第1話 痴漢
主な変更点
タイトルだけ。
というのは載せる意味あるのかと真剣に悩んだ末半年前に描いた本当の最初稿を載っけることにしました。プロフィールのとこが全然違います。
融けた蝋を神経に流し込まれたかのような痛み、という言葉では足りないほどの暴虐的な感覚が体中に広がってゆく。マグマに生きたまま飛び込んだらこのような感じだろうか? 一生起毎に百度は死ねるほどの苦痛が泡のように体の中で弾けてては消えていく。それだけの苦痛を味わいながら何故か命と正気だけは凛然と保たれているのは質の悪い冗談でしかない。死ぬことも狂うこともできず地獄の業火で炙られ続ける。無限に引き延ばされる一瞬。永遠に続くかにも思えた苦しみだが、熱を発する個所は段々と減っていき、最後はまるで燃える燃料が尽きたかのように萎んで消えた。悪夢が覚めてしまえば思い出すことすら出来ないように、焦熱の残滓を欠片も残さずに。
苦痛から解放された男は、しかし精神を未だ正気と狂気の狭間に彷徨わせていた。正常を確かめるために思考を繰り返して徐々に精神を正気の方向へと傾けていく。
(死ぬ、死ぬ、死んだ。いや、狂った、狂った? 狂ってない。だって、生きている。まだ思考が出来ている。あれ、なんで死んでない? 俺はあの爆発に巻き込まれて死んだはず……生きている? 死んでいる? どっちだ。そもそもここはどこだ?)
男は目を開ける。何かにもたれかかって頭をうな垂れさせた体勢。必然、男の眼はやや斜め下方向に向けられることになる。
そこにはおっぱいがあった。
男が現実に通っていた高校のそれよりも見慣れたデザインの学生服につつまれた二つのふくよかなふくらみ。かなりでかい。モニター越しにしか見たことのないサイズ。男の頭の中は一瞬でおっぱいでいっぱいになった。
(……おっぱい)
癒しを本能的なレベルで求めた男はその双丘に吸い込まれるように手を伸ばした。むにゅん。人生初めてのタッチング。掌が歓喜に泡立つ。男は無我夢中でおっぱいを揉みしだく。それこそが今の自分に最も必要な行為だと信じて。
(……ん?)
興奮が意識を明晰へと誘っていく。男の脳におっぱいの持ち主の顔を識別する余裕が生まれる。おっぱいの持ち主は男のよく知っているキャラクターと瓜二つの顔をしていた。というか、耳まで真っ赤に染め上げたその顔はどこからどう見ても本人そのものだとしか思えなかった。
CMCメインヒロイン、神楽坂アカネ。
赤髪をツインテールで留めた、健康的に育ったおっぱいと絶対領域からはみ出したムチムチの太腿が魅力のCMCのメインヒロインだ。つまり現実に絶対いるはずのない存在。男は確信した。
(ああ、これ夢だ)
ならば遠慮なく、と男は制服の中に手を侵入させておっぱいを直に揉まんとする。生肌に触れた。そこに至ってようやく相手方に動きがあった。
「きゃ、きゃあああああああああああああああああああっ!?」
「おぱっ!」
強烈な平手打ちが男の頬に炸裂した。女の細腕から放たれたとは思えぬ恐ろしい威力。吹っ飛ばされた男の頭部がガラス製の何かに突っ込み、突き破り、バリィイイイン!と爽烈な破砕音を響き渡らせた。
「な、なにごとですか!」
「せ、先生! この人っ、私のお、おっぱいを、揉んでっ……!」
「私も見ました! あの目つきの悪い男、いきなりアカネさんのおっぱいをがばっと掴んで服の中に手まで入れようとしたんです!」
「お、俺も見たぜ! こ、こんな巨大なおっぱいをあの男遠慮なくもみもみたぷたぷと……くそッ! マジ羨――許せねぇッ!」
「マジかよ。変態じゃねぇか!」
「変態よ!」
「死刑だ!」
「最初見た時からなにかしでかしそうだと思ってたぜ。なにせ目つきが悪いからな」
「犯罪者の眼ヨ。あれ絶対何人か殺してるネ」
「やっぱり死刑だ!」
壊れたガラスの向こう側から幾重ものざわめきが男の耳に届く。男は頭からダラダラと血を流しながら、痛みで完全に覚醒した頭で、ガラス窓のこちら側――男がいつの間にか乗車していたこの世界の代表的な交通機関【カードトレイン】の車体に書かれた巨大なアルファベットの文字列を、ガラス窓の縁に腹を押し当て大きく背を曲げた子供のような覗き込み姿勢で音読する。
「CARD&MAGIC ACADEMY……。CMAだと!」
「ちょっとあなた! こっちにきなさい!」
男は背筋の力で体をバスの車内に引き戻し、突き刺さる数多の尖った視線の中、声のした方を見る。そこにもやはり見知った顔があった。
(クララ・サファリア。主人公の所属する一年C組の担任教師。肩口で切りそろえた淡い色合いの水色のショートカットに、優し気な目元と泣きぼくろがチャームな生徒想いの優しい先生。教師だが立派なヒロインの一人で攻略対象。人気投票の順位は4位。中々の人気キャラ。えっと、他には――)
さらに男はクララのゲーム内データベースのキャラプロフィールの項目に書かれていた情報を必死で思い出す。
(レベル52。魔力属性は水。得意カードはウォーターヒール。使用デバイスは杖。年齢25。性別女。種族エルフ。職業教師。身長152CM。体重53Kg。スリーサイズは86・52・84。血液型はA型。好きなものは生徒。嫌いなものは差別。趣味は水泳で特技も水泳。好きな食べ物というか飲み物は梅こぶ茶。コンプレックスは生徒に見間違われるほどの童顔。プライベートキャンバスのCGは連続イベントの最後。真夜中、スク水を着たクララ先生が二人きりで水泳を教えてくれて、そこでクララ先生の胸の谷間にほくろがあることを主人公に指摘されて頬を斜線で赤らめて胸を抑えるシーン。白黒ながら美しい一枚絵で胸の谷間が描かれていてすごくえっち、と。よし、完璧に思い出せた。えっと、身長体重……うん、ゲームの情報と相違ない体格だな。ふ、ふふ。これはもしかすると、もしかしちゃうか?)
「聞いてるんですかっ!? その子から離れてこっちにきなさいと言っているんです!」
ゲーム中でも滅多に見せない本気の怒り顔を見せるクララは、やはり見れば見るほどゲームのクララそのものだった。男はいよいよ確信を抱き始める。自然と笑みがこぼれる。
(もし夢じゃなければ、これはあれだ。ヒキニート時代に腐るほど読んだWEB小説のあれ。つまり――)
「なんて邪悪な笑み――! 従う気はない、と。ならば、学校に着くまで拘束しておくしかありませんね……!」
クララが腰帯に刺したカードケースの蓋を開けてカードを取り出す。そして手首に装着した表面にモニターと側部にスリットの備わった金属板に装着用の輪っかがついた謎の機器の、金属板のスリット部分にカードを差し込む。一連の動作は非常になめらかかつスピーディーである種の曲芸染みていた。
クララが青い輝きを放ち始めた手首の機械を男に向けて、カードの起動句たる呪文を唱えた。
(異世界転生――!)
「ウォーターボール!」
謎の機械――リードデバイスから豪速で放たれた魔法の水球を見て男は歓喜した。
「すごい魔法が本当に出てあぶっ!」
男は顔に魔法の水球を喰らって気絶した。
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