つまらない人生

ピチャ

つまらない人生

 僕は天才だ。

すべての正しいことがわかる。いつでも答えを掴める。誰かの求めていることがわかる。

その才能を重宝され、社会に貢献している。

一般人とはかけ離れた出来。皆が僕を評価する。評価者によって僕の値打ちは変わるが、そんな些細な違いは気にならない。

誰よりも優れている人を、正しく評価できる人はいない。だからいつも「こんなもん」だ。

手を抜いても、嘘をついても、誰も気づかない退屈な人生。

でもそれが評価されているのなら、そのままでいい。病気になるか弱るかしてそのうち死ぬだろう。それまで僕は働き続けるだけ。

だと思っていた。


 最先端の研究を行っているうちに、気づいたことがある。

僕の「成果」を人が習う。

人は、僕が出した答えを「正解」と見做す。

だとしたら、これまで僕が出してきた「正解」も、誰かの考えたものなのではないかと。

その通り。先人の作り出した「答え」を僕がもう一度なぞっただけだ。

発明したと思ったら、誰かが先に発見していた。それが今答えとして世界にあるかないかだけの違い。

 では、僕が「明らかな間違い」を答えにしたら?

やはりそれは「正解」になるだろう。

優秀な誰かが間違っていることに気づかない限り。


 人が一番気持ちいいとき。「正解」を見つけたとき。

二番目に気持ちいいとき。「間違い」を見つけたとき。

正解を見つけた僕は、偉人になるだろう。

間違いを見つけた僕は、正して勇者になるだろう。

結局何をやっても、僕は評価されるのだ。だったら僕は、適当に生きればいい。


 僕は「間違い」ばかりをする愚かな人間のことが嫌いだった。

しかし退屈した後、退屈しのぎとしてちょうど良いことがわかった。

彼らはいつも新しい「問題」を出してくれる。どうしたらそれを正せるか。

僕がそれに答えるだけで、社会は進んでいく。


 僕にできないことがあった。

僕自身を助けること。

僕の履歴の中の、退屈した子どもの僕。

そんな小さい彼一人でさえ、僕には救うことができない。

「問題」を与えることで退屈しのぎはできる。だが、根本的な解決にはならない。

愚かな人間たちのように、熱意をもって生きることはできない。

僕は彼らが羨ましい。

羨ましいという感情は、ちょっとおもしろい。

上手くいかない人生は、ちょっとおもしろい。


 正しいことに意味はない。正しさは誰もが知りえること。

正しくない社会のほうが人生を豊かにし、存続するのだったら、そちらを選ぶことは間違っているだろうか。

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つまらない人生 ピチャ @yuhanagiya

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