半径1メートルの世界

天野和希

プロローグ

 私はキャベンディッシュ。

 暗く湿った地下室で1人、静かに生きる者。ただ浪漫ろまんだけを求め、己の欲求を充たし、決して見返りを求めぬ者。

 誰かが言った。生物など、元々孤独なのだ、と。誰かが言った。孤独で悩むのは普通だ、と。

 僕は知っている。この言葉を残したものたちが、孤独でなかったことを。真に孤独を経験したことのあるものなんて、この世に存在しないことを。

 結局、みなどこかで自分以外の誰かに頼って生きている。どこかの誰かに、見えない形で助けられて生きている。誰ともかかわらないなんて、現代社会では不可能に近い。

 そもそも、この言葉を残したものが本当に孤独なら、その言葉すら誰にも届かないはずだ。


 私はキャベンディッシュ。

 真なる孤独を背負い、ただ一人、静かに生きる者。私にとって、地下室がすべてだった。世界はそこで完結していた。地下室の先には、何もなかった。私は地下室の中で、孤独だった。

 こんな私を、君たちはどう評価するだろうか。社会の役に立つべきなのにと卑下するだろうか、己の意思を貫く様に感動するだろうか。いや、違う。私は評価されないのだ。私が孤独から解き放たれてしまうとき、それは私の命が絶えるときだ。それと同時に、私は未来に評価される。孤独とは、誰からも干渉されないことだ。誰にも干渉しないことだ。誰も知られずに、ただ一人、己のために生きることだ。


 私は、キャベンディッシュ。

 自ら、孤独を作りあげ、浪漫を求め、ただ一人生きる者。私は、キャベンディッシュ、キャベンディッシュ。私は……、世界に、取り残された……。僕は。この孤独を、自ら作り上げた。僕は。この孤独が好きで、心地よくて、だから。僕は、キャベンディッシュだ。僕は。

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