第14話〝フレンモ〟

「ははっ、お母さん、じゃあ綺麗にしてもらいましょうかねー?」


 痩せ男がお袋の顔にソレを押し付ける。


「嫌です! ウォルフには手を出さないで下さい!」

「うーん、流石に一回だけだと、まだ拒むかぁ。でもね? お母さん。今この場で拒んだとしても、いずれお母さんもウォルフくんもこういう事して生活するんだからさ。今やっちゃっても一緒一緒!」


 クスリのせいだろうか。痩せ男のソレは出したばかりの時よりも膨張していた。

 そんな視界を遮る様に、小太りが俺の眼前にやって来る。


「じゃあこうしようぜ? ボウズが俺のをイカせてくれたら、母ちゃんは勘弁してやるって感じで」


 小太りもズボンを下ろした。


「ええー? ソレはないっしょ? てか口で良いのか? さっきぶち込みたいとか言ってなかったっけ?」


 小太りの後ろから痩せ男の声が入る。


「風呂も入れねえのにケツアナはまずいだろ。口で良いんだよ口で」

「ふーん? 後で綺麗にして貰えば良いのに」

「ソレ良いな? 後で母ちゃんに舐めさせるってか?」

「あははっ! 全然勘弁してねーじゃん!」

「うっせえ。おいボウズ、舐めればそれだけで勘弁してやる。拒めば無理矢理ぶち込んで母ちゃんにお前の糞ごと舐めさせる。ホラ俺、頭良いだろ?」

「お!? 思いつかなかったー! お前って天才! じゃあ俺も! お母さん? 舐めてくれたらウォルフくんのケツアナは勘弁してあげるよ?」

「おい! それだと俺のが通らねえだろうが! もうヤクが回ってんのか?」

「あはは! そうかもー!」

 

 二人がそんな事を言っている中、オッさんは俺達に背中を向けて煙草を吸っている。

 誰にも頼れない。


「なぁ、俺も我慢してやってんだぜ? コレ見ればわかるだろう?」


 普段は腹の肉に陥没しているであろうソレが、親指大に膨らんでいた。鼻息も荒い——くそ、縄さえほどければ。

 だがほどけない事を考えても意味はない。

 何か、手はないか。

 その時、俺は思い出す。

 

 ——見たところ魔力は相当あるが、使い方を知らない様だ——。


 あの黒男の言葉だ。

 俺には魔力がある? どう使う? オッさんはあいつの魔法を「ガキでも使える大した事はない魔法」と言っていた。つまり、カンタンに使える? 黒男はどうやって使っていた? そうか————。


「〝フレンモ〟ッッ!!」


 俺は力一杯、叫んだ。

 しかし、何も起こらない。


「な、なんだ? びっくりしたじゃねーか」


 小太りが少し腰を引いた。


「フレンモ! フレンモ! フレンモ! フレンモ! フレンモ! フレンモ!」


 何も、起きない。


「はは、叫ぶだけじゃ何も起きねえよ。起きたとしても、ちょっとチ○ポに火傷する程度だぜ?」

「あはは! 大ダメージじゃん!」

「あ? それもそうか。危ねえ危ねえ。口はもう良いや——ケツアナかくてーい!!」

「イェーイ!」


 小太りがどいた事でお袋と痩せ男が見える。痩せ男は相変わらずニヤニヤしているし、お袋の後ろ姿は、黙って痩せ男のソレを眺めている様に見える。

 せめて痩せ男の玉袋を握るくらいして欲しい。そうすれば多少は俺も我慢できる。

 チラリとオッさんを見た。下ろした左手が握られ震えている。我慢している。

 俺達を、諦めようとしている。


 小太りが俺の後ろに回り、そして蹴った。顔面が地面にぶつかり、尻を上げて突っ伏す。

 ズボンに、手をかけられた。

 やられる。

 俺は目を瞑った。

 兄貴の持って来た本にもこの様なシーンはあった。大抵、誰かが助けてくれたり、不思議パワーが覚醒して敵を蹴散らす、みたいなパターンである。

 しかし、助けは居ない。

 不思議パワーはどうだ?

 魔法か?

 でも、先程失敗した。

 なら黙ってやられるか?

 諦めるか?

 諦めて、納得できるか?

 お袋が言う様に、オッさんの親切を日々の糧にして、思い出しながら生きて行くのか?

 そんな事できるか?


 ——できるわけがない。


「〝フレンモ〟! フレンモフレンモフレンモフレンモフレンモフレンモフレンモフレンモフレンモフレンモフレンモフレンモフレンモフレンモフレンモフレンモフレンモフレンモフレンモフレンモフレンモフレンモフレンモフレンモ————!!」


 俺は馬鹿みたいに叫ぶ。

 

「だから無駄だって」

「フレンモフレンモフレンモフレンモフレンモフレンモフレンモフレンモフレンモフレンモフレンモフレンモフレンモフレンモフレンモフレンモフレンモフレンモフレンモフレンモフレンモフレンモフレンモフレンモフレンモフレンモフレンモフレンモフレンモフレンモフレンモ————!!」


 尚も叫ぶ。

 叫びながら、試せ。

 あの時黒男は俺の魔力を感じ取っていた。つまり、出し方があるのかもしれない。この「魔法の言葉」と共に何かをすれば魔法は出るのだ。もし魔法が弱くてこいつらに何もできなかったなら、その時には納得して諦めよう。だが、今はまだ、どうしようもない状況ではない。


「フレンモフレンモフレンモフレンモフレンモフレンモフレンモフレンモフレンモフレンモフレンモフレンモフレンモフレンモフレンモフレンモフレンモフレンモフレンモフレンモフレンモフレンモフレンモフレンモフレンモフレンモフレンモフレンモフレンモフレンモフレンモフレンモフレンモフレンモフレンモフレンモフレンモフレンモ————!!」


 こいつらを殺したい気持ちか?

 何処から出すかがポイントか?

 言葉と意識のタイミングか?

 炎のイメージか?

 それとも無心でやるのが正しいのか?


「うるせえな? 出せねえもんは出せねえんだって」


 尻に温かく硬いモノが当たる。


「〝フレンモ〟ッッ——!!」

「あちっ!」


 小太りのモノが離れた。


「あれ? もしかして火が出たのー?」

「あ、ああ。ちょっとだけな? ちょっとだけケツから火が出た」

「ケツから火!? ウケるー!!」


 ケツから火!? 出せたのか!? 何が違う!? こいつのアレが当たった時に出た!? なんだ!? 何を感じた!?

 もしかして、!?


「〝フレンモ〟!!」


 何も出ない。

 違うのか?

 いや、違わない。

 そうか。

 そういうことか。


「どうやら、マグレだったみてえだな? じゃ、いただくぜ?」


「マグレじゃない……! マグレじゃねえよ! くたばれ!〝フレンモ〟ッッ!!」


 全身に、熱を感じた。


 

 

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