こわいもの

雲峰くじら

こわいもの

きみは、ほんとうにこわいものを、みたいんだよね。



じゃああのいえであそぼうよ。

はやしのそばにたってる、にかいだてのあのいえでさ。

そう、あの、はいいろのいえ。

だぁれもすんでない、あのいえだよ。



ぴんぽんをおしても、おとがならない。

かぎはしまってる。

カーテンでなかはみえない。

でもだいじょうぶ。

うらからはいれるんだ。



いえのうらのとびらをあけると、そこはだいどころだね。

はいったら、うしろでどすんととびらがしまる。

せみのなきごえが、とおくなる。

クーラーなんかついてないのに、すずしい。

ながしだいに、さらがつみかさなってる。

だれもかたづけないから、そのままなんだよ。



いまには、テーブルといすとテレビがあるね。

みんなおおきなふくろがかぶせてある。

そのうえにほこりがたまってる。



ところできみは、ほんとうにこわいものを、みたいんだよね。



あけっぱなしのとびらをとおって、くらいろうかをわたるよ。

ひきどをあけると、たたみのへやだね。

ふるいざっしやしんぶんが、つみかさなってる。

おおきなごみぶくろがいくつもころがってる。

うみみたいな、すっぱいにおい。

ごみにうもれるみたいに、ふとんがしいてあるね。

あかとちゃいろのしみで、よごれたふとん。



へやをでて、ろうかをつきあたりまですすむと、おふろばがあるね。

かべはくろいカビだらけ。かがみはくもって、なにもみえない。

ふろおけに、みずがたまってる。

どぶみたいににごってて、すごくくさいね。



ろうかにもどると、にかいにつづく、かいだんがあるね。

でもぼくは、こわいからいかないよ。

きみはいってみたらいいんじゃないかな。



だってきみは、ほんとうにこわいものを、みたいんだよね。



きしっ、

ぎいいっ、

ぎいいいっ、

きしむかいだんをのぼってく。



いちどまがって、

かいだんをのぼりきったら、にかいにつく。

すごくくらい。



あしがはりつくみたいに、ゆかがべたべたする。

かべづたいにすすむと、



てつごうしがはまってる。

どうぶつえんのおりみたいに。



てつごうしのおくはまっくらだ。

おくのかべもみえない。

そのくらやみから、こわれたラジオみたいに、ざらざらのこえがする。



すごく、あたまがいたいんだ。

おなかがへって、たてないんだ。

ぼくをけったり、たたいたりしてた、

おかあさんも、おとうさんも、

どこかにいっちゃった。

それから、だれもきづかなくて、

ひとりぼっちでこわくて、

だれかきてくれるのを、なんねんも、まってたんだ。

ところでさ、



きみはほんとうに、こわいものを、みたいんだよね。


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こわいもの 雲峰くじら @datesan

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