~第5節 魔力特性~
セレナの思惑通りライムの姿は視界のどこにも確認出来ず、付いてきてはいないようである。そして研究室の扉に近付いた時、後方からガヤガヤと数人の話し声と足音が近付いて来るのが分かった。
「あっ!セレナちゃん!早かったねっ」
「セレっちどうしたの?集合場所は学食だけど~」
「お早い合流で助かりますぅ~」
先に声を掛けてきたのはカケルだった。その後少し早足で残りのナツミとカエデも合流した。3人の意外な合流でセレナは研究室の扉を開ける前に振り向き、声の主を確かめた。
「3人ともどうしたの??アキラさんに用事?」
「うんうん、こいつがアキラさんに用があるからって言うから、一緒について来ちゃったんだぁ」
ナツミが後ろにいるカケルを親指で指しながら答える。
「あぁ、う~ん、ちょっとね、アキラさんから前に頼まれた物が有って、それが出来上がったから届けに来たんだ。セレナちゃんも頼まれ事?」
「私は頼まれ事じゃないんだけど・・・ちょっとね。あ、でもそれってこの前私が見てたプログラムだったりするの?」
「あ、そうそう!でも詳しいことは聞いてないんだけどね(笑)」
USBメモリをチラッと見せながらカケルは苦笑いしセレナに問い掛ける。それに対してセレナは少し気まずそうに返答した。
「ここで立ち話でもあれですから、中に入りません?」
何だか落ち着きなく早く中に入りたいカエデは他の3人を急かす様に足踏みをする。
「それじゃぁ~入ろっか?失礼しまぁ~す」
カエデに促されるようにしてナツミはアキラのいる研究室の扉を開いた。開いた先の談話室らしき所に人は見当たらず、奥の部屋からパソコンのキーボードを叩く音がカタカタと聞こえてくる。
「アキラさぁ~ん、いますかぁ~?」
談話室にアキラの姿を見つけられなかったため、カケルも声を掛けながら探す。すると奥の部屋のキーボードを叩く音が止み、白衣姿のアキラが姿を現した。
「やぁ、すまない。調べものに集中していて気が付かなかったよ。今日は随分と勢ぞろいで・・・セレち・・・あ、いやセレナ君はもう体調はいいのかい?」
「はい、今日はすっかり元気ですよ!」
ずれた眼鏡を直しながらアキラは3人に問いかけ、そして先日の事もありセレナの体調を気遣う。それに対してセレナは前面にグーを出し笑顔で答える。そこへカケルがUSBメモリを取り出し、アキラへ手渡す。
「はい、これがこの前依頼された物ですっ」
「あぁ、どうもありがとう。僕はプログラムがあまり得意でなくてね、カケル君にお願いをしていたんだよ」
そう笑顔で受け取るとアキラはUSBメモリをみんなの目線に見えるように持ち上げる。
「とりあえずセレナ君の件もあるし、全員に現状の詳しい説明が必要だろう。そこへみんな座ってくれ」
「えっ?何か重要そうな話みたいですけど・・・あたし達も居ていいんですか?」
「うんうん・・・」
状況的に部外者と認識しているナツミやカエデもとりあえず遠慮する。
「もちろんだ、君たちはセレナ君の友達だろ?それなら一緒に聞いて欲しいな」
そして談話室内のソファに各々好きな位置に腰を掛け、アキラの説明を一通り聞いた。
「結局、襲ってきた魔物はどこから現れたんですか?それに誰も気が付かないって変ですよね?」
「それに関しては世界中でも同様の事象は起きているんだけど、正直僕も未だに良くは解らないんだ。でも誰も気が付かない点は恐らく闇系の精神魔術『人払い《クリア・ディスタンス》』だろう」
談話室内の一番奥のソファで説明するアキラに対してカケルは疑問点が数多くあり、腑に落ちない。
「まっ、魔術って・・・現代に存在する・・・の?アニメかゲームの中の話かと・・・」
アキラの説明を聞き、片手をピタッと額に当てナツミは目をつぶった。
「魔術かどうかは分からないですが、私は神社の聖域には同じような効力が有るということを聞いたことがあります」
「なるほど、神聖魔術にも人払いはあるということなんだね?」
「そ、そうですね。人が近づきたくても気が逸れて近づくのさえも忘れてしまうような状態になってしまうそうです」
カエデは家で巫女の行事も受け持っているため、神職の内容に詳しい。
「でも、それならアキラさんはどうしてその人払いの影響を受けなかったんです
か?」
「僕は耐精神操作系魔術の呪符を持っていたから、特に問題は無かったのさ。その代わり使った分はまた補充はしないといけないけどね」
「アキラさんは何でも有りですねぇ・・・」
「そんなことはないさ、僕は弱点だらけだよ。でもそれ故に対策は怠らない様にしてるんだよ」
アキラの回答にある程度の納得をして、カケルは鷹揚に頷いた。
「あとは・・・闇の犯罪組織『ダークスフィア』の
セレナの質問にアキラは一瞬目配せして目をつぶりながら溜息を吐いた。
「そうだね・・・奴は今まで幾度も我々を襲おうと試みているんだ。その被害者の一人が火神教授だ。奴の目的がはっきりしない以上、君たちも狙われる危険性がある。だから十分に気を付けて欲しいんだ」
アキラの他全員がその重い空気を飲み込むように喉に唾を押し込み、ゆっくりと頷いた。
「さて、あとは魔力の測定をしたいんだったね、この際みんな自分の特性を理解するのにいい機会じゃないかな?」
その時、パッと手を上げカケルはアキラに質問する。
「はいっ、1つ聞いていいですか?」
「はいカケル君、何なりとどうぞ」
「そもそも、魔力ってどんなものなんですか?」
「良い質問だねっ、君は技術者に向いてるよ」
そして談話室の奥にあったホワイトボードをそそくさと取り出し、アキラはマーカーで図を描きながら再度説明を始める。
「この広い宇宙には様々な物質が存在するけれども、以前の科学ではこの約5%程しか解明出来ていないんだ。そして残りの95%が
アキラは力説の後マーカーで『マナ』と書き何度もグルグルとその字の周囲に丸を何重にも重ねる。それに対して更にカケルは質問をぶつける。
「そうすると、宇宙の95%も有るなら、人間の体内にもそのマナが存在するということですか??」
「そう!その通り!だから我々人類一人一人の中にも存在するということなんだ。カケル君は飲み込みが早いね。そしてそのマナが魔力とイコールということなんだよ」
ようやく頭の中のモヤモヤが整理され、カケルは何度も頷き返す。
「うーん・・・あたしは何だか良くわからなかったけど、カケルってそんなに頭良かったのね?」
「ちょ、ちょっと失礼じゃない?僕だってこれでも理数系の端くれだよ!」
「あーゴメンゴメン、言い過ぎね、言い過ぎ」
カケルの猛抗議に珍しくナツミは頭に手を当てやり過ごそうとする。
「ただ、これは皮肉なんだけれども、世界中で起きている暗黒霧から現れる魔物を倒すと落とすこの『
そしておもむろにアキラは白衣のポケットから赤黒く光る結晶を取り出した。
「これが・・・魔物の中から・・・?」
少し気味悪そうにセレナはアキラの手のひらにある結晶をジッと眺める。
「そう、そしてこれはこれから使う『
そこへ待ってましたと言わんばかりに目に星をキラキラさせて、カエデは前に一歩乗り出す。
「はいっ先生!その装置はどこにあるんですか?!」
意外なカエデの勢いに気圧されアキラは思わず一歩下がる。
「あ、いや僕は先生ではないのだが・・・えぇ~とそこの金属の扉の向こうが実験室になっていて、そこにあるんだよ」
「カエデは新しいものとか最先端の技術とかに目が無いのよねぇ・・・やっぱり家が神社とか古いものが多いから、とか?」
カエデの挙動に思わずクスッとセレナは笑みをこぼす。
「そうなのよねぇ~私小さい頃から神社で巫女とかやってるから、そういうものにときめいちゃうの~♪」
「うん、新しい技術に興味があるのは大変良いことだよ。それじゃぁ、みんな実験室の方へ来てくれ」
そして先に研究室の右側に位置する金属の扉をガシャンと開け、アキラは中へ入る。部屋の明かりと大きめのブレーカーをオンにして装置にも通電を行う。
ー--ブウゥゥゥゥゥゥン
独特の装置とモーターの起動音と共に装置に備え付けのパソコンが起動され、画面にはカラスのデザインがされたOSが立ち上がる。カタカタとキーボードでログイン操作を行った後にアキラは3人に向き直った。
「これがその『
「わぁ~すごぉ~い!これがその装置なんですね!?それに、属性ということは神社の
先ほどの目に星をキラキラさせた状態でカエデは装置を隈なく眺める。
「良く知ってるね!そう、正に
カエデの知識に感心しアキラは手で顎を擦り属性の説明を行った。
「あはは、ホントにこれじゃぁカエデの独壇場ね?それならカエデが最初に測ってみる?」
「もちろんっ!私に最初やらせて下さいっ!」
流石のナツミはカエデの勢いに負け、先を譲った。威勢の良い返事と共にカエデはアキラの前に出る。
「チャレンジャーだねぇ(笑)、それじゃぁその円柱の真ん中に横たわって安静にしていて欲しい。そんなに時間は掛からないはずだよ」
カエデが装置の円柱状の中心にあるベッドに横になり、それを確認するとアキラは装置のパソコンを操作する。すると先程ではない起動音で装置のリング状の部分が光を発しながら回転し、カエデの頭側から足元まで移動して元の頭側へ戻って装置は停止した。
「さ、終わったからもう起きて大丈夫だよ。それじゃ結果を見てみようか?」
「ドキドキ・・・」
アキラがパソコン上でデータ確認する間、落ち着きが無いようにカエデは軽く足踏みする。
「うん、出たよ。カエデさんの魔力総量は普通の人の2倍程で、属性は水と光属性だね。カエデさんの場合の光は神聖魔術になるのかもしれない」
「魔力総量は2倍で属性は水と光属性ですねぇ~ありがとうございますっ!」
小走りに喜んでカエデ装置から離れる。
「そっかぁ~カエデは水と光属性って何だか合ってる気がするねぇ~」
「そうだよねぇ、正にピッタリ適合してる感じ」
巫女であるカエデの普段の雰囲気に属性がマッチしているようでセレナとナツミは関心する。
「ところで単純な疑問なんですが、この装置は服を脱がなくても検査出来るんですか?」
「いやぁ・・・」
カケルのデリカシーの無い言葉で、はしゃいでたカエデは一転して両手で両肩を抱きしめて隅に縮こまる。そこをすかさずアキラがカケルをヘッドロックにして拳骨を擦り付け戒める。
「こらっ!君は何を想像しているんだ?!この装置は服を着たままで大丈夫なんだっ!まったく」
「痛たたたっ!すみません・・・」
「はい、それじゃぁ~次はあたしがやろうかなっ!」
アキラの承諾を待つことなくナツミはそそくさと装置に横になった。
「あぁ~はいはい、準備するからちょっと待って。はい、どうぞっ」
カケルを放り出しアキラは慌てて装置を起動させる。カエデの時同様に装置が動き、無事に検査は終了しデータを確認する。
「えぇ~ナツミさんもカエデさんと同じく魔力総量は普通の人の2倍程で、属性は火属性のみだね」
「えっ?!あたしは属性一つだけなんですか?」
意外なアキラの答えにナツミは飛び起きた。
「う~ん、こればかりは人によるからねぇ・・・」
「そうですかぁ~まぁでも判るだけましっと言うことで。あたしには空手があるし!ありがとうございますっ」
空手でなく何故かボクシングのシャドウをしながら、ナツミは装置から離れる。
「それじゃぁ~次は僕がやりますねっ」
今度はアキラの準備がちゃんと整ってから、カケルは装置へ横になった。そして装置の検査が終わり、カケルはアキラの操作する画面に食い入るように見る。
「うん、カケル君の魔力総量は普通の人並みで、属性は地属性のみだね」
「えぇ~っ!?僕は魔力は人並みで、属性はナツミちゃんと同じで一つかぁ・・・残念」
「まぁそう言うなって、僕なんか普通の人の半分しかないんだぞ。それに比べたら人並みに有るだけ感謝しろって」
ガックリと肩を落とすカケルの肩をポンポンと叩き、アキラは慰めた。
「最後は私ですね」
「うん、それじゃ準備するから」
セレナは装置に横になり、要らぬ心配をしながらアキラの準備が整うまで待つ。
(私・・・魔力が極端に少なかったり属性が無かったりしたらどうしよう・・・)
「さ、準備出来たから。いいかい?」
「あ、はいっ!」
今までと同じ動作で検査は無事に終わり、検査が終わった後セレナは検査ベッドにそのまま腰を掛けていた。
「なっ、これは?!魔力総量は常人の3倍程で属性は火と光と闇属性だよ!」
「えっ?・・・私そんなにあるの?属性も3つ・・・?!」
「セレっち凄い!」
「全部人並み外れてますねっ!」
「いいなぁ~っ!」
アキラは目を疑うようにモニターを眺めた。それに対してセレナ含め他の3人
もその特性に驚きを隠せないでいた。
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