合格体験記
「夕方に担任の美奈ちゃんから家電で『今から家族で学校に来てください』と言われて、私は、留年が決まって、それは電話では言えないんだ、と思って学校に行きました。父が会社から帰るのを待ってから出発したので、着いたのは8時くらいでした。美奈ちゃんが出迎えてくれて、そのままみんなで会議室に行きました。すると、教頭、教務主任、学年主任が立っていて、ウチと美奈ちゃんも足して、面談が始まりました。
いきなり結果だけ、教務主任から。
『卒業が認定されました』と。
私は喜びと『え?』という気持ちで崩れ落ちそうになりました。パッと美奈ちゃんを見たら、ニコッて笑ってくれて、ほんとに卒業できるんだ……と思いました。
そのあと、追試の結果を伝えられましたが、物理が不合格でした。
当たり前だけど、全科目合格しないと卒業できないから、追試が不合格なのに卒業できるのは極めて異例のことなので、電話では言えなかったとのことでした。
だけど、私が1年間授業後に補習をがんばっていたことや、追試に向けた補習をがんばったこと、手が震えて字が書けないながらもなんとか勉強したこと、しんどくても母に送迎してもらって何とか通ったこと、などなど私が1年間やってきたことを考慮して、会議の結果認められたとのことでした。美奈ちゃんや保健室の先生や1年、2年の時の担任など、私のことをよく知ってくれてる先生たちが、なんとか私の卒業が認められるように、走り回ってくれたと言っていました。物理の教科担の伊口先生も「あなたが努力してたことは忘れてないよ」と追試の前に言ってくれてたので、名前は上がってなかったけど、伊口先生も入っていそうな気がします。
ちなみに、美奈ちゃんは私がいるから3年5組の担任になったって前に言っていました。部活でよく知ってるから私がいるクラスに立候補したらしいです。なんとなく、父が『あの先生は将来出世するな』と言ってたけど、美奈ちゃんはずっと下っぱのままでいてほしいと思います(悪い意味じゃないです)。」
自作品「不合格体験記」より
ここには登場していないが、化学の先生は、症状で文字が読めなくなった私のために、追試の際問題文を読み上げてくれた。理系数学の先生は、ろくに授業を聞いていないせいで何も知らない私のために、微分やら積分やらその他諸々、ゼロから解説してくれた。コミ英の先生は、授業と全く同じ内容をゼロから簡潔に説明してくれた上に、テスト前になると毎回対策のために時間を取ってくれた。英表の先生も同様である。美奈ちゃんは日本史の担当だったのだが、真っ白な授業プリントを埋めるために手伝ってくれたり、共通テストの出願に向けて配慮の申請のやり方をどうのこうのと説明してくれたり、「補習」のセッティングをしてくれたり、もはや記憶にないくらいエピソードがある。ちなみに、私は古典のおっさん先生が苦手だったのだが、決して悪い人ではない。たまたま高校最後の授業が古典で、もう欠課数は問題なくなっているにも関わらず、長ったらしいお説教を聞くために出席した。
私がやったことは、とにかく授業中教室に存在していることと、若干でもテストの点数を稼ぐこと、それだけである。電車に乗れない私を、母は毎日学校まで送ってくれた。家から学校まで片道1時間。私史上最悪の体調の頃は、迎えにも来てくれていた(つまり平日は毎日4時間運転していたことになる)。大学入試の出願、入学手続きなど、小難しい書類が絡んでくる件については全て父にお任せしていた。
母の経験上、勉強してない人が神頼みすると逆効果らしい。よって私は、高校受験でも大学受験でも、一切神の力は借りていない。と思ったら、知らない間に親がどこかの神社にお参りしていたらしい。
たとえ「受験勉強」をしていなくても結果なんとかなる。共テ利用で合格をもらった私が共通テスト本番で何をしたか、伝授しようではないか。
日本史は全て勘。中学内容だけでも多少は答えられるし、大河ドラマを観ていることが案外役に立ったりもする。
国語。読むのが極端に遅い、かつ古文漢文はノー勉。よって現代文しか問題文を見ていない。古典は何も考えずに全部②をマークした。
英語(リーディング)。大問4以降は本文が長いので捨てた。前半だけ真面目に解いて、後半は何も考えずに全部②をマークした。
リスニングに関して、上とほぼ同様である。
数学。これでも元気だったころの模試でⅠAは8割取ったことがあったので、その頃の記憶が残っていると信じて当たって砕けた。ⅡBは、太刀打ちできそうな問題だけ何となく挑戦してみた。試験中かなり暇だったが、それはそれで良しとして、翌日の学校のためにエネルギーを残しておこう。
化学。理論化学の基礎的な内容はかつて塾で先取り学習していたので、そのかすかな記憶だけを頼りに当たって砕けた。
物理。公式すら覚えていないので何もやることはない。試験開始の合図と同時にさっさと全部②をマークして、ものの数分で終わらせた。試験監督はぎょっとしていたが、終わった後は、問題冊子の適当なページに落書きしているだけでそれっぽく見えたっぽい。おえかきはおすすめの攻略法である。
分からない問題は全て②をマークしたのだが、これにも根拠がある。大昔に何かのコラムで、アからエの選択肢ではイが正解であることが多いというのを読んだからである。
このような舐め腐ったやり方でも合格をくれる大学はある。卒業のために、教室に存在していることを頑張った人でも、どこかの神社の神は見捨てないらしい。
「先生方には感謝しかありません……
友達も、先輩も、後輩も、この場を借りてお礼が言いたいです。
ありがとうございました!」
これも「不合格体験記」からの引用であるが、ストーリーの構成上このように書いているだけで、関わりのあった人に片っ端から礼を言いに行くレベルである。しかし病院の先生は、99%の私の努力と1%の周りの力だ、みたいなことを言っていた覚えがある。努力は裏切らないよ、ということで今回は締めておこうか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます