第11話 天使のアルマ
主な変更点
本編に載せてるのが初稿でこれが2稿です。終盤を書いてるときに書き直したので、最後の方、距離感を近づけ過ぎました。PVがよく途切れました。
「か……エンクリ、知ってるか」
――だからだろう。血迷い狭き暗がりから明るみに飛び出してくるゴキブリのように謎チョイスの言葉が玄咲の口から飛び出した。玄咲は今度は違う意味で自分に絶望した。なんで自分はいつもこうなのかと。
「え? 知らない、けど」
「そうだな。知るはずもない。俺も詳しくは知らない。名前を知ってるだけだ」
2つの意味で嘘をつく玄咲にシャルナが尋ねる。
「……緊張、してる?」
「まぁ、うん。そういうクリティカルな質問はやめてくれ……」
「ふ、ふふ……」
シャルナが思わずといった風に笑う。さらに、手を背に回し少し前に屈んで、玄咲の顔を覗き込むように見上げながら尋ねてくる。
上目づかいで、
「なんで、緊張してるの?」
明らかに分かっている声と仕草だった、そしてそれが魅力的だった。シャルナにはドキドキするようなからかい方をさっきもされた。それによく笑う。もしかしたらシャルナは玄咲が思っていたよりも俗な性格をしているのかもしれなかった。ゲームでは過去の姿は全く描写されなかったキャラだから、眼にする全てが新鮮で、シャルナは魅力的な一面を次々に見せてくれる。
「ねぇ、なんで、なんで」
「い、いや、その……」
必死に顔を背けて、まともに返答すら返さない無様を晒しつつも、シャルナに構われるのが内心玄咲は嬉しくて嬉しくて仕方がない。シャルナと一緒にいると心臓の高鳴りが止まらない。美貌に打ちのめされて、釣り合わないと自覚して、攻略対象外だと自覚してなお、シャルナに惹かれて惹かれて仕方がない。シャルナともっともっと一緒にいたくて仕方がない。
天使のように可愛い、
やがて、地獄と天国に分かたれるその時まで。
(……せめて、友達くらいなら、目指してもいいかな? シャルと友達で送る生まれて初めての高校生活。うん、素敵だ。しかし――)
「玄咲」
「うん?」
「えい」
必死に逸らしていた顔を振り向かせようとする。その瞬間、頬に指がぐにゅっと突き刺さった。
シャルナの白くて細やかな指が。
小さくて可愛らしい悪戯だった。
「あはは、ずっと、顔、背けてたから、つい」
口元に手を当ててシャルナが笑う。陰など微塵も纏わず。悪戯で楽し気な目付きのその中にもう殺意は微塵も見られない。今は潜んでいるだけだろうがそれでも確かに。
シャルナは今、玄咲の隣で笑っている。
(――少しは元気になって、良かった)
それだけで、今は十分だった。
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