怒ってるぞ
相変わらず元気は戻らなくて、とうとう夜泣きまでするようになった。
初めて夜泣きした日、普段許可が出るまで中に入らない護衛が部屋に飛び込んできて、ディリアにめちゃくちゃ叱られていた。
私を心配して起こした行動だったので、怒られている護衛を背にかばい、許してと懇願した日が懐かしい。
マジ天使と声が聞こえた気がした。
夜泣きは酷くなる一方で、遂にはかわりばんこで侍女がベッドの側に一晩中つくことになった。
夜泣きのせいでろくに眠れず、お昼寝の時間に長く寝てしまうという不規則な生活になってきた。
そんなある日、マドにーにが満面の笑みで部屋に入ってくるなり、お昼寝前のためベッドに横たわっていた私の側まで早足に近づいてきた。
「リシア! あっ、ごめんねお昼寝前に」
「マドにーに……?」
目を擦りながら、久しぶりに見る作っていないマドにーにの笑顔に、顔を向ける。ニコッと笑い返すと、さらに深い笑みで返してくれて。
本当にマドにーには優しい。マドにーにという人間は優しさの塊で出来てるんじゃないかってくらい。
「どうちたの?」
来訪の理由を聞くと、寝転ぶ私目掛け覆い被さるように抱きしめ、ちゅっと可愛い音を立てながら額に唇を落とした。
近くで控えていたディリア達侍女ズがキャッとかまぁとか野次馬している。女子高生ですか。
「リシア、もう大丈夫だよ! もうすぐ父上に会えるよ」
「っ! パパ?」
「うん!」
「きょう? あちた? あちたのあちた?」
「ふふっ、あと1週間くらいかな。今日含めてあと7回眠ったら会えるよ」
「なな?」
「ふふっ、もうすぐって意味だよ」
「リシア、今日たくさん寝る! あちたもたくさん!」
「えっ、あ、一日に何度も寝ても変わらないよ」
だ、だよね。つい興奮して、馬鹿なことを言ってしまった。
でも、でもでも、もうすぐパパが帰ってくる。
一か月前、僕が何とかすると言ったマドにーにの言葉は本当だった。こういうことだったのかと納得。
マドにーに、すごい! すごすぎる! どうやったんだろ?
「夜に寝て1回だからね。リシアはまだ小さいから、今の時間も寝ようね」
ヨシヨシと頭を撫でながら体を離したマドにーには、ディリア達によろしくねと言葉を掛けると、名残惜しそうに部屋を後にした。
心の中であと7回、と呟く。3ヶ月帰ってこないと言っていたが、どうやって半月以上縮めたのか。
無理してないかなと心配半分、もうすぐ会えると嬉しさ半分。
今日のお昼寝は幸せな気分で眠ることが出来た。
毎日1回、2回と回数を数えること5回。6回目に突入する前のお昼、いつものようにお昼寝をしようとベッドに潜り込んでいた時だった。
前触れも無く開く扉。そんなことをする人は一人しかいない。
「リシア」
帰ってきたばかりなのか、キラキラとした衣装姿のパパ。外出する時、何時人に見られてもいいように、パパやシャドウ、貴族達は常に正装を纏う。
城に帰ると仕事をしやすい服に着替えるが、今日はそのまま。パパの後ろにいるシャドウもキラキラのまま。
うるっと目に涙が溜まった。
えぐ、ひぐ、と詰まったような声が漏れる。
会いたかった。私の家族。
キラキラの服で会いに来てくれたってことは、真っ直ぐにこの部屋に来てくれたってこと? 私に向けられる心は温かいまま? まだ可愛がってくれる?
「パ、パパぁ、ひっく、パパぁ!」
ベッドから体を起こし、座ったままパパに向けて手を伸ばす。パパは近づくと、すっと抱っこしてくれた。
パパの首に腕を回してわんわん泣く。泣きすぎて息が出来なくなるくらい大泣き。
「リシア、落ち着け。ゆっくり息を吸え」
「ひっぐ、うわぁぁん、パパっ、パパっ!」
「ここにいる」
ぎこちなく、背中を叩かれた。トントトンとリズム悪く、慣れていない手つきが面白い。
摩ったり、優しく叩いたり、何度かそれが繰り返された頃、やっと落ち着いてきた。
「リシア」
「んっ」
「目が赤い」
「んっ」
「痩せたな」
「んっ」
「夜は一緒に食べよう」
「んっ」
「それまでは寝てろ」
「ん……やぁ!」
今寝たら離れてしまう。素直に首を振りながら相槌していたが、危ない危ない。流されて嫌なことにも頷いてしまうところだった。
誘導しやがってと、ポカポカとパパの肩を叩く。シャドウが口に手を当ててプルプルしている。それは可愛いって意味で笑ってるんだよね?
「いっちょ、ねる!」
怒ってるぞって顔をして、パパに言い放った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます