あざとい


 お昼を食べ終わってすぐ、タイミングを見計らったかのようにマドにーにが尋ねてきた。両手に何かを持っている。


「リシア、お昼寝まで時間貰っていいかな」

「うん!」


 侍女達が慣れたように、私とマドにーにの分の飲み物とおやつを用意する。いつ来ても大丈夫なように、常に準備はバッチリ。

 私付きの侍女達は、マドにーにの好物をしっかり把握しているので、用意するものに迷いがない。素晴らしい。


 マドにーには私の隣に腰掛けると、待ちきれないと言った様子で、手に持っているものを見せてきた。本、だろうか。それにしては私の上半身くらいあるけど。

 えっと、題名は……、あ、まだ字が読めないんだった。


「なあに?」


 首を傾げて隣を見上げる。満面の笑みを浮かべるマドにーには、焦らすようにゆっくり本を開いた。


「これはね、宝石の目録本だよ」

「もくろく?」

「うん。この中から好きなものを選んで、商人から買うんだよ。あ、この宝石とか綺麗じゃない?」

「きれい……」


 すっごい綺麗だけど、なんで急に宝石なんて見せてきたんだろう。ノリとテンションが、出前何にするー? 的な感じだけど、べらぼうに高い宝石を前にその反応はおかしい。


「あ、これも良さそう」

「マドにーに」

「わあっ、こっちもリシアに似合いそう! うーん、全部買っちゃう?」

「ま、マドにーに!」


 不吉なことを言い出すマドにーにを止めようと、本を両手で隠す。全然隠れてないけど。


「リシア?」


 そんなキョトン顔を向けないで。皇族こわー。


「い、いきなりどーちたの?」

「ああ! ごめんね、僕先走っちゃって」


 少し照れたように頬を染めたマドにーには凄く可愛い。パパ似のイケメン顔なのに、可愛すぎる。美少年の照れ顔でご飯何倍も行けそう。

 サラッと私の横髪を耳にかけると、そのまま頭を撫でられた。気持ちよくてすりすりと擦り寄ってしまう。


「もうすぐ、リシアの誕生日だから」

「たん、じょーび」


 そうか、もうすぐ2歳になるんだ。去年は、私の侍女や護衛達に祝ってもらったっけ。パパとの距離が縮まったのも、マドにーにと出会ったのも、1歳の誕生日が終わったあとだったので祝って貰えてなかった。

 大して気にしていなかったから、全然平気だったけど。


「去年何もしてあげられなかったから、今年はたくさんお祝いしたいんだ。この本全部の宝石は難しいけど、半分くらいなら買えるから好きなの選んで?」

「え、ええっ! リシアそんなにいらない!」

「じゃあー、半分の半分にする? リシアは控えめだね」


 控えめとは? え、私がおかしいの? バッと侍女達を見る。笑顔が固まっていた。うん、マドにーにがおかしいんだね。


「リシア、マドにーにがいい」

「ん? 僕?」

「いっちょにいてくれたら、それでいい!」

「っ! リシア! 本当にこの子はなんて愛おしいんだろう」


 私を膝の上に乗せて、ぎゅーっと抱きついてきた。私も首に手を回して密着する。

 後ろの方できゃあきゃあ悲鳴が聞こえるが、いつもの事なので無視だ。

 私の頬にキスを落とした後、少し体を離して、もう一度本を私に見せてきた。今まで見てきた本の中で1番怖い本に認定しよう。走れドーイのトラウマ回より怖いとは……。


「もちろん僕も一緒に過ごすけど、やっぱり贈り物もしたい。1つでもいいから、プレゼントさせて?」


 金色の瞳が乞い願うように私を見つめる。両手を取られて、拳にキスをされた。

 後ろから、マドにーにを応援する声が聞こえる。私の味方は何処に。


「ねえ、リシア。……だめ?」


 あ、あざとい! しかも私と違って無意識にしてるから、破壊力がえげつない。こんなの、断れるわけがない!


「分かった……、1個だけ」

「ふふ、ありがとうリシア」


 先程までの態度と打って変わって、生き生きと本を捲っていく。

 あれ、さっきの演技じゃない、よね?


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