第34話 地獄 ―Myself― 無推敲版主な変更点
展開の変更は一切なし。ただ、純粋に文章のクオリティが足りていません。数週間して見直して作品の一番重要な回がこれではダメだと死にもの狂いで書き直しました。普段は全くしないひたすら感覚に任せて一瞬の淀みもなく筆を走らせ続けるという物凄く得意な書き方をしたので、書き直す自信はなかったのですがなんとか一日で書き直せました。同じ展開でも文章が違うだけで相当印象が違って見えるのではと思います。
この話は1話の時点で構想は固まっていて、この話に向けてずっと必要なエピソードを積み重ねていっていたというのが34話までの話となります。この話の効果を最大化を常に念頭に置いてそれまでのエピソードは書かれています。構想は固まっていたのであとは文章を書くだけ。だから数時間で描けたという側面もあります。
WEB小説は序盤からもっとキャッチャーにした方が裾野が広がっていいのですが、というかそのつもりで書いていたのですが、どうも説明が多くなって序盤の離脱率が高いです。オリジナル設定が多いもので、書かなきゃいけないことが多すぎて、見せ場が遠くなり過ぎました。そこはちょっと今でもうーん……ってなります。
一歩を踏み出した。
ゆっくりと歩む。
体が揺れるように熱い。バランスを崩しそうだ。走り出すつもりだったが上手くいかなかった。だが、3歩目で慣れた。走り出す。
シャルの元へと一直線に。
「へっ、残念だがここは通――なんだその眼」
地面を強く踏み込む。進路上に立ち入ってきた大男のこめかみへ足を振り上げた。踏み込みから跳ね返ってきた力を前進力と融合させながら足の裏、踵、ふくらはぎ、膝の裏、太腿、腰、そこから逆の足へと一気に流し込む。上体を捻り、遠心力を、反発力を、伝達した力を、全てをつま先の先端に集めてインパクトする。
つま先が大男のこめかみへと届く0,1秒の間にその全てを行った。車に轢かれたようにはじけ飛んだこめかみが陥没した大男の頭が教室の壁の下部の縁へと激突し血の華を咲かせた。
「な、なに、が」
口の端から噴水の縁から垂れ流される水のように血を垂れ流しながら大男は顔を上向かせる。玄咲はその顔に人差し指と中指を突き立てて拳を振り下ろした。
絶叫。痙攣。血に塗れた二本指を引き抜き、眼窩から抜き出したものを捨てて、即座に疾駆。サンダージョーの元へと。シャルの元へと。あと、数歩。背後で悲鳴が止んだ。予想通りに。玄咲は拳を振り上げる。
「武装――ちぃッ!」
ADを展開する暇がないと悟ったサンダージョーが素手での迎撃を選ぶ。赤い線が見える。死線が見える。死の導線が。サンダージョーの殺人的な威力で放たれるはずの拳の軌跡が既に見えていた。
そしてサンダージョーを殺すための死線も既に見えていた。
自分の拳から放たれるそれに玄咲はあえて従わない。思い切り拳を振り上げる。思い切り力を込める。子供のように、乱雑に、乱暴に、原初的に、感情的に、拳を、怒りを、握り締める。
そして解き放った。
拳がサンダージョーの拳と交差する軌道を描いた。
カウンター。
やられた分、やり返す。
相応の報いを。
天の裁きを。
天使の痛みを。
「悪魔は地獄に落ちろ」
拳がサンダージョーの鼻っ柱にめり込んだ。
骨が砕ける。血が飛ぶ。歯が飛ぶ。肉が裂け、潰れ、抉れる。拳でその全ての感触を濃密に感じながら、一切力を緩めず、目標へと拳を振り下ろす。
玄咲の机の角にサンダージョーの後頭部がめり込む。拳もさらに奥深くへめり込む。拳がサンダージョーを介して机の悲鳴を聞く。ミシミシギチギチと軋み、たわみ――そして割れた。
ようやく目標へと辿り着いた。
玄咲は拳を振り抜いた。
「地獄に落ちろ」
サンダージョーの顔面が床と拳のサンドイッチになってトマトみたいにぐちゃりと潰れた。ようやく拳が停止した。握り込んだ力の全てをサンダージョーの顔面に放出し終えて。床に放射状の亀裂が入っていた。
「あ、が、が」
サンダージョーはまだ生きていた。当然だ。殺す気などない。まだ、殺してはもったいない。まだ、まだ、まだ、まだ――。
シャルの痛みを全て返すまでは。
高レベルなだけあり丈夫な体。懲罰に丁度いい体。玄咲は立ち上がり足を振り上げる。
「ぐぁあああああああああああああああああ!」
右腕の関節を踏み砕く。左腕、右足、左足も同じように。血反吐塗れの悲鳴がその度にあがった。楽しくない。何も楽しくはない。こんなことを望んでやる人間の気が知れない。サンダージョーの心理が何一つ理解できない。する必要なんてない。シャルの痛みを全て返すだけだ。玄咲は再び足を振り上げた。今度は垂直にではなく、弧を描いて振り下ろす。
サンダージョーの金玉目掛けて。
ミシリ。
「ッッッッッッッッッッ――!」
天井を突き破るような絶叫が迸った。何度も、何度も、サッカーボールキックを金玉に見舞う。絶叫のボリュームは天井知らずに上がっていく。だが、それでも金玉は割れなかった。高レベルの金玉だった。
「丈夫な金玉だな。こっちの方はメッキじゃなかったようだ」
何度も、何度も、蹴る。段々と感触が変わっていく。そろそろか。感触の変化を如実に足の先で感じ取った玄咲は、一際大きく足を振り上げて――。
パキン。
乾いた音が、弾けた。
「ッ―――――――――――ア」
サンダージョーが白目を剥いて、本日最大の絶叫を上げた。人の声ではなく獣の声だった。悪魔に相応しい声だった。
「――――悪魔め。悲鳴まで汚いな」
吐き捨てるように言った。
ゴキブリ並みにしぶといサンダージョ―が自力では起き上がることもできず、涙と血に塗れた顔を上げて言ってくる。
「お、ま、え。なんで、アマルティ、アンの味方を、する。しかも、そいつは、堕天使。世界一、醜い、種族だぞ。それを、なん、で……」
「? お前、鏡を見たことないのか」
「は、ぁ?」
「見せてやるよ」
玄咲はサンダージョーの後頭部を両手で挟んで持ち上げ、教室後方の壁に飾られた鏡の前までずるずると引き摺り、中指で薬指で両目を見開かせながら、鏡にその顔を写してやる。
赤い瞳をした己の顔まで映った。
「ほら――世界一醜い種族がよく見えるだろう?」
ギリギリと、目尻が裂けるほどに目を見開かせる。後頭部を挟む手に力を込める。サンダージョーが喚く。
「や、やめろ。やめ、て。もう、おねが――」
「人間(悪魔)が」
サンダージョーの眼球を鏡に叩きつける。割け割れた
動かなくなったサンダージョーの体を床に投げ捨て、玄咲はシャルナの近くで屈んだ。
シャルは両手を投げ出し両膝を曲げた姿勢で己の机にもたれかかっていた。そうでもしないと倒れてしまうのだろう。胸が、引き裂かれそうになった。
「――玄咲」
シャルが声を発する。弱く、か細い声。涙が、一滴、零れた。それでも玄咲は笑った。笑えていたと思う。笑えていなかったかもしれなかった。
「――もう、大丈夫」
制服の上着を脱いでシャルへと着せる。上体を隠すためだ。無残なその様を、堕天使の翼を、アマルティアンの証を、そして何より、女の子が肌を晒すものじゃないという、ごく当然の判断に従って。声を震わして、玄咲は言う。
「大丈夫だから。もう、何もかも大丈夫だから。俺が何とかするから」
「その、目」
「ああ、キレると赤くなるんだ。昔、何度も死にかけてさ、気づいたらこうなってた。はは、漫画みたいだろ」
「悪魔、みたい」
「……そうか」
ほんの少しだけ、悲しくなった。だが、その悲しみはすぐに塗り替えられた。
「でも、きれい」
「え?」
「好き」
――まっすぐ。
躊躇いなく。
シャルナはそう告げた。
玄咲は、泣いた。
「はは、ははは。そんなこと言われたの生まれて初めてだ。この目を、怖いじゃなくて、きれいだなんて、ましてや好きなんて言われたのは生まれて初めてだ……」
「え、っと、そうじゃな――ゲフ!」
「シャル!」
笑いかけて、シャルナが血を咽ぶ。玄咲はどうにかしたいと思うが、どうしようもない。回復魔法のカードがあればと思うが、それがない。貸してくれる、あるいは助力してくれる相手がいればと思うが、こうなっては他の人間全てが敵だ。遠巻きに事態を見守る全ての人間が、玄咲とシャルナの敵だ。カードを貸したり、魔法を使ってくれるとは思えない。おそらくバエルを召喚すればこの学校の人間全て殺せる。だが、そんなことをしても意味がない。いよいよシャルナを治療する手段がなくなるし、そんなことしても後がない。死を近づけるだけ。状況は積んでいた。
逃げ場所がない。
シャルナの治療の当てもない。
玄咲は絶望的な気分になった。
「ぐ、ぐくぅう……!」
玄咲は考える。
だが、しかし玄咲は頭が良い方ではない。考えつくことなどたかが知れてる。そしてその、考えついたアイデアの全てが破滅の導線へと紐づけられていることが、あまり良くない頭でも直感で察せられた。とりあえずバエルを召喚して何もかも殺してから事後策を考えようか――そんな自暴自棄なアイデアを本気で実行しようかと考え始めたその時――、
「――あなたが、やったの」
声がした。
知ってる声だ。
一番好きだったキャラの声。
クララ・サファリア。
かつて最愛だった、天使。
その人が、入り口に立って、玄咲を見ていた。
化け物でも見るような瞳で。
「――俺がやった」
自分でも驚くほど冷たい声が出た。
「なにか文句あるか」
クララ・サファリアさえ、今の玄咲には敵に見えた。
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