第3話 後輩ちゃん、ASMあーる

「はい、じゃあまずはこのアイマスクをしてください」


「え? こんなもんどこから持ってきたって? うぇひひ。守衛室にあったんですよ。ん? どうやって入ったって? こまけぇこたぁいいんですよ」


「いいから、着けてください! 大丈夫です、絶対にキモチよくなれますから!」


 スチャッとアイマスクを装着する物音。


「はい、ありがとうございます」


「じゃー次はそのままそーっと横になりますよー。あ、そっちじゃなくて、こっちの方で。ワタシが支えてますから、はいはい、力を抜いてー。そのままー、そのままー」


 ぴとっ。


「ひゃん。くすぐったい」


 ガバッとあなたが起きる音。


「あれ、なんで起きちゃうんですか。あーアイマスクもとっちゃった。え? 今の膝まくらだったろって? はい、そうですけど。だって先輩の頭がワタシの手元にこないと色々と不便じゃないですかー」


「んん? 色々とマズイだろ? なんでですか? 全然マズくありませんけど……ん? むむ? ほほぅ?」


 後輩の声が近づく。


「先輩、さてはワタシにひざ枕されるの、照れてますねぇ?」


「うぇひっ。顔がゆでだこみたいに真っ赤になっちゃいましたねー。そっかーそうですよねぇ。ウブでおぼこな先輩には、現役JKのむっちりやわやわ太ももは刺激が強すぎますよねぇ。うぇひひひひっ」


 あなた、ガタッと立ち上がり、部室から出ようとする。

 あわてて引き止めようと駆け寄る後輩。


「あーん、ごめんなさいごめんなさい。帰ろうとしないでください。冗談です! ステイステイ・プリーズ!」


「ふう……」


「からかいすぎちゃったのは謝ります。でも先輩、せっかく色々と準備してきたんだから、ちょっとだけでもASMRごっこしましょーよー。大丈夫ですって、絶対変なことはしませんから。ワタシを信頼してください。トラスト・ミー」


「え? お前は嫌じゃないのかって? はぇ? 嫌って何がです? ……先輩にひざ枕されるのがって?」


「うぇひ。うぇひひ」


「全然イヤじゃないですよ。ワタシにとって先輩は特別ですから。後輩ちゃんは先輩ならいつでも大歓迎です」


「だから観念してください。ワタシのASMRに対する知的好奇心がマッハなのです! こんなの頼めるの先輩だけなんですから~。付き合ってくださいよ~」


「ちょっとだけだぞ? オッケーってことですね? うぇはは。ありがとうございます! なんだかんだブツクサ言っても最後は折れてくれる、そんな優しい先輩のことが後輩ちゃんは大好きです!」


「それじゃあまたアイマスクをつけて……はい、横になってください」


 ぴとっ。あなたの片耳が後輩の太ももに密着される感触。


「はーい、身体の力を抜いてください。リラックス、リラックス。やわやわー、やわやわー」


「よし、じゃあさっそくはじめますねー。やっぱりまずは、王道をいく耳かきからです。それでは失礼して。まずはお耳の周りから」


 片耳の周りを綿棒で優しくさする音。

 

「どうですかー先輩? 悔しいけどちょっと気持ちいい? うぇへっ、そこはシンプルに気持ちいいでいいじゃないですか。素直じゃないなーもー」


「先輩、ちょっと耳が汚れてますね。これは念入りにキレイにしないといけませんねぇ」


 片耳の周りを綿棒で優しくさする音。


「じゃあ、ちょっと中に入りますよー」


 耳の中を優しく綿棒でなぞる音。


「ふふっ、先輩気持ちいいですか?」


「ふーっ」 耳元で息をふきつける。


「じゃあ、次は反対側でーす。そのまま顔の向きをひっくり返してください」


 後輩にひざ枕をされたまま、頭の向きを変更。

 その後、同じ流れで反対側の耳も耳かきされる。


「どうですか? ちゃんとASMRになってますかー? うぇへへ。じゃあ次はマッサージですよー。ちょっと待っててくださいね」


 ぺちゃぺちゃと後輩がハンドクリームを自分の手のひらに塗り込む音。


「失礼しますねぇ」


 ニチャッと耳をマッサージされる音。


「いい匂いするでしょ? これラベンダーの香りなんですー。マッサージの気持ちよさに加えて、いい匂いにも包まれて身も心もリラックスー」


 ニチャッニチャッと耳をマッサージされる音。


「ふふ、先輩が耳が弱点な理由がわかりましたよ。ASMRをずっと聞いてるからお耳がよわよわになっちゃったんですねー」


「あ、そうだ」


「よわよわー、よわよわー。ざーこ、ざーこ。なんちゃって」


 マッサージが続く。


「すっかり抵抗がなくなりましたねぇ。されるがままですねぇ。うぇひひ……」


「いいですよー。もっともーっと気持ちよくなってくださいねぇ」


「じゃあまた反対側です。顔の向きを変えますよーよいしょっ」


 後輩にひざ枕をされたまま、頭の向きを変更。

 後輩、手のひらにハンドクリームを塗りこむ音。

 その後、同じ流れで耳のマッサージ。


「先輩、後輩ちゃんによる至極のマッサージの具合はどうですかー? 気持ちいいですかー?」


「先輩……?」


「寝ちゃったよこの人……」


「うぇひ、でもちょっと嬉しいかも。そんなに気持ちよかったのかなぁ」


「そうだ、アイマスクとっちゃえ。よいしょっと」


 後輩、アイマスクをとり、寝顔を見つめる。


「うぇひひっ、先輩の寝顔、可愛いなあ。小っちゃな子どもみたい。ずっと見てられるなぁ……」


「ふふ、こっそり撫でちゃえ……」


 後輩、そっとあなたの髪をなでる。


「先輩はワタシみたいなうるさくて変なヤツでも、いっつもかまってくれて。素直じゃないけど結局はすっごく優しくて……」


「そんな先輩の顔を見てると、なんだか安心して……心がぽかぽかしてきて……先輩は……ワタシの……わたし……の……」


「せん……ぱい……」


「すぅ……すぅ……」


 結局、あなたと後輩は、二人とも眠ってしまう。

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