髪留め
朝目が覚めたら隣にパパがいた。てっきり仕事に行っているもんだと思っていたから少しびっくり。
外は明るいし、仕事しなくていいのかな。
「パパぁー」
もぞもぞと動いて、仰向けに寝ているパパの上に乗っかる。
白い枕に広がる赤い髪に手を伸ばし、優しく掴んだ。顔を近づけて、もぐもぐ。
うーん無味。ペッと吐き出して、次は高い鼻をガブリ。またペッと吐き出す。
小さな手で額や頬、瞼をぺちぺち触り、感触を楽しむ。
パパはずっと目を瞑っているが、時々ピクピクしているので多分起きていると思う。なのに、私にいいように遊ばれている。
パパの胸に両肘を立てて顎を乗せる。ふんふんと鼻歌を歌いながら足をバタバタさせた。
「ふんふー、ふふふん、ふーふふん」
パパの手が私の背中を撫でる。でも目は瞑ったまま。
「おはよーおはよーあさが来た。ぼうやはまだまだおきれぇない。そーっとそーっと、おきろー!」
侍女に教えて貰った、朝の歌。絵本に載っていて、気になって聞いたのだ。小さい子に歌うんだって。
パパの目が開いた。赤い瞳が、ぼんやりと私の顔を映す。ニッコリ笑うと、赤い瞳の近くにキスを落とした。
「パパ、おはよぉ」
私を上に乗せたまま上半身を起こしたパパは、小さく笑ったあと、私を強く抱き締めた。
パパの顔が左肩に埋まっていて、息や髪が私をくすぐる。きゃあきゃあ笑うと、ちゅっと頬にキスされた。
「リシア、2歳おめでとう」
ぽかんと間抜けな顔を晒してしまった。それくらい驚いたのだ。パパがおめでとうだなんて。そんなこと、言ってくれると思わなくて。
だって、昨日まで誕生日について全く触れてこなかったじゃないか。
マドにーにみたいに、プレゼントについてパパも聞いてくれるかなって結構期待してたのに。
昨日の夜呼び出されて、パパと2歳の誕生日を迎えられるだけで満足しようと思っていた。
でも朝起きたら隣にいるし、おめでとうって言ってくれるし。
「ふっ、うううぅ!」
嬉しくて泣いちゃうよね。
パパは優しく私の涙を拭うと、抱いたままベッドから降りた。
そして、執務をするための机へ向かうと、そこには可愛く包装された箱が置いてあった。
机の上に私を置き、パパは椅子に座る。箱を私の膝に乗せてくれた。
「ひっく、こ、これ、リシアに?」
「ああ」
「ふえっ、ひっく、あけて、いいの?」
「お前のだ」
こぼれる涙を乱暴に拭うと、震える手で丁寧に包装を解いていく。
フタ付きの茶色い箱が見えて、パパをチラッと見てからフタを開けた。
そこには、リボンの形をした赤色の髪留め。パパの瞳の色と同じ。リボンの真ん中には、紫色の宝石が輝いている。宝石は私の瞳の色。
手に取って、胸に押し当てギュッと抱き締める。
「うううっ、えええぇん!」
パパが横抱きに膝に乗せてくれた。
えんえんと泣く声が静かな部屋に響く。パパは無理に涙を止めようとせず、私が泣き止むのを待ってくれている。
「あり、ありがとぉ」
「ああ。……気に入ったか」
「うん、すごく。すっごーく! ひっく、パパ、これつけて?」
ポロポロと零れる涙を止められず、でも止まるのを待っていられず、パパに髪留めを渡して強請った。
パパは受け取った髪留めを難しそうに見つめたあと、そーっと私の髪に付ける。4回くらい失敗していた。
何とか付けられたようだが、まだ難しい顔をしているので上手く付けられなかったのかもしれない。
でもそんなのいい。不格好だっていい。
パパの首に手を回して抱きつく。
幸せな一日は始まったばかり。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます