第16話 頑張ってね、弟くん♪


 志帆は俺のことが好き。


 薄々、俺も志帆の気持ちには気づいていた。志帆は異性として俺に妙にアピールするし、いつも俺にべったりで、その視線に熱がこもっていることはわかっていのだ。、


 でも、俺はなんて返事をすれば良いかわからなかった。志帆の言う通り、俺には愛華がいる。


 酒の勢いがなければ、志帆は俺に告白したりしようと思わなかっただろう。

 次の瞬間、志帆の身体から急に力が抜けた。倒れそうになる志帆を、慌てて抱きとめる。


 すーすー、と志帆は息を立てていて、目を閉じている。

 これは……。


「酔って寝ちゃったのね。可愛い」


 千桜先輩がくすくす笑う。

 俺は呆れて千桜先輩を見た。


「千桜先輩は何がしたいんですか?」


「わたしはわたしのしたいように振る舞っているだけよ?」


「その……志帆を焚き付けているのに、千桜先輩も俺のことを好きだと言って、風呂場ではあんなことを……」


「キス、そんなに気持ちよかった?」


「そ、そういうことじゃなくて、ですね……だいたい千桜先輩だって恥ずかしがっていたくせに」


「あ、あれは……弟くんが意外と積極的だからちょっとびっくりしただけで……」


 千桜先輩は急に顔を赤くして、口ごもる。

 そして、真面目な表情で俺を見つめた。


「志帆ちゃんのこと、他人事とは思えなくて」


「どういうことですか?」


「わたしも、同じなの」


「へ?」


「愛華に遠慮しているのは、わたしも同じ、ということ。ねえ、君は婚約者のことを、雨橋愛華のことを好き?」


 俺は即答できなかった。愛華は大事な幼馴染だ。

 でも、好きかと言われれば……特別な感情はない。というより、愛華は競争相手で、劣等感の方が強い。


 俺はいつも二番で、愛華が一番。その関係を変えられれば、もしかしたら、俺は愛華を婚約者として見れたかもしれない。

 けれど、現実には負けっぱなしだ。


「好きでもない相手と結婚して良いの?」


「羽城の次期当主として、それが最善だと思っていますから」


「わたしにはそれが正しいことだとは思えないけどな」


「先輩に何がわかるんです?」


 思わず、俺は千桜先輩に強く言ってしまう。千桜先輩は、びくんと震えて俺を上目遣いに見た。

 その青い瞳は不安そうに揺れている。


「そうね。正しさなんて……問題じゃないの」


「え?」


「わたしは君のことが好き。それだけはたしかだから、覚えておいてね」


 そう言うと、先輩は俺のベッドに潜り込んだ。

 そういえば、俺は告白の返事をしていない。俺はどう答えるべきなのだろう?


 もし、愛華のことがなければ。このミステリアスで、いたずら好きで、小悪魔な先輩と付き合っていたかもしれない。


 俺はそんな考えを振り払い、志帆をベッドに優しく横たえた。


「弟くんが真ん中だよ?」


「や、やっぱり、そうなるんですか……?」


「そうじゃないと、わたしと志帆ちゃんが納得しないでしょ?」


 仕方なく俺はベッドの真ん中へと這うように移動した。そして、仰向けになると、先輩がぎゅっと俺の腕にしがみつく。


「せ、先輩……」


「このぐらいいいでしょ?」


 先輩の胸が腕に当たる。しかも、寝ぼけた志帆まで「兄さん……」と言いながら俺に抱きついた。


「こ、これじゃ……寝れない!」


「頑張ってね、弟くん♪」


 千桜先輩は楽しそうに笑った。





<あとがき>

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タイトル:義妹たちとの幸せな結婚 ~婚約者のお嬢様に捨てられた俺に、可愛くて優しい美少女の義妹がぐいぐい迫ってくる。「わたしが兄さんの恋人になって、幸せにしてあげます!」~

キャッチコピー:甘えたがりの中学生の義妹&ツンデレな幼馴染に、結婚を迫られています

URL:https://kakuyomu.jp/works/16817330650257980593


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