズ。シュルツの言うことはちゃんと聞くんだぞ。彼の言葉を私の言葉と同じだと思いなさい」

 と子供の頃から言い聞かされていた。

 シュルツはその言葉にまがうことなく実際にも絶対的な忠誠を誓ってくれている。少なくともチャールズがシュルツに関わるようになってからというもの、シュルツの忠誠心以外を見たことがなかった。

 シュルツはもう初老と言ってもいいくらいだろう。今年三十歳になるチャールズ国王が子供の頃から見てきたシュルツと今とでは、ほとんど変わっていないように見える。それだけ自分が子供の頃から見てきたシュルツには絶対的な権威を感じるのだった。

 妃を決める時もシュルツの力は絶対だった。チャールズは子供の頃から徹底的に帝王学を叩きこまれたが、シュルツはその中でも「アメとムチ」を兼ね備えた教育を施してくれた。厳しいところは十分に厳しくしたが、柔軟なところはとことん柔軟に対応してくれていて、絶対的な信頼感を与えられたのだった。

 もちろん、教育にはシュルツ一人で携わることなどできるはずもない。何人もの教師がいて、その元締めとなっているのがシュルツだった。さらにシュルツ自身もいくつかの帝王学の資格を持っているようで、専門の先生に聞くよりもシュルツに聞く方が安心できると感じているチャールズだった。

 チャールズが成人し、王位継承が行われると、チャールズの側近の一番手として軍部参謀本部の長官となった。この国は伝統的にチャールズの家系による世襲での王政と取っていて、絶対君主制と言ってもいい国家だった。

 今の世界の情勢として、絶対王政の国も昔に比べれば少なくなっている。共和制の国が増えて、帝政を敷いている国はほとんどなくなってきたのも事実である。チャールズの国家であるアクアフリーズ王国と、隣国のグレートバリア帝国を始めとして、昔はこの周辺は王国や帝国が多かったのだが、先の世界大戦で世界情勢が大きな変化を遂げて、独立機運が高まった時、そおほとんどは共和制の国として独立していったのだ。

 それは世界大戦の原因が帝国主義による世界分割が原因だったからだ。完全な弱肉強食の世界。そこに生まれた支配する側と支配される側の立場の歪が戦争へと駆り立てたのだった。

 世界は帝国主義世界から小国同士の共存の世界に変わったが、それまでにはかなりいろいろな紆余曲折が繰り広げられた。独立を望む国と、元宗主国だった国との確執に、主義主張の重なる国が介入することで、紛争であったり内戦が、独立戦争へと格上げになる。そんな世界を治めるたけの強力な国が実際にはいなかった。あるにはあったが三大強大国と呼ばれる国の主義主張の違いから、これらの国が介入することによって、余計に混乱を生んでしまったのだ。

 それでも数十年前に強大国の一国の体制が、内部クーデターによって倒されると、急に世界は落ち着きを取り戻した。

 ただ、途中で小さな小競り合いは存在していた。

 理由は表だっていないが明らかだった。

「戦争がなくなることによって、損をする人がいる」

 ということである。

 それが一企業なのか、それとも国家単位なのか、そんな集団が秘密結社を募って、世界のどこかで小競り合いの紛争を絶えず起こさせていた。

 大きな紛争にエスカレートさせてしまってはいけない。戦争になってしまうと、予想もしていないことが起こらないとも限らない。他国による介入など考えていないからで、紛争を起こしたからそれでいいというわけではない。

「紛争をいかにして終わらせるか」

 というのも重要で、必要以上に戦闘が長引けば、予定していた利益を割り込むことになりかねない。

 そう思っている秘密結社は、紛争を決して大きなものにはしない。それでも世界のどこかで紛争が起こっているというのは、世界平和を目的として作られた国際平和団体にとっては由々しきことであり、各国の首脳と集めて協議を絶やさないようにしていた。

 この国際平和団体というのは、各国が世界平和を目的に設立したもので、各国の元首よりも立場は上のように作られていた。上と言ってもすべてにおいてということではなく、世界平和を保つための秩序においてだけは絶対的な権力がある。それは民主主義の基本である三権分立における最高裁判所の裁判官のような立場と言えば、分かりやすいであろうか。

 国際平和団体は略して「WPC」と表記される。ここでは各国元首や外相などの全権大使は。あくまでも団体の中での一評議員でしかないのだ。

 もちろんWPCは秘密結社の存在は把握している。諜報活動もしっかりとやっていて、彼らの状況はきっと秘密結社が想像しているよりも把握しているに違いない。

 秘密結社が小さな紛争ばかり起こす理由はここにあった。

 小さな紛争であれば、世界各国のどこでも同時に起こすことができる。大きな紛争というとそれだけ準備も周到にしなければいけないし、お金も相当にかかってしまう。その間に諜報活動から、紛争が起こる前に看過されてしまうわけにはいかないからだった。

 小さな紛争であれば、WPCが介入するわけにはいかない。何しろ一国家の中での小競り合いなのだから、内政干渉になりかねないからだ。それを秘密結社は狙っていた。そのことはWPCでも気付いている。しかし気付いてはいるが手を出すことができない。手をこまねいて見ているしか手はないのだった。

 確かに世界は平和になった。大きな戦争はなくなって、経済はうなぎのぼりとなった国もある。それまでの超大国だけが支配する世界ではなくなってきたのだ。

 そんな中でいまだに帝政を続けている国というのは、経済力を持っていることが大きな原因だった。

 すなわちその国独自の産業が存在し、産業のおかげで他国に干渉されないほどの巨大な富を手に入れて、それが代々受け継がれる王国であったり帝国が存在する。他の国がここまで歩んできた紆余曲折とはまったく関係のない国である。

 チャールズ王の国であるアクアフリーズ王国もm隣国のグレートバリア帝国も同じで、その昔はもっと両国は親密だった。

 王の妃を隣国の姫から迎えたりすることも頻繁にあり、それぞれの王家は親戚関係でもあった。だからと言って長い歴史の中で、お互いの国は敵対しなかったことが一度もなかったわけではない。その昔の中世の時代には、この二国の戦争が周辺国を巻き込んで、数十年も続くという泥沼の戦争を巻き起こしたこともあった。

「この二国は因縁の国なんだ」

 と中世の人たちは、そう思っていたことだろう。

 確かに因縁はあった。それぞれに姫を人質に取られているような関係だったこともあり、外交に従事している人間は大変だったことだろう。一触即発で戦争が拡大してしまうと、この二国はおろか、周辺国も多大な技セを出し、想像を絶する難民を生み出し、世界は大混乱に陥ることは目に見えていただろう。

 中世の頃でそうだったのだ。近代になっての戦争は、それはそれは悲惨を極めていた。世界大国の思惑がそのままそれぞれの国の陣営となっての世界大戦。

「バックには大国が控えているから安心して戦え」

 と小国の兵は言われたのだろうが、後ろに何がいようとも、先陣を切らされて最前線に送り込まれ弾薬の矢面に立たされるのは自分たちなのだ。

「こんなのやってられるか」

 と思っている人も多かっただろう。

 しかし、ほとんどの国では、国家最上主義だったので、国家のために命を投げ出すのは当たり前だという教育を受けていた。たとえやってられないと少しは感じたとしても、国家のためだと思うと、すぐにそんな気持ちを打ち消すというものだった。本当に、

「戦う機械」

 というのが、その頃の生身の人間だったのだ。

 だが、世界大戦が終わり、両者痛み分けのような戦況で終了したことで、世界のほとんどは廃墟と化した。その時に初めて兵は思うのだろう。

「国家のためと言って、結局国家を焼け野原になるようなことを続けてきたのは最前線の俺たちなんだ」

 と思ったことだろう。

 荒廃した中から見つけたのは、国家の復興と、大国に頼ることのない自国の繁栄という思想だった。実際に知識人と言われる人たちが独立思想を唱え始めると、あっという間に独立思想が広まって、ブームのようになった。ちょうど秘密結社が生まれたのもその頃で、彼らはそんな思想主義で固まった連中の血の上に、自分たちの金欲を積み重ねていったのだ。

 彼らには武器は少なかった。以前自分たちの国に進駐していた国が武装解除されて放棄された武器くらいしかなかった。

 国家としての兵器はあくまでも国家防衛のための武器であり、クーデターの武器などではない。

 そんな時、

「死の商人」

 と呼ばれる集団が、個々に存在していた。

 殻らはのちの秘密結社になるのだが、まだその頃は一企業に過ぎなかった。彼らは財閥と言われる連中で、世界大戦終了後に解体される予定だったが、その計画を実行する前に独立機運が高まったのだ。独立機運はそれほど急速に高まってきたのだが、一説には、

「財閥が自分たちの解体を逃れるために、独立運動に一役買っていたのではないか?」

 と言われた。

 世界秩序の安定には、財閥解体の前にいろいろなハードルがあった。軍縮であったり、敗戦国の処罰。さらには戦勝国による世界の分割の問題があったからだ。

 世界分割の問題は結構大きかった。戦勝国が一枚岩であればそうでもなかったのだろうが、まったく体制の違う国家が戦勝国で三大大国として君臨しているのだから、複雑な世界情勢を描いていた。

 チャールズ国王は、帝王学を学ぶ際にもそのあたりはしっかりと教えられた。

 ただ、あくまでも国益を重視する教育なので、どこまでが真実だったのか、疑わしいものだった。

「中にはウソもあったのでは?」

 と国王になってからも考えることがあったが、それを証明してくれる人は誰もいない。

 チャールズが唯一信用できるのは、シュルツ長官だけだった。他にも本当は信用できる人もいるのだろうが、あまりにも自分が子供の頃に受けた教育が偏っていたと思っていたので、柔軟に対応してくれるシュルツしか信用できなくなっていた。

 実は、これはシュルツの計算でもあった。もちろん、すべてそのために他の人に極端な帝王学の先生として君臨させたわけではないので、仕方のないところも正直いってあっただろう。そう思うと最初からシュルツの中で計算が出来上がっていたとは思えないところもある。本当に最初から分かっていたのであれば、彼は天才であり、これから起こることにも予感めいたものがあったことだろう。

 悲しいかな、シュルツ長官にはそこまでの才覚があったわけではない。ただ、少なくともアクアフリーズ王国の中で、最高の頭脳であることは分かっていた。だから余計にチャールズはシュルツしか信用しない。絶対的な信頼を持てる人が一人いれば、他の人にも信頼を寄せるというのは、絶対的な相手に対して失礼だという意識があったのだ。

 これは帝王学の中から学んだことではない。チャールズの中にある人間としての理性がそう思わせるのだろう。結果として偏見の目で見てしまうことになったが、これこそ人間らしいというべきことであり、チャールズの考え方と誰が責めたりすることができるであろうか。

 チャールズはまわりからは、

「しょせん、生まれながらの王子であり、世間知らずなんだ」

 と思われていた。

 だが、チャールズはそんな浅はかな連中が想像もつかないほどの頭の回転を持っていて、それを分かっているのもシュルツだった。

 シュルツは最初、チャールズを恐れていた。自分で隠そうとしている思いを、チャールズになら看過されてしまうのではないかと思ったからだ。しかし、それ以上にチャールズは純粋だった。シュルツを疑うことはまったくなく、その純粋さがいずれ不幸を招くことになるとは、その時はまったく感じていなかった。

「シュルツ。お前だけが頼りだ」

 という言葉をシュルツはいつしか額面通りに受け取るようになっていた。

――俺がこの国のナンバーツーだ――

 と自他ともに認めるシュルツだったが、それでもやはりチャールズ国王への忠義を忘れることはなかった。

 チャールズが皇太子の頃、結婚の話が持ち上がったのは、チャールズがまだ十九歳の頃だった。アクアフリーズ王国では、王位継承者の結婚は皇太子の間に行われるのが通説で、しかも未成年のうちに婚礼を成立させることがしきたりのようになっていた。

 もちろん、それまでに国王が崩御などしたりして急遽の王位継承が仕方なく行われることになった時はしょうがない。それ以外ではこれまでのしきたりとして破られたことはなかった。

 チャールズも子供の頃からの教育で、そのしきたりを守ることが自分の責務であることを認識していた。だから、学生の頃もなるべく女性を好きにならないように心得ていた。好きになってしまうと自分が辛いというのもあるし、まだ未熟な自分に言い寄ってくる女の中には百戦錬磨の悪女もいるからだった。

 実際にチャールズに言い寄ってくる女性も少なくはなかった。中には身の程知らずを思わせる女性もいて、チャールズは話をするのも億劫な気分にさせられたりもした。それでもさすがに王位継承者。誰にでも愛想を振りまくことを忘れずに、怒りを抑える性格になっていた。そんなチャールズの王位継承者としての辛さを知っているのは数少なく、いつもそばにいるシュルツくらいのものだったのかも知れない。

 アクアフリーズ国では、国王は婚礼を迎えるまでには童貞を捨てることは責務となっていた。本気の恋愛ができない代わりに、肉体的な欲求不満を持たないように「筆おろし」の相手は決まっていて、側室となる女性たちもすでに決定していた。すなわち国王には好きになった相手を妃にしたり側室にしたりはできないのだった。

 チャールズという男は女性に対して律儀なタイプの男性だったが、側室の存在に疑問を持つことはなかった。彼女たちの一人一人には優しく、チャールズが恋をしなくとも、側室の方がチャールズに惚れてしまうという現象は起こっていたようだ。

 中には側室同士で確執があったのも事実だったが、チャールズは知らなかった。いち早く側室内の異変に気付いたシュルツが、うまく収めていたのだ。そもそも確執を生む女性にとってチャールズという男性に対しての確執ではなく、自分の威厳に対しての確執だったので、金や名誉をちらつかせると、女性たちは黙ってしまう。そのことを一番分かっていたのもシュルツだったのだ。

 チャールズの正室にマリア妃が決まったのは、チャールズの十九歳の誕生日だった。マリア妃というのは、隣国の姫ではなく、アクアフリーズ王国とちょうどその頃に同盟を結んだ国の姫で、政略結婚というよりも、和平の使者としてアクアフリーズ王国に迎えられたことは、送り出す方にとってもありがたいことで、この婚礼は当時の世界の情勢の中では、ほのぼのとしたニュースとして伝えられたのだった。

 マリア妃は当時まだ十三歳。結婚というにはあまりにも若かったのだが、アクアフリーズ王国では気にはしていなかった。実際に過去の皇太子の婚礼の中で、最年少は十一歳で輿入れしてきた姫もいた。それを思えば十三歳というのは決して幼くはなかった。

 ただ、マリア妃には年齢では言い表せない幼さがあった。見た目は確かに十三歳なのだが、その雰囲気は怯えよりもおしとやかさが表に出ていて、度胸という点では肝が据わっているのではないかと思えるほどだった。

 この国では、婚礼の前に妃になる人は早めに入国して、妃になるための教育を受けることが習わしになっている。逆にこの国の姫が他国に輿入れする時も、相手の国のしきたりを覚えるために早めに相手の国に行くことが慣例となっていた。だから、マリアが早めに入国したことは別に珍しいことではなく、ただその若さから妃が寂しくならないかということをまわりが気を遣わなければいけないことが大変だった。

 だが、実際にはそれは取り越し苦労だった。マリアは最初から覚悟を決めてやってきたことは一目瞭然で、まわりが却って恐縮してしまう様子をシュルツは微笑ましく思えるほどだった。

「これでいいんだ」

 と、チャールズとの婚礼を前に、マリアには何の問題もないことが分かり、ホッとしていた。

 チャールズはマリアとは婚礼の時まで会わないのが慣例となっている。もちろん写真や教育の過程などは報告を受けているし、メールのやり取りくらいは許されている。あくまでも会うという行為が婚礼の時が最初であればいいという程度のことだった。

 チャールズはマリアの幼さを見るたびに、自分が童貞を失った時のことを思い出していた。

 あれはチャールズが十五歳の頃のことだった。十五歳の誕生日に童貞喪失という儀式があるのもこの国の慣例であり、実際の成人とは別に身体の成人として認識される年齢が王族では十五歳ということになっていた。

 十五歳というと、身体は完全に大人になっている。女性に対しての興味も他の男性同様にあるのは当たり前のことだった。却ってない方がおかしなくらいで、それはそれで大きな問題だった。チャールズの成長における精神的な部分も肉体的な部分も把握しているのはシュルツであり、シュルツは十五歳になるまでのチャールズに何ら心配を抱くことはなかった。

 チャールズの筆おろしの相手は、いずれ側室となる女で、彼女の年齢は二十歳だった。三十歳になったチャールズから見た五つ年上とその頃に感じた五つ年上とでは天と地ほどの差があり、彼女は姉というよりも母親に近い感覚の尊厳を感じていた。

 チャールズの相手の名前はマーガレットと言った。それが本名なのかどうか分からなかったが、

「綺麗な名前だね」

 とチャールズに言われて、マーガレットは柄にもなく照れていたようだ。

「そんなことおっしゃられるなんて、光栄ですわ」

 女性を知らないチャールズには、どうしても身構えてしまう姿勢が見られ、マーガレットの態度にその本意を看過することはできなかった。

 それも当たり前のことであり。最初から看過されてしまうと、マーガレットとしても立場がないというものだ。それでも照れていたのは本当のことで、相手がそれを看過できないと分かりながらも、

――知られたくない――

 と感じた自分に、まだ乙女チックな部分が残っていたことを知らされて、ビックリさせられた。

「マーガレットって呼んでいいかい?」

 チャールズは恥ずかしがりながらそう言った。

「ええ、いいわよ」

 とマーガレットは下着姿になっているチャールズの身体を余すことなく愛撫を加えながら答えた。

 マーガレットも下着姿だった。

 この国での童貞喪失の儀式は、寝ている女の寝室に皇太子が忍んで行くというもので、それは女性に委ねることが国王の性行為であるという認識からくるもので、逆に国王の側室になる人というのは、一応の英才教育だったり、武道などにかけても長けていた。いざとなれば国王を身を持って助けるという任務も一緒に帯びていたからだ。

 マーガレットも護身術はもちろん、国王を守れるだけの訓練を、秘密警察から受けていた。この国の秘密警察とは軍部とも警察とも関係のない、皇室が独自に持っている軍隊と警察機関を兼ね備えた組織であった。

 いわゆる「国王親衛隊」とでもいうべきであろうか、その団体からの訓練を受けていることで彼女たちも皇室ではないが、一番皇室に近い存在として君臨していた。

 マーガレットはチャールズの期待に十分に応えた。チャールズが期待していた以上のものを与えたに違いない。

――私の初恋って、マーガレットだったのかも知れないな――

 と心では思っていたが、もちろん口に出すことはしなかった。

 マーガレットの寝室に忍んで行った時のことをチャールズは今でも夢に見ることがある。

――あの時ほど気持ちがドキドキしたことはなかった。しかも、終わってからのギャップの激しさもあの時が初めてだったな――

 ギャップというのは、「賢者モード」のことだろうか?

 賢者モードというのは、男性特有のもので、絶頂までに感じていた欲望が果てた瞬間にまるでなかったかのような脱力感に包まれる。それがまるで悟りを開いた仙人のように見えることから、「賢者モード」あるいは「賢者タイム」と言われる。

 童貞であるチャールズにそんな理屈が分かるはずもなく、脱力感と同時に罪悪感のようなものが襲っても来た。それは初めての経験だった。

 チャールズは自慰行為をしたことはなかった。これは皇室の教育の中で禁じられていることで、童貞の間だけは自慰行為をしてはいけないというものだった。逆に童貞でなくなれば自慰行為を規制する制約はなく、自由にしてもよかった。その理屈を童貞だったチャールズが分かるはずもなく、ただ決まっていることとして、律儀に守り続けてきたのだった。

 もちろん、その理由が分かるわけでもない。そして破ってしまったからといって、厳しい罰則が待っているわけではない。だが、それまでに受けてきた帝王学では、決まりを守ることが自分が持って生まれた使命のように教えられてきたので。抗うことなど最初から頭の中にはないのだ。

「帝王学というのは、洗脳することから始まる」

 とシュルツは思っていたが、まさしくその通りだ。

 だが、チャールズに関しては洗脳などしなくとも彼の性格は実に素直であり、それは今まで脈々と受け継がれてきた王室の遺伝子によって形成されているのではないかと考えると、納得できるシュルツだった。

 だが、チャールズのような最初からの国王と違うマーガレットを始めとして側室は、心の中にどこか歪のようなものを抱いていた。彼女たちに対しても同じように皇室に関わることで教育を受けることになるのだが、彼女たちには完全な洗脳が必要になってくる。それがどんな内容のものなのかは一言では言い表すことはできないが、洗脳された人間というのは自由に育った人たちとは明らかな違いがあった。そのことを彼らが表の世界に出ると、相手も自分たちにも気付くものがあるのだろうが、洗脳を受けた人というのはすなわち、皇室の宮殿からは一生出ることができないことを意味していた。

 その中で、マーガレットという女性は、洗脳されたとはいえ、どこか俗世間のようなところがあった。いわゆる

――「人間臭い」ところがある――

 と言った方がいいのではないか。

 チャールズの童貞喪失の相手がマーガレットであったということは、その後のチャールズの人生において大きな転機であったのはないかと思わせるに十分なのだろうが、最初に分からなければ永遠に分かるはずのないこととして、実際にチャールズがそう感じることはなかった。

 十五歳のチャールズは、すでに大人だった。大人というのは身体が大人だというわけではなく、包容力を持った人間だという意味である。マーガレットはそれまでに何人かの筆おろしに貢献してきた。もちろん、皇室内の人間に限られるが、そんな連中にはない何かを若干十五歳の少年に感じるなど、思ってもいなかっただろう。

 マーガレットは、たとえ相手が皇太子であろうと、相手は童貞。自分がすべての主導権を握って事を済ませることになるだろうと思い込んでいた。だが終わってみれば、すべてにおいて自分に主導権がなかったことは明らかだった。むしろ相手に与えるはずの余韻を自分が与えられたことにビックリした。

――こんな男性は初めてだわ――

 まさかその時、自分が皇太子を好きになるだろうなどと思いもしなかったので戸惑っていたが、自分が皇太子を好きになったという事実を思い知ったのは、それから四年が経った、皇太子の婚礼が近づいた時だった。

 それまで側室として、他の女性の中の一人として、定期的に皇太子の相手をしてきたが、そこに恋愛感情などありえなかった。

――私が殿方を愛するなどあってはならないことだし、私が殿方に愛されるなど、ありえないことだわ――

 と感じていた。

 あくまでも自分は皇室直属の側室という立場で、女としての感情を持つことは許されないと思っていた。それだけの教育も受けてきたし、それ以外にはなかった。

 元々マーガレットは皇室内で生まれたいわゆる、

「妾の子」

 だったのだ。

 妾の子だからと言って、捨てられることはなかったが、それなりに皇室内で役に立つ人間として育成されることで、皇室内の人間はそれぞれに役割がしっかりとしていることで俗世間のような自由さはないが、これほどの賢固な集団はないと思われる一団を形成していた。それは他の立憲君主国の軍隊よりも強力なもので、絶対君主制の国を、時代が古臭いということで毛嫌いする時代に入ってきていたが、アクアフリーズ王国というのは、これほどないというほどの結束性を昔から変わらずに保っていたのだ。

 ただ、一つ言えることは、他の国と隔絶したようなところがあったので、世間の体制から乗り遅れたのは当然のこと、逆にいえば、昔からの体制から「降り遅れた」とも言える。引き際を間違えると、いずれ混乱を招くことになるというのは、それまでの世界の歴史が証明していたこともあり、それを危惧している人がいないわけでもなかった。それが何を隠そうシュルツ長官であることを、その国の誰もが知らなかった。

 シュルツ長官のようにずっと危惧を抱いている人であれば、危険なことはないが、急に世界情勢を思い知らされて、一気に危機感を煽られた人は何をするか分からない。そのことを分かっていたのもシュルツだけで、シュルツしか分かっていないことがアクアフリーズ王国のその後、そしてチャールズ国王の波乱万丈の人生を大きく左右することになる。

 鎖国とまではいかないが、あまり他の世間との間に結界を作ってしまうと、よくないことの前兆へと突入する契機が生まれることをさすがのシュルツにも分からなかった。

 どこに不幸の種が撒かれているかということを知るのは、それこそ神のみではないだろうか。チャールズもシュルツも、そしてマーガレットもマリアも、王国の未来とは、今までの伝統を継承していくことだと感じていたのだが、それが間違いであるということに最初に気付くのは誰なのだろうか?

 寝室に急に飛び込んできたシュルツ長官は、慌ててはいたが、いつも冷静な雰囲気を崩しているわけではなかった。それをよく分かっているだけに、いさめるようにしているチャールズだったが、それはあくまでもまわりの人に対してのポーズでしかなかった。

 チャールズ国王は時計を見ると、時間的には起きていても別に問題のない時間だった。午前九時を回っていたし、王宮はいつものような毎日が始まっていた。

「本当にどうしたんだ?」

 というチャールズに、恐縮しながらシュルツは答えた。

「隣国のグレートバリア帝国ですが、先ほど速報が入りまして、どうやらクーデターが起こったようです」

 チャールズの表情はこわばった。

 隣国のグレートバリア帝国はアクアフリーズ王国と親密な関係にあり、クーデターなどという話を聞くと、完全に他人事ではないからだ。

「それでどうしたんだ?」

「我が国に対しては何もありませんので今のところは問題ございません。どうやら以前から暗躍していた立憲君主を目論む団体が起こしたクーデターのようですので、帝政が崩れるというわけではないようです」

 シュルツが落ち着いているわけが分かった。

「あの国は元々憲法があるはずなので、立憲君主だと思っていたが違ったのかい?」

 とチャールズが聞くと、

「ええ、憲法があって、いくら皇帝であっても憲法に逆らうことはできませんが、ただそれは表向きで、憲法で規定されている皇帝の権利は絶対のものなので、絶対君主と言ってもいい体制でした」

 とシュルツは話した。

「じゃあ、皇帝の地位は安泰だと思っていいのかな?」

「ええ、立憲君主の団体は、皇帝の地位を脅かすわけではなく、皇帝の権利を制限し、改憲によって表も裏も立憲君主の国にしようとしている団体なんです。ただ、その中でも彼らは一枚岩というわけではなく、烏合の衆なので、過激な連中と穏健派とが存在していました」

「なるほど」

「今までは、その二つの存在がうまくバランスを保っていたので、紛争は発生しなかったが、どうやら過激な連中が行動を起こしたようですね」

「それで皇帝は? 確かあそこはネル皇帝ではなかったかな?」

「ええ、そうです。ネル皇帝は宮中で監禁されているようですが、拘束されているというわけではなく、ある程度は自由なようです。元々立憲君主派の連中には、皇帝を滅ぼそうという意思があるわけではありませんからね」

「そうだよな」

 ネル皇帝というのは、チャールズ国王よりも五つ年上だった。何度か宮廷内のパーティで会ったこともあれば、地域連盟会議で一緒になったこともあった。

 親密な会話をしたことはなく、形式的な挨拶にとどまったが、それはお互いに自分たちの立場を分かっていることから、余計なことは口にできないという思いが強かったからだろう。

「チャールズ様は、グレートバリア帝国のことはあまりご存じではなかったでしょうか?」

 隣国ではありながら、あまりグレートバリア帝国のことを詳しく教えられたというわけでもない。そのことを一番分かっているはずのシュルツ長官がこのようなぼかしたような言い方をするのは、何か含みがあるからではないかと、チャールズは感じた。

「ああ、そうだ。あまり知らない。何しろ曖昧にしか教えられていないからね」

 というと、

「どのあたりまでご存じですか?」

 とシュルツが言った。

 どうやら、シュルツとすれば、これを機会にグレートバリア帝国のことを話してくれようとしているのかも知れない。だからチャールズがどれほど知っているかということを確認したいのだろう。中途半端にしか教えられていないのが分かっているので、下手なことを言えば、余計な誤解を招くと考えたのだろう。

「あの国は、昔から我が国とは共存を続けてきて、王家も親戚のような関係にあるような話を聞いていました」

 というと、

「そうですか」

 と軽くシュルツは頷いた。

「そうではないのか?」

 と訊ねると、

「確かにそんな時期もございました。元々我が国とグレートバリア帝国とは同じ国だったのでございます。それがちょっとした兄弟喧嘩が元で大きな戦争に発展し、ついには国家が分断されたんです」

「そうだったんだ」

「チャールズ様は、我が国が国家元首を国王といい、グレートバリア帝国の国家元首を皇帝ということに疑問を感じたことはありませんでしたか?」

 と聞かれて、

「それが当たり前だと思っていたからね。皇帝も国王も同じ地位なんだろうから、別に気にしたことはなかったよ」

 と言った。

 確かに帝王学を勉強した時、国王と皇帝の違いや、その地位について教わったという記憶はない。たぶん、同じものとして教えられたことを何も感じずにスルーしたので記憶に残っていないのであろう。

「実は、この地域でいうところの国王と皇帝とではれっきとした違いが存在するのであります」

 とシュルツは言った。

「どういうことだ?」

「先ほども言いましたが、元々我が国とグレートバリア帝国とは同じ国でした。そこで分裂したんですが、元々の国家は我が国のアクアフリーズ王国で、分断されて新しくできた国家がグレートバリア帝国になります」

 シュルツは淡々と話す。

 シュルツは続けた。

「先ほど兄弟喧嘩と言いましたが、その時の国王が兄である我が国の国王の祖先になります。そして新しく建国された国家の方が弟になり、弟は自分を皇帝と名乗り、建国された国家を帝国としたのです」

「じゃあ、国王は皇帝よりも偉いんだね?」

 というと、

「一概にはそうは言えません。あくまでもこの地域で言われていることを申しているだけでございます。それだけ世界というのは広うございます」

 とシュルツは答えた。

「政府の体制とかはどうなっているんだい?」

 とチャールズが聞くと、

「我が国の国家元首は申すまでもなく国王であるチャールズ様ですが、実際の代表者としては、首相というのが存在します。いわゆる議員内閣制と言われるものですね。お隣のグレートバリア帝国では、皇帝が一番上にいますが、その下に大統領というのが存在します。実は、これは世界でもここだけのことであって、帝政を敷いている国に、大統領がいるというのは他ではありえません」

「どうしてなんだい?」

「大統領というのは、首相よりも力は絶大なんです。軍部を統括したり、閣議に架けなくても大統領命令というものを出すことができて、もちろん憲法の範囲内なんですけどね。そういう意味では大統領制の国は、一種の立憲君主に近いと言ってもいいかも知れません」

 とシュルツは言った。

「じゃあ、グレートバリア帝国は立憲君主ではないと?」

「ええ、皇帝が存在する以上、皇帝の権力は絶対で、ただ、非常事態などでは大統領令を発することができて、大統領令に関しては、皇帝も否定することができません。基本は承認するだけなんです」

「それでも、絶対君主になるのか?」

「ええ、大統領はあくまでも皇帝の下に位置していますからね。大統領といえども、皇帝の命令には逆らえないんですよ」

「うーん。よく分からない政治体制だね」

 とチャールズは答えた。

 それも無理もないことであり、世界のどこを探してもこんなおかしな国家は他にはないだろう。

「だから、今まで反乱も何度となく思っています。でも最後は皇帝の軍隊が出てきて、平定して終わりなんですよ。皇帝の軍隊はあくまでも内政面だけのもので、その主な任務は皇帝の保護なんですよ。国の軍隊は国家防衛の任務についていて、別に大統領の軍隊ではない。皇帝と大統領の内紛になれば、当然強いのは皇帝ということになります」

 とシュルツは言った。

「なるほど、それで国家の安定と平和が保たれているわけなんだな?」

「そういうことです」

「我が国の場合は?」

 というチャールズに対して、

「我が国の場合、軍隊はすべて国王直轄になっていますからね。内政面でも対外面でも国王の意思が優先されます。本当の絶対君主国というわけですね」

 チャールズにも分かっていることだったが、話の流れで再確認したかったのだ。

「でも、どうしてグレートバリア帝国のことを私は教えられたわけではないんだ?」

 この疑問は今に始まったことではなく、以前から感じていたことだ。

 グレートバリア帝国のことは、一応教育は受けていたが、その時は、

「友好的な隣国」

 という存在だと教えられただけだった。

 こうしてクーデターが起こったことで、今まで知らなかったグレートバリア帝国の内情を知るというのも皮肉なことだ。

――知らないなら知らないでもいいことなのに――

 と感じたが、知ってしまうとさらに気になってきた。

「ネル皇帝も大変だったんだな。私のように地位が安泰だというわけではないということだな」

「そういうことになりますね」

「ネル皇帝は、自分が今受けている運命を想像していたんだろうか?」

 とチャールズが言うと、

「分かっていたかも知れませんね。皇帝には任期というものがありませんが、大統領には任期というものがあるんですよ」

「というと?」

「皇帝は、世襲で受け継がれていくものだけど、大統領というのは、国民から選挙で選ばれるものなんです。任期に加えて、その任期を何期続けることができるのかというのも、実は決まっているんですよ」

「それは何で決まっているんだい?」

「憲法で決まっています」

 とシュルツが言ったが、チャールズには憲法という言葉の意味がいまいち分かっていなかった。

 アクアフリーズ王国にも憲法というのは存在する。ただ憲法が司っている権力に王家は入っていない。だから帝王学で学んだこととして、

「国民には憲法という法律があり、それで管理されていますが、王家には王家に伝わっている法律があり、その法律で守られています。王家の法律は、この国のどんな法律よりも上位に存在していますので、絶対ということになります」

 と教えられた。

 今そのことを思い出していたが、

「ところでシュルツ。私は帝王学を学んでいた時に感じていた疑問なんだけど、私はすべてにおいて国民の上にある絶対的な君主だと教えられたが、今までの歴史でクーデターのようなことは起こらなかったんだろうか?」

 というと、

「もちろん、国が分裂してグレートバリア帝国ができた時はクーデターのような感じだったんでしょうね。でもそれ以降では何かあったとは聞いたことがありません」

 というシュルツに、

「それは本当に不思議なんだよね。それだけ王家の力が絶対だったということなのか、それとも、逆らうと滅亡の危機があるのを感じるから、逆らえないのか分からない」

「もちろん、反乱など起こせば、未来永劫その家系は、奴隷として生きることになるだろうからね。それだけ絶対君主の法律は厳しいものなんですよ。恐怖が平和を呼ぶとでも言いましょうか」

 それを聞いて、チャールズは複雑な気持ちになった。

 自分が絶対的な立場でなかったら、こんな複雑な気持ちになることはないだろう。それを思うと、チャールズは隣国で起こったクーデター、そして今まで何も知らなかった自分とを恨むような気分になっていた。

 だが、何も知らないことも一種の罪だと思っているので、これはいい機会なのだと感じた。

 シュルツもチャールズの表情を見ていて、苦虫を噛み潰したような雰囲気に、

――きっと複雑な気持ちでいらっしゃるんだろう?

 と感じていた。

 シュルツは近い将来、この話をすることになると予感していたこともあって、冷静に話すことができたと思ったが、それを受けたチャールズの心境までは、看過することができないように感じた。

 シュルツはチャールズ国王の話を半分に、隣国の情報収集が気になっていた。隣国でクーデターを起こした連中はシュルツとは親交があり、今のままでは、

「知らぬ存ぜぬ」

 というわけにはいかなかった。

 シュルツが危惧を抱いているのは、自分がグレートバリア帝国の軍部と交流が深かったことで、事前に彼らから内密にクーデターを知らされていて、しかも何かの助言を加えたと思われることであった。

 もし、その疑惑を持たれ、国際的な機関からの調査が入り、調査で黒となれば、我が国も平常ではいられない。国際機関の調査団が入り、あることないこと、痛くもない腹を探られることになるだろう。

 国家経営というのは実に微妙な状況を孕んでいることがある。実際には濡れ衣でも、少しでも疑念があれば、

「それは黒だ」

 という目で見られて捜査される。

 最初から白を感じてしまうと、どうしても同情的な目が働いてしまい、公平な判断ができなくなるだろう。国家レベルでの公平な判断というのは、冷静沈着さが一番である。白だという目から入ってしまうと、そこに熱いものが生まれてくる。公平さを欠くとはそういうことなのだ。

 個人レベルでは白から入ったとしても、公平さを欠くとは言い難い。なぜなら、国家レベルでは少なくとも数十万人以上の国民を相手にしているのだ。多数決を取って、同じ賛成反対であったとしても、人それぞれで微妙に意見は違うはずだ。それを一人一人考慮していては、結論など永遠に出るはずもない。

 絶対君主の国ではあるが、個人レベルでの紛争は、公明性大を基本とし、裁判はもちろん、民間での調停組織なども存在している。絶対君主の国というのは外から見るのと、中とではかなり違っていることも往々にしてあるようだ。

 ただ、アクアフリーズ王国内に存在している諜報機関は、国際レベルで見ても、最優秀レベルと言ってもいいだろう。クーデターはもちろんのこと、他の国との密約なども、針の穴を通すかのような正確性がなければ成功することはない。

 もし見つかれば、極刑に処せられることは当然で、本人だけではなく、家族親類に至るまで処刑されるという思い罪であった。何しろ犯罪レベルは国家反逆罪となるのだから当然と言えば当然のことであり、これはアクアフリーズ王国に限ったことではない。

 シュルツ長官がクーデターなどなかったと言い切るのは、それだけの国家体制が盤石であることを示しているので、シュルツ長官とすれば、胸を張って言えることであったに違いない。

 それだけ強固で鉄板な組織を有しているのに、なぜシュルツ長官は他の国からの監査を気にしているのだろう?

 確かにアクアフリーズ王国は、分裂してからというもの、国際機関に入られたことは一度もなかった。それだけ国際社会からも信用されていたと言えるのだろうが、それも国内の諜報機関というのが、他国に侵入しているわけではないということが証明されていたからだ。

「我が国は他国を侵略する意思はまったくない」

 ということを、過去からずっと宣言していて、数百年前から永世中立国として君臨していた。

 ただ、国防という目的から軍隊は保有していて、重大な国際紛争が持ち上がった時、国際連合軍を組織することがあったが、その時は自国軍を派遣することはあった。当然、依頼があっての派遣なので、永世中立国としての尊厳を保ったままであった。

「絶対君主というのは、ぞの大前提に平和を目指すということがあってこそなんだよな」

 とシュルツに聞いたことがあった。

「もちろんそうでございます。永世中立国としての我が国は、軍隊はあくまでも国防ということに従事しております。ただ、国際社会の平和を乱す国家を懲らしめて世界平和を目指すために組織される国際連合軍に参加することは、ひいては最終的な国防に繋がると思っております。いわゆる『攻めこそ、最大の防御』ということでしょうか?」

 というシュルツに、

「その言葉は聞いたことがあったが、我が国の精神にはそぐわないものだとずっと思っていたんだ。平和主義の我が国で、どうして攻めという言葉が出てくるのかってね」

 とチャールズ国王は聞いた。

「言葉というのは、時として同じ言葉でも正反対のことを示すことがあります。それはあくまでも背中合わせという意味でお考えいただければいいと思っておりますが、チャールズ様はウスウスお気づきではないかと思っております」

 というシュルツに対して、

「私は、長所と短所という言葉を考えた時、正反対でありながら、その実は背中合わせではないかと思っているんだ。実際に教育を受けた時にも、似たような話をしてくれた先生がいたような気がするんだ。ハッキリとした言葉では言わなかったんだけど」

 とチャールズは答えた。

「そうでございましょう」

 とシュルツは答えたが、よく考えればチャールズは教育を受けていた時、そのほとんどが曖昧な言葉で終始していたように思えた。それをチャールズは、

――私に考えさせようという意思が働いているんだろうな――

 と感じていたが、その考えに間違いはなかった。

 シュルツは続けた。

「もう一つ考え方としてですが、チャールズ様は自分の前後、あるいは左右に鏡をそれぞれ置いた時、その鏡には何が写るとお考えですか?」

 チャールズは少し考えてから、

「自分の姿が無限に映し出されるんじゃないか?」

 と答えた。

 チャールズは本当は即答できるだけの想像力を持っていて、実際に答えたことをすぐに想像できていたが、敢えて間を取って答えた。

「その通りですね。でも、映し出された自分の姿はどんどん小さくなっていって、最後には見えなくなってしまうでしょうね。それでも無限だと言い切れますか?」

 と言って、シュルツは少し笑った。

「私は言えると思っている。どんなに小さくなろうが消えるわけではないのだから、無限という言葉を否定することはできないと思うんだ」

 というと、

「その通りです。つまりは、『限りなく小さくなった自分』がそこに存在しているんです。それは消えてなくなるものではないんです。それをなくなってしまうという勘違いをしてしまうと、長所と短所が紙一重だという考えに永遠に行き着かないと思いますよ」

 とシュルツは言った。

 チャールズはその理屈は分かった気がしたが、なぜ今シュルツがそのことを自分に言うのか分からなかった。

 今は分かっているような気になっているが、本当の真髄までは分かっていないのかも知れない。その真髄を分かる時がくれば、その時こそ本当に自分が国家元首として平和を目指すアクアフリーズ国の国王として君臨できるのではないかと思うのだった。

 チャールズはシュルツのことを全面的に信頼していて、尊敬もしている。国王になってからも一番の側近として彼を絶えず自分のそばに置いているのも当たり前だと言えるだろう。

 シュルツも、そんなチャールズの気持ちを痛いほど分かっている。実際に先代国王からも寵愛され、遣えてきたことが、今役立っているということを分かっているからだ。

 シュルツ長官は、今でこそ肩書きとしては軍部の総元締めのようになっているが、それはあくまでも兼任というべきで、実際には国王の相談役としての存在が大きいのだった。

 そのことは他国には秘密主義のアクアフリーズ王国の中でもあからさまに表に出していることで、

「我が国の秘密主義はあくまでも平和主義を貫くためのものなので、平和を脅かさないことは表に出しても差し支えない」

 と、チャールズも教育を受けていた。

 だが、そんな平和主義を公然と宣言しているアクアフリーズ王国であるが、世界の中にはこの国を、

「胡散臭い国」

 として見ているところもあった。

 そのほとんどは国家としてはまだまだ後進国で、文明という言葉とは縁遠い国が多かった。

 王国として君臨している国で、先進国と呼ばれるのは実際には我が国だけだった。他の国は自国の産業が世界一であることから繁栄を保たれていて、逆に言えば、唯一の力だけで存在しているようなものである。そんな国が先進国に仲間入りできるはずもなく、そういう意味では我が国は世界の王国の中でもモデルとされるべき地位にいる国と言えるのではないだろうか。

 ただ、それは国家としての秩序を理解している国にだから言えることで、昔からの伝統に固執していて、他の先進国の文明を受け入れる姿勢のない国には、孤立という道しか残っていない。そのため、同じ体制でありながら、他の国の文明を受け入れて繁栄している国を見ると、嫉妬ややっかみから、胡散臭い国としての認識しか見えてこないのも当然と言えるだろう。

 かと言って、一つの国家にはいろいろな人がいる。絶対王制のこの国を、独裁国家としてしか思えない人も少なくはない。どんなに国家の繁栄を尽くそうとも、個人個人に起こる貧富の差であったり、差別的な状況であったりは、避けて通ることのできないものである。

 しかも、そんな彼らを国家では監視するシステムが出来上がっている。クーデターが起こらないように見張っているのだが、見張られている方も自分たちが見張られていることを分かっているので、さらに固執してしまうのは当然のことだ。

 シュルツは表向きは軍部の総元締めという立場であるが、裏の組織も統括していた。むしろ裏の組織の統括の方が難しい。表には出してはいけないものだからだ。

 この組織に関しては、国王の感知するところではない。むしろ国王も知らない組織が存在していると言ってもいいだろう。ただ、裏組織の存在自体は国王にも話をしているが、その本当の存在意義を知っているのは、国王を含まない本当に限られた人だけだった。

 そういう意味では本当の絶対王制の国というわけではないが、世界に歴史上存在していた絶対王政の国というのは、類に漏れることなく、国王も知らない秘密組織が存在していたということは、最近の歴史学から証明されようとしていた。

 最初はシュルツはこの事実が気になっていた。

 国王も知らない組織の存在は絶対に知られてはいけないのに、歴史で公表されてしまってはせっかくの秘密組織の意味がなくなってしまう。

 だが、歴史学者はそのことを証明するという活動はしていたが、公にするということはしなかった。

「これを公表するということは、世界平和を風前のともしびにしてしまうだけの力があることなのかも知れませんからね」

 と、一人の歴史学者がシュルツに話した。

 彼はアクアフリーズ王国に秘密組織があることを看過していて、知っていて誰にも話をしなかった。ただ事実を確かめたいという一心で、シュルツに対談を申し込んできた。

 彼は死を覚悟していたのかも知れない。

 もし、シュルツが秘密組織の存在を誰であろうと知られてしまうことを恐れているのであれば、学者は殺されても仕方がない状態である。

「もし、私があなたの立場だったら、その学者を殺すという選択をしたかも知れないですね」

 と、シュルツが自分に危害を加えないということを確信した時、シュルツに語った。

「あなたならそういうと思っていましたよ。だから私はあなたに危害を加えるつもりはありません。あなたが我が国の秘密を話すということは百パーセントないと私は思っていますからね」

 というシュルツに対し、

「どうして百パーセントなどと言えるんですか? 百パーセントなどというのは軽々しく口にできるものではないと思いますが」

 と学者が答えると、

「あなたは長所と短所が背中合わせであることと、鏡を左右、あるいは前後に置いた時、映し出される自分の姿を無限だと言い切れる人のように思ったからです。そういう考えの人であれば、私は百パーセントを公言してもいいと思っているんですよ」

 というシュルツに対し、

「私にはよく分かりません」

 と正直に答えると、

「そう、そのあなたの正直さが私に百パーセントを悟らせるんですよ」

 と言われた。

「なるほど、私はよほどの相手ではないと、本当に正直になれないと思っていますからね。それが長官であるということは私にとっていいことだと思えてきましたよ」

「それはありがとう。私はあなたの考え方の中に入ることができると思っていますからね。言わなくても分かる相手というのは、そうはいませんからね」

 というシュルツの言葉に、学者は何度も頷いた。

――この人は政治家であり、人徳者でもあるんだ。こんな人が国家元首のそばにいて、そして秘密組織を指揮しているんだったら、この国こそ理想の国家を形成できるのではないかと思える――

 と感じていた。

 学者は、シュルツの言った百パーセントという言葉の本当の意味は、自分には永遠に分からないと思いながらも、シュルツへの信頼度が自分の中で百パーセントになっているという矛盾を感じていたのだ。

 それから一か月の間にグレートバリア国のクーデターは沈静化していた。反乱軍は国のほとんどの土地を制圧し、声明を他国宛に発表していた。

 内容として、クーデターの主旨は、現在の帝政から立憲君主制の国への転換だった。いきなりの共和制を敷くというわけではないので、それほど難しいことではないかと思えたが、立憲君主制ということなので、少なくとも憲法は必要だった。

 グレートバリア国には憲法は存在しない。それぞれの私法としての民事、刑事、その他の法律はあくまでも君主である皇帝の承認の元に構成されることになっていた。

 さすがにすべての訴訟や紛争を、皇帝自らすべてを裁可できるわけではないので、皇室内に裁定のための司法機関が存在した。つまりは皇室がすべての法律を司っていて、臣民の権利義務はすべて皇室の配下にしか成り立たないのだった。

 アクアフリーズ王国をはじめとした他の国も、グレートバリア国には憲法が存在し、憲法の元での君主だと思っていただけに、その話を聞いてびっくりした。

「そんなまさか。私の情報とはかなり違っています」

 と、シュルツも焦っていた。

 シュルツを焦らせるほど、グレートバリア国は今までダークな部分が完璧だったということになるのだが、そのせいもあってか、国際社会は最初反乱軍を悪として見ていたが、クーデターの発表声明を見て、ほとんどの国が反乱軍に同情的になった。

「それなら仕方がないですね」

 反乱が起こってから、国際社会の間で開かれた会議は数回を数えたが、その会議では具体的な善後策が話し合われたわけではなかった。時間だけが無駄に進んでしまい、時間の経過を各国首脳が感じている以上、泥沼に入ってきていることを皆が自覚してしまっていたので、結論が出るはずもなかった。

 しかし、声明文の発表を見て、善後策のきっかけが話し合われるのではないかと感じた国は一つや二つではなかっただろう。

 声明文は主旨の後に、具体的な内容も書かれていた。

 皇帝を処刑する日を具体的に列記していた。

 失効日は二か月後の革命開始の日であり、その日を持って、グレートバリア帝国の滅亡を宣言すると書かれていた。

 新しい国名は、それまでに決めるとも書かれていて、君主とどのようにするかというのも現在検討中ということだった。

 だが、案として挙がっていることとして、大統領制は敷かないというもので、議院内閣制を敷くことで、必然的に国家元首を首相に委ねることになるという。

 首相を国家元首として置く国は、そのほとんどが共和制を敷いているのだが、首相が国家元首での立憲君主制というのもありではないかと声明文では謳っていた。

 アクアフリーズ国内の政治学の専門家も、

「国家の体制としては、今までにほとんどなかったケースですね。でもなかったわけではないんです。実際に存在していて、過去には平和を築いたという例もあるくらいです。共和制というのは聞こえはいいですが、自由というのはそれだけいろいろなパターンを秘めていて、権利が義務を凌駕してしまうと、貧富の差が激しくなったり、一部の人間が得をするという世界が形成されます。そうなると、平和というのは風前のともしびになってしまうことが往々にしてあります。それが民主制、共和制の脆いところでもあるんです。そういう意味で、あの国がどのような政治運営を行うか、興味深いところですね」

 と話をしていた。

 実際にそれから数か月で、グレートバリア国の水面下では他国にいろいろ交渉を行っていて、着実に成果を上げていた。

 それは、今までの君主に搾取されていたという反乱軍に好意的な国家が多かったということで、秘密主義にしていた皇帝側にとって、まったく予期もしていなかった展開であろう。

 もちろん、我が国にも反乱軍からの接触はあった。国王自ら彼らに会って話もした。だが、チャールズもシュルツも反乱軍に対して好意的なイメージは持っていなかった。あくまでも武力で国家を転覆させたというイメージが強いからだ。やってきた交渉相手もそれくらいは分かっていたかも知れないが、他の国の反応が完全に頭の中にあって、我が国も決して敵対する相手には見えなかったことだろう。

 彼らは他の国同様の要求を他の国にしたのと同じように済ませていった。それは完全に形式的なことで、受ける方からすれば、茶番にしか見えなかった。そこまで彼らは見えていなかったことが、チャールズとシュルツには滑稽に思えた。だが、これからのことを思うと滑稽に感じているだけではいけない。

「明日は我が身」

 だということを、認識しなければいけなかったからだ。

 日にちが経つのは早いもの。あっという間にクーデターから三か月が経ち、彼らの生命通りに刑の執行が行われた。弁護人の有無はおろか、裁判すらまともに行われずの執行、反乱軍にもはや法律の概念などあるのだろうか?

 憲法の草案も着々と組み立てられているようだったが、それよりも急速に進んでいる時間に、反乱軍はどう感じていただろう。

 刑の執行が終わって、今はこの国は中途半端だ。国家元首不在で、しかも国家が滅亡しただけで、新たな国を建国したわけではない。どうやら最初に考えていたよりも時間の経過は相当早かったようで、刑の執行からしばらくは新しい展開が起こることはなかった。国家の新体制が決まって、世界に声明を出すまでに刑の執行から半年近くかかってしまっていた。

 国名は、

「アレキサンダー国」

 と命名された。

 アレキサンダーとは、その国の先祖に存在した英雄の名前で、彼は君主でありながら、帝政を敷いていたわけではなかった。ただ、在籍年数も少なく、後継者がいなかったことから、あまり歴史的な資料は残っていない。それだけに伝説としてはいろいろ諸説残っていて、それが新国家に対して都合よく作用したのだった。

 国の体制は、まだ決まっていなかった。目標は立憲君主と掲げているが、肝心の憲法がまだ制定されていない。

 他の法律も形成されておらず、っすべてが最初からで、時間をかけていいのであれば、いいものができるのだろうが、私法に関しては存在していることから、憲法との矛盾が発生しないようにしないといけない。帝政ではなくなったので、当然私法の修正も必要になってくるが、君主制ということを謳っているので、私法の修正に関してはさほど大きな問題にはならないだろう。そういう意味で立憲君主制を謳ったのは正解だったのかも知れない。

 アレキサンダー国の目指すのは、昔に存在したと言われている立憲君主の首相が国家元首だった国だった。資料としては莫大なものが残っていたが、莫大すぎて、情報が錯綜したり、相反するものもあったりして、解釈にはかなりの時間が掛かった。もちろん、すべてをマネするわけにはいかない。なぜなら、当時の社会情勢と今とでは違っているからだったが、それ以上に目指すものが明確になっていない自国に当て嵌めるには、かなり無理な部分も読み込んでいくうちに露呈していたからだ。

 それでも、憲法草案は何とか出来上がった。政治体制もそれに並行して決まっていき、憲法制定と、政治体制がうまく噛み合ってきたのは、アレキサンダー国としてはありがたいことだった。

 そのため、憲法の発布から公布まで、そして新体制の発表とスムーズに行われ、対外的にも大々的に宣伝して、建国ムードを大いに盛り上げていた。

 複雑だったのは、ちゃーるぞとシュルツを始めとしたアクアフリーズ国の首脳たちだった。

 隣国とはあまり交流がなかったが、それでも絶対王制と、帝政国家としての交流は、友好的だったと言えなくもない。それぞれの家系も、親戚だったりするので、そのあたりも心情的なものを考えても、大きなトラブルが起こることはなかった。お互いに友好国としての位置づけでもよかったくらいだ。

 だが、その隣国でクーデターが起こり、まったく違った体制が出来上がった。前の国は完全に滅亡し、別の国家がそこにあったのだ。

 外交的には、彼らにとって有利な条約はそのまま継承されていったが、少しでも不利な条約は破棄できるように国際社会に働きかけていた。何しろそれまでと国家の体制が違っているのだから、その主張ももっともなことだが、かつての不平等条約の撤廃までは、なかなかうまく行かなかった。

 その矛先が向けられたのは、我が国だった。

 彼らから見れば世界の列強にはまだまだ程遠い、発展途上の国だということは把握していたのだろう。我が国だって同じようなものだ。だから、我が国も隣国も相手によってはまだ不平等条約を押し付けられているという負い目もあった。

 我が国も隣国も、君主制というものを採用していたので、他国との条約では、まず最優先されるのは、自国の体制の保障だった。

 その次に自国の権益の保障だったり、貿易や経済だったり、相互安全保障の問題だったりと、他の国の条約締結と同様の内容が規定されていた。

 そういう意味では、強大国に従う両国は、強大国から見れば、似たり寄ったりの国家だったのだ。

 ある意味では、

「どうでもいい国の一つ」

 として数えられていたかも知れない。

 しかし、隣国はそんな中でクーデターを決行し、帝政を立憲君主の国に生まれ変わらせたのだ。他の国から見れば、

「見直した」

 と思われても当然のことに違いない。

「大丈夫か?」

 チャールズは、隣国でクーデターが起こってからのシュルツの苦悩を近くで見ているので、自分もどんどんネガティブな気持ちになってくるのが分かっていた。

 心配して声を掛けているのだって、彼に気を遣っているわけではなく、自分に言い聞かせていると言った方がいいくらいで、シュルツも、

「ええ、大丈夫です」

 と一言言い返すのが精いっぱいだった。

――シュルツ長官は何をそんなに危惧しているのだろう?

 チャールズは、シュルツがここまで長期にわたって思い悩んでいる姿を見たことがなかった。

――ひょっとして、アレキサンダー国から、秘密裏に何かを言われていて、それを公にできないことで悩んでいるんじゃないか?

 とチャールズは考えたが、その考えは半分当たっていたが、半分外れていた。

 確かにアレキサンダー国から秘密裏に交渉されていたが、それは直接我が国に対して危害を及ぼすものではなかった。ただ、シュルツはそれよりも我が国におけるこれからの体制に危惧を抱いていた。それは漠然としたものであり、具体的なイメージが湧いているわけではない。それがシュルツを悩ませていた。

 今までは何もないところから組み立てていく場合、理路騒然とした考え方から、どんどん組み立てられていたが、今回は最初から浮かんでくるものがなかったのだ。

――私は、最初にうまく行かなければ、ここまで発想が空転してしまうことになるというのを初めて気付いた気がする――

 とシュルツは思った。

 これまで順風満帆、どんなに危機に見舞われても、自分が真剣に考えればそこから先、危機を乗り越えることはそれほど困難なことではないと思っていた。

 それなのに、まったく何も浮かんでこない頭の中はいつまで経っても暗黒のトンネルの中にいて、どこから生まれるのか、発想というものが生まれるものなのかという根本的なことに疑問を感じた。

 小学生が、算数の基礎である、

「一たす一は二」

 だという当たり前のことを何の疑問もなくクリアできれば、そこから先は算数に対して恐怖を感じることはないだろう。

 しかし、最初に疑問を持ってしまうと、そこから先、まったく進まなくなってしまう。どれだけ年を取っても算数から数学はおろか、四則演算すらまともに理解できない状態になってしまう。

 それと自分は同じなのではないかと、シュルツは感じていた。

 シュルツは、実は自分が算数で最初の段階で疑問に感じたのを覚えていた。疑問に感じてはいたが、なぜかクリアできた。それがどうしてなのか分からなかったが、後になって思えば自分が王家の中に入り、国家運営のトップに上り詰めることができたのは、この時のクリアが大きく影響していると思っていた。

――それがまさか、今になって幼少期の思いがよみがえってくることになるなんて考えてもみなかった――

 と思っていたのだ。

 シュルツは思い悩んでいたが、その悩みのほとんどは、この時の算数の四則演算への思いだった。

 だから発想が表に出ることもなく、最初の段階で堂々巡りを繰り返し、そして迷路に入り込んでしまっていたのだ。

 それを見ているチャールズも、シュルツの悩みは目の前のことだけではないということは察知していたが、まさかそれが幼少期の頃の発想に至っているなど思ってもいなかった。だが、チャールズにも同じような思いをしたことがかつてあった。その時はシュルツに看過されて、一言シュルツに言われたことで解決したのだが、肝心のその時の言葉をチャールズは忘れてしまっていた。

――何て声を掛けてあげればいいんだ――

 という思いを抱いたまま、どれほどの時間が掛かったことか。

 チャールズはシュルツを見ているのが辛かったが、それはまるで我が身のように感じられることだったので、それが一番の危惧だったのだ。

 シュルツ長官の不安をよそに、アレキサンダー国は着々と国家としての体裁を整えていった。憲法の制定も同じ立憲君主の国から顧問団を招き入れて、憲法審査会を開き、憲法草案に躍起になっていた。その間外交的にはおとなしくしていたが、そのことが周辺国の将来を招くことになるのを、どの国も予想していなかった。

 憲法草案はことのほか問題なく行われ、気が付けば憲法は公布されていた。立憲君主なので憲法の範囲内での君主制と言っても、君主の力は絶大だった。軍の統制はもちろんのこと、議会にまで口出しができるように制定されている。他の立憲君主の国では、軍隊の直轄統治はありえることだが、議会にまで口出しができるほどの権力を有しているわけではない。アレキサンダー国は独裁国家への道を歩み始めていたようだ。

 憲法公布が行われ、君主の権力が確立したことで、アレキサンダー国の体制がハッキリとしてきた。それまで静観していた周辺国も、これでアレキサンダー国とどのように接すればいいのか、ある程度決まってくるというものだ。そういう意味ではアレキサンダー国と同盟を結ぶ国は最初はほとんどおらず、孤立したかのように見えたが、それくらいはアレキサンダー国としても分かっていた。元々軍事的には世界的にも上位に位置していたアレキサンダー国なので、ここから先は軍事力を背景に、まわりの国への侵略を開始することは明らかだった。

 狙われたのは、国土は小さいが、その地下に埋蔵されている資源は無限にあるのではないかと言われている国だった。国土が狭いわりには豊かな国で、国民のほとんどは富豪と言われる人たちだった。

 彼らは金にものを言わせて、国家とは別に私設軍隊を持っている人が多く、いざ侵略を受けると、施設軍隊は協力して事に当たる。アレキサンダー国の侵略を受けた時もそうだったが、甘く見ていた侵略軍は早々に各方面で撃破されていた。

 元々、侵略された側の国としても、手をこまねいて侵略を受けるのを待っていたわけではない。侵略を受けても撃破できるように周辺国に根回しをして、兵器の購入や、いざとなったら義勇軍を組織して手助けをしてもらえるように交渉していた。もちろん、それに伴う見返りを用意したうえでのことで、それはすべてが秘密裏に行われた。だから周辺国のどの国も、

「我が国だけに優遇してくれた交渉で、他の国に対して出し抜けた」

 と思っていたが、実際には小国に見事に踊らされていただけだった。

 実際に侵略を受けて、初めて協力していた国もそのことに気付いたが、だからと言って自分たちが損をしているわけではない。実際に侵略を受けることで物資は小国に流れ、その恩恵は得られているからだ。

 しかも、最初に侵略されたのが自国ではなかったことは彼らにとって幸いだった。小国が最初のモデルケースとなってくれたおかげで、その戦争を教訓に、自分たちは侵略を受けることへお防御を考えることができる。これは何事にも代えがたいことである。実際に侵略を受ける前に、このままアレキサンダー国を滅ぼすことができれば一番いいのだが、滅ぼすことができなくても、ノウハウはしっかりといただける。

「転んでもただでは起きないとはこのことだ」

 と周辺各国はそう思ったに違いない。

 小国への侵略はことのほかてこずったが、何とか侵攻して二か月後には平定することができた。ただそれにはアレキサンダー国だけの力ではなかった。

 アレキサンダー国は周辺国ではないが、少し離れたところに位置している強大国と手を結んでいた。奇しくも同じ体制のその国は、この地域の紛争に最初は介入するつもりはなく、早々と中立を宣言していた。

 まだ紛争が起こる前から、

「我が国は、アレキサンダー国の侵略に対し、我が国の権益を侵されることのない戦争に介入する意図はない」

 と宣言していたのである。

 アレキサンダー国の侵攻はまさに電光石火だった。宣戦布告が行われたわけではない。侵略された小国も、宣戦布告をしていない。宣戦布告をしない国同士が戦争するのは、国際法で禁止されているわけではない。実際に宣戦布告のない戦争も、数多く存在した。

 宣戦布告をするということは、まわりの国に自国の戦争を正当化する意味もあるが、それ以上にまわりの国にとって、どちらに味方する、あるいは中立を宣言するという意思表示を必要とされる。

 つまり宣戦布告をしない方が、周辺諸国は自由に立ち振る舞うことができ、裏で秘密裏に資源の補給や、同盟を結ぶこともできる。中立を宣言されてしまうと、その時点から、どちらに対しても資源を供給することができなくなるのだ。

 もちろん、必要最低限の取引はできるが、戦争継続には程遠いもので、あてにしている国に中立を宣言されると、その時点で戦争は半ば配線を覚悟しなければいけなくなる。それを両国は恐れたのだ。

 シュルツの危惧はまさにそこにあった。

 アレキサンダー国の内情を見れば、いずれどこかの国に侵攻するのは明らかだった。しかもターゲットになる国もある程度絞り込むこともできた。シュルツ長官にすれば、この侵攻は最初から計算のうちだったのだ。

「いずれは我が国へ侵攻してくるだろう」

 というのは、最初に小国に侵攻したことが想像していた通りだったことで、かなりの確率で我が国に侵攻してくることを確信していた。

「今のままならまだアレキサンダー国を相手にしても十分に勝機はあるが、このまま侵攻を続けて侵略が大規模になってくると、それを抑えることができなくなるに違いない」

 とシュルツ長官は考えていた。

 シュルツは、その危惧を誰にも言わなかった。

 だが、彼の様子は誰が見ても悩んでいることは明らかだったし、いつも一緒にいるチャールズには分かり切っていたことだった。

 しかも、アレキサンダー国が強大国と同盟を結んだことが明らかになったことでシュルツは自分が完全に出遅れてしまったことを悟ったのだ。

 小国の攻略に戸惑っていたアレキサンダー国を見ていて、

「これなら侵攻を止めることができるのではないか?」

 と、世界各国が思うようになったその時、同盟を結んだ強大国がいきなり小国へ侵攻したのだ。

 アレキサンダー国だけなら何とかなったかも知れないと思っていた小国首脳だったが、さすがに強大国の侵攻による二方向作戦には明らかな無理があった。

「もはやこれまで」

 と、小国の陸軍参謀部長は、その責任を感じて、自害した。

 ここに小国の運命は決したのである。アレキサンダー国と強大国の二国で小国は分断され、それぞれで統治されることになった。

「これがアレキサンダー国の狙いなのかも知れない」

 とシュルツは感じたが、その言葉を聞いた人には、彼の本意は分からなかった。

 アレキサンダー国の脅威はそのまま世界各国の政治的分割に繋がり、主義主張によって、世界は完全に二分された。そのことをシュルツは、

「アレキサンダー国の狙い」

 だと思ったようだった。

 元々アレキサンダー国は、同盟を結んだ強大国とは政治体制が異なるものだった。そういう意味ではこの二国間の同盟は、他の国から見れば完全に、

「寝耳に水」

 だったのだ。

 それを知らされると、他の国のほとんどは脅威に感じていた。

――自分の国が狙われるのではないか?

 という思いが現実味を帯びてきたからだ。

 最初は、建国して間もないアレキサンダー国に何ができるというのかとタカを括っていた。一応、他国との同盟までは考えの中にあったが、今のところアレキサンダー国と同盟を結んで利を得る国は存在しないと思われていたので安心だったのだが、まさか政治体制の異なる国と同盟を結ぶなど、考えてもいなかったからだ。

 長い歴史の中でも、昨日までお互いに敵対していた国といきなり同盟を結ぶなどなかったことだ。あくまでも同盟と言っても、小国を屈服させるためだけに結ばれた応急的な同盟であり、基本はお互いに敵対していることだろう。

 この二国は、同盟を結ぶ直前まではお互いに仮想敵国として思い描いていた相手だった。それだけに同盟が形だけのものであることは分かっていたが、どちらがキツネでどちらがタヌキなのか、ハッキリとしないところが不気味だった。

 アレキサンダー国の国家元首がそこまで頭がいいとは思えない。誰か側近の入れ知恵なのだろうが、そう考えると、またアレキサンダー国でクーデターが起こらないとも限らない。

――ひょっとすると、戦争を仕掛けるのは、クーデターを起こす隙を与えないための内省的な問題が大きいのではないか?

 とシュルツは考えていた。

 もちろん、その考えは少なくとも最初から考えていた。だが、そこまで大きな影響を与える発想だとは思っていなかっただけにこの二国の同盟は不気味だったのだ。

 完全に意表を突かれた。確かに誰もが想像もつかなかったことであろうが、シュルツにはそんな自分が訝しく感じられた。

 この二国間の同盟の表向きの考えは、この小国の一部が、昔強大国の植民地だったというのも大きな理由であるが、ここには重要な軍港が存在し、軍港を抑えることで、自国の安全保障上、大きな影響があることは否めなかった。

 小国はあっという間に、この二国の侵略を受け、分割されてそれぞれの国に編入されることになった。小国はあっという間に世界の地図上から消えてしまったのだ。

「明日は我が身だ」

 と感じた国も少なくないだろう。

 特に小国に国境を接している国は、気が気ではない。

「次は我が国が侵略を受ける」

 と思うと、早いうちから他の国に援助を申し出ていたが、他の国は援助は仕方ないが、兵を出したり、同盟を結んで、戦争を遂行することはできないとしてかなり消極的な対応だった。

 そのため、アレキサンダー国の快進撃は目に見えて早くなってきた。

 何かに取りつかれたように侵略を重ねるアレキサンダー国。アクアフリーズ王国もそれなりに対策を考えないと、容易に侵略を許してしまう。

 だが、アレキサンダー国はなぜかアクアフリーズ国を攻めてこなかった。まわりの国を固められて逃げることができなくされて、一気呵成に侵略を済ませるつもりではないかと思えた。

 シュルツのその考えは当たっていた。

 アクアフリーズ国と同盟を結んでいたほとんどの国は、すでにアレキサンダー国の侵略を受け、我が国との同盟を破棄させられ、さらにアレキサンダー国と新たな同盟を結ばされた。

 最初はさすがに抵抗していた国も次第に抵抗が和らいで、アレキサンダー国に逆らうことは自国の滅亡を意味するということを思い知らされるようになっていったのだ。

 アレキサンダー国の国家元首は、チャールズの親戚筋であった。

 今から思い出せば、チャールズの父親が国王だった時、アレキサンダー国の国家元首の父親が窮地に陥った自国での立場回復のため、援助を申し入れてきたが、チャールズの父親は断った。

「これは内政干渉になってしまう」

 というのが建前で、本音がどこにあったのか、チャールズには分からなかった。

――もしかしたら、シュルツには分かっていたのかも知れない――

 とチャールズは思った。

 シュルツは先代から遣えている。海千山千の長官だった。

 シュルツはその時のことが鮮明に思い出されて、恐怖に感じていた。

――これは復讐だ――

 ということである。

 だが、これをチャールズに話そうとは思わない。話したからと言って、どうなるものでもない。不安を煽るだけではないか。シュルツはチャールズの気持ちを思うあまり、このことを口外しないように努めた。

 そんなシュルツの思いとは裏腹に、それまで何でも話してくれていたシュルツの気持ちを計り知ることができなくなってしまったチャールズは、このままどうしていいのか途方に暮れていた。

 こんな時に相談していた当の本人のことで悩んでいるのである。他に相談できる人がいるはずもない。

――考えてみれば、私は今までシュルツだけを信じて、シュルツ以外の人を見てこなかったんだ――

 それがいいのか悪いことなのか分からなかったが、招いてしまったのは自分であり、シュルツに罪はないと思った。

――そういえば、父はシュルツのいうことだけを聞いていればいいと言っていたっけ――

 というのを思い出すと、父を恨みたくなる気分にさせられた。

 だが、そんな父ですら完全に信用しているシュルツだけに、悩んでいる姿を見ると不安しか残らない。

――私はどうしたらいいんだ?

 チャールズはそう思うと、シュルツの顔を見るのが怖くなった。

 完全にアクアフリーズ王国は、機能を失いかけていた。

 実はこれがアレキサンダー国の狙いだった。一気に攻めてくることはなく、じわじわと攻めてくることで我が国の頭脳であるシュルツの力を封じたのだ。これほどの戦略はないだろう。

 だが、アレキサンダー国は時間を使いすぎた。シュルツを封じてしまったことで安心しきってしまったからなのかも知れない。シュルツという男が落ち込んだことがないので、その立ち振る舞いは未知数だが、彼を知っているという意味では、圧倒的にチャールズの方が上である。そのことが落とし穴となって、アレキサンダー国に対して、一矢を報いることができそうだった。

 だが、災いの元は表というよりも内部にあった。それまでアレキサンダー国の状況を黙って見ていた軍部がクーデターを起こしたのだ。これについてはシュルツの想像通りだったようだ。シュルツが悩んでいたのは、実は内紛に対しての心配で、そういう意味では最悪の結果を迎えたと言っても過言ではない。

 内紛ということになれば、それを鎮圧するためには内戦が必要になってくる。アクアフリーズ王国の軍部は、一糸乱れぬ統制が売りであり、その規律を徹底させたのがシュルツだった。元々さほど強力ではなかった軍隊を他の国とそん色ないほどに作りあげた功績は自他ともに認めるものだった。

 アクアフリーズ王国は、ここ数百年、戦争に参加したことはない。内紛もなければクーデターもなかった。周辺諸国に戦争が起こっても、すべて中立を宣言していた。永世中立国なのだから当たり前のことだが、そのため軍隊の存在を不要だという説まで流れたくらいだ。

 しかし、いくら永世中立とはいえ、いざ戦争が周辺で勃発すると、まったく無視をすることはできない。不可抗力で戦争に巻き込まれるかも知れない。その時に自国を守れるのは、やはり自軍でしかないのだ。他の国は自分の国の権益を守るだけで必至だ。他の国のことを考えている余裕などない。永世中立国というのは平和の象徴のように思われるが、孤立した国だという認識を持つ必要がある。

 ただ、永世中立国の軍隊はあくまでも専守防衛、守るだけに専念しなければいけない。侵略などはもっとの他ではあるが、それでも自分の身は自分で守るしかないのだ。

「陛下、陛下はこの国において、専守防衛とはどういうことだとお考えですか?」

 と、陸軍大臣に聞かれたことがあった、

「それは、守りに徹した軍隊でなければいけないということではないのかな?」

 と答えると、

「確かにそうですが、もし周辺国で自国に対しての侵略の傾向があることが判明していれば、こちらから先制攻撃を仕掛けることはできるんです。防衛のための攻撃を許しているのも国際法なんですよ」

 という答えが返ってきた。

 しかし、その横からシュルツ長官が、

「ただ、それも条約に明記されたことが必要なんです。慣習だけで動くのは危険な場合があります。だから、我が国が結ぶ条約には、軍の規定として専守防衛のための先制攻撃を容認するという規定が必要になってきます」

 と付け加えた。

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