373. いざ海へ

 

 僕たちは団長、領主様、イースに見送られて王都を出発すると、前に通った辺境の戦場跡地を抜けてパリスタに入った。


「パリスタではやっぱり目立たないよう行動した方がよさそうだね」

「そうだな」

「あれから何ヶ月も経って年も越したのに、まだあの歌が歌われているのか……」


 エトワーレから一番近いマージュの街に行ってみたら、広場ではションターではない吟遊詩人が、女神エピオネの使徒と呼ばれるAランク冒険者パーティーの歌を歌っていた。


 ショーンターが歌う歌に、更に尾鰭がつき、空を駆けて困っている街に下り立つとか、金色に輝く光の中から現れるとか、本当にもう人間ではなく使徒様と言われるような登場の仕方をしたことになっている。

 しかも、5人の冒険者のうち1人は子供、1人は美女、屈強な戦士が2人に頭脳派の博士が1人という内容になっていて、ずいぶん話が捻じ曲がってしまったらしい。


「これなら僕たちがその冒険者だって分からない気がする」

「そうだが、これだけ流行っていると、それらしいというだけでも目をつけられそうだ」

「ゲオーグの言うとおりだな。ギルドにはよらず最短で通り抜けて海を渡った方がいいだろうな」



 僕たちはギルドにも寄らず、最短距離で森を抜けてラメールの街まで来て、ストーリア行きの船を探した。


「ストーリアのビギン行きの船はいかがか? 冒険者歓迎するよ。Cランク以上で護衛をしてくれるなら船代は半額にするよ」


 そんな声をかけて歩いている人に話を聞いてみると、その人は船長さんで、明日の朝にストーリアのビギンに向けて船が出るんだけど、護衛が見つからないから出発が遅れるかもしれないと言っていた。

 僕たちは船代はそのままで、僕たちの素性を国の人や貴族に明かさないことを条件に護衛を引き受けて、船に乗せてもらうことにした。


「おじさん、いつも護衛の人を見つけるのは大変なの?」

「いや、去年の秋から高ランク冒険者が次々と国を出ているらしくてな、そのせいで護衛が見つからないんだ」


 詳しく聞いてみると、低ランク以外の冒険者を国や貴族が集めているのだとか。

 それって、エピオネの使徒の噂のことかな? おじさんに聞いてみたら、そうじゃないみたい。

 疫病で、というか疫病の影響による飢餓で壊滅的な被害を受けた街では、遺体の処理が遅れてアンデッドが湧いているそうだ。その処理を低賃金で冒険者に押し付けているらしい。ギルドを通さず、権力で従わされ問題になると、体力のある高ランク冒険者は国を出始めた。それで護衛が見つからなかったのだと教えてくれた。


 嫌な話を聞いちゃったな。やっぱりパリスタは少しおかしい。ルヴォンとグレルも、きっとこのことは知ってると思うけど、ストーリアに着いたら伝言を入れておこうと思う。


 船は大きくて、ファングヘリングとか、シーサーペントが来ても転覆することがないくらい頑丈に見える。それでも群で襲われると厳しいから、群れが現れたら海に向かって魔術を飛ばして欲しいと言われた。

 魔術にびっくりすると、魔獣の大半は逃げていくらしい。

 知らなかった。だからファングヘリングの群がバラけてしまったのかもしれない。

 もっとゆっくり囲んでそっと追い立てないといけなかったのかも。


 船に乗って海に出ると、波で船が揺れる。この船は魔道具で進んでいるらしい。そんな魔道具があるなんて知らなかった。

 僕はずっと索敵で海を調べてたけど、魔獣は船にはほとんど寄ってこない。


「あんまり魔獣いないね」

「この時期はもっと沖にいるらしいぞ。夏になるとこの辺りでも増えるらしい」

「そういえば夏は船が出ないと言っていたな」


 朝に船が出て、次の日にはストーリアのビギンの港に着いた。


 海を渡ったのは初めてだった。夏には船が出ないから、夏を避けて帰らなきゃいけないんだな。覚えておこう。


 船の上では何度か光の玉を使った。そんなに大きな群はいなかったし、船に向かってくることはないかもしれないけど、魔獣が船に近付かないように光の玉を操作して魔獣を遠ざけた。

 追い立てて誘き寄せるのにも使えるけど、遠ざけることにも使えることが分かったのは収穫だった。


 一度、イーグルが上空を旋回していたんだけど、それはルシカが投擲で落としていた。残念だけど、それは海に落ちちゃったから、回収もできなかったし倒せたかも分からない。倒せていたら、海の魔獣の餌になったのかな?


「助かりました。探知の魔道具で見ていましたよ。魔術で魔獣を遠ざけてくれたんですね。あなたたちは相当優秀と見える。我らも困っているんだ、貴族連中なんかに売ったりしませんのでご安心ください」

「よろしく頼む」


 探知の魔道具ってのがあるんだ。知らなかった。

 僕たちはこうして、意外にもあっさりと海を渡ってしまった。

 もっと大変なのかと思ってたけど、本当にあっさりと、拍子抜けしてしまうくらいだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る