5. シュペアとの出会い(ルシカ視点)



俺はいつものように冒険者ギルドで依頼達成報告を済ませると、出口に向かって歩いていた。



「おいガキ、邪魔だ、どけ!」


斧を持った、いかにも素行の悪そうな男が子供を突き飛ばした。

あーあ、泣いちゃうかな。


「何するんだよ。僕も並んでたんだ。ちゃんと順番守らなきゃ・・・」

「あぁ?」


意外にも、少年は勇敢に立ち向かった。

でも、自分の倍以上あるような顔面凶器に凄まれて、ちょっとビビってる。

可愛いから助けてやろう。



「おい、子供を脅してみっともないぞ。大丈夫か?坊主。」

「うん。」



こっちを見た少年は、真っ白で少しカールしたふわふわな髪に、アイスブルーの瞳を潤ませていて、女の子のように可愛かった。

頬にあざのようなものがあるのが気になるが、冒険者ならおかしいってわけでもないか。

これは1人にしておいたら奴隷商に狙われるな。


「依頼受けたんだろ?1人で受けたのか?」

「うん。」


「そうか。家のために働くなんて偉いな。」

「違うの。僕は偉くない。家のためじゃない。1人で生きていくために働いたんだ。」


1人で生きていく?この歳でか?



「そうか。親はいないのか?まさか捨てられたとか?」

「違うの。・・・僕が捨てたの。

みんな僕のことを信じてくれないから。だから、1人で生きて、頑張って強くなるんだ。」


親を捨てる、か・・・。


「へぇーお前根性あるな。俺はルシカ、お前は?」

「僕はシュペア。」




これ以上変な奴に絡まれないよう、一緒に順番を待って手続きするところを眺めていると、報酬を見て少し悩んでいた。


「あの、このお金で何が買えますか?」


金の価値を知らないのか。

てことはあの依頼が初めて受けた依頼なんだろう。


「この銅貨1枚でパンが2個買えるわよ。冒険者ギルドでは、文字の読み書きや計算、一般常識の無料講座があるから、時間があるときに受けるといいわ。」

「そんなのあるの?受けたい。あ、でも、もう少しお金を稼いでから・・・。」



親を捨てたって言ってたし、金も今の報酬だけだろう。そんなんでどうやって生きていくんだ。


「なぁシュペア、もしかして家も宿も無いのか?」

「うん・・・

今日この街に着いて、冒険者登録して依頼を受けたところだから。」


そうか。なるほど、この街に来たばかりか。


「ん?、それにしては荷物少ないな。槍以外の荷物は?」

「無いよ。何も持たずに来たから。」


「飯はどうしてたんだ?」

「食べてない。水を飲んでた。」


「水筒は?」

「持ってない。手から魔術で水を出して飲んでたから。」


この歳で貴族でもないのに魔術を使えるのか。しかも水を出せると言う。

旅をするには水が必須だ。運良く川を見つけられればいいが、見つからない時は本当に辛い。

欲しいな。いつでも水が出せるなんて素晴らしい。


「そうか。シュペアは魔術で水が出せるのか。それは便利だな。

よし、一人前になるまで俺が面倒見てやろう。」

「え?なんで?僕1人で生きていけるから大丈夫だよ。」



まさか断られるとは思ってもみなかった。

でも、逃したくないな。

この子を1人にするのは危険だろうし。


「あのなぁ、泊まるところ無いんだろ?今日のその稼ぎじゃ、宿に泊まれないぞ。

それに子供だけだと宿も断られるかもしれないしな。」

「だったら、どこかの木の上で寝るから大丈夫。」


木の上で寝る?サバイバル能力高いな。田舎出身か。


「さっきの斧持った奴みたいなのが絡んできたらどうする?」

「う・・・

大丈夫。逃げれる。」


「ルシカお兄さんと一緒に旅したら楽しいよー

色々教えてあげるよー

たまにちょっと水出してくれればいいから。」


打算があることも少し匂わせてみた。

きっと賢そうなこの子なら気付くだろう。



「分かった。僕、ルシカと一緒に行く。」


食いついた。

良かった。俺もこれで安心して眠れる。

この子が虐められたり奴隷商に攫われたりしたら寝覚めが悪いからな。


「うん。じゃあこれからよろしくね。」

「はい。よろしくお願いします。」


やけに丁寧な言葉を知ってるな。

まぁでも良い子そうだ。



「じゃあ早速ご飯食べに行こう。何も食べてないんだろ?何日食べてないんだ?」

「3日くらいだけど、でも僕、あまりお金無いから・・・」


「心配するな。このルシカお兄さんがご馳走してあげるから。」

「良いの?」


恐る恐るといった感じで尋ねる姿は庇護欲をそそるな。

まだ俺のこと警戒してるのか。


「一人前になるまで面倒見るって言ったろ?」

「うん。じゃあ、早く一人前になって、今度は僕がルシカにご飯ご馳走するね。」



うわー何だそれ。

健気だ。健気すぎるぞ。心配だ。



「シュペアはいい子だなー

お兄さんが抱っこしてあげるよ。」

「要らないよ・・・もうそんなに子供じゃないし。」


「それは残念。まぁいいか。じゃあ行こう。」

「うん。」



残念。男児に興味はないが、まるで歳の離れた弟みたいに感じて、甘やかしてやりたいと思った。


攫われないよう、しっかり手を握って、いつもの酒場に向かった。




「・・・ルシカ、ここって僕入ってもいいの?」


そうか。まだこいつは子供なんだった。

酒場はまずかったか?いや、大丈夫だろ。


「いいんじゃない?俺の連れだし。」

「うん・・・。」


不安そうな顔をしていたが、俺が席に座ると、シュペアは向かいの席に座った。


「何飲む?まだ成人じゃないよな?酒はダメか。」

「僕はお水出せるから、飲み物は無くても大丈夫。」


「遠慮するな。じゃあシュペアにはリンゴジュース頼んでやろう。

おばちゃーん、エールとリンゴジュース!」

「はいよー」


子供と言ったらリンゴジュースだろ。


「ほれ、来たぞ。かんぱーい!」

「かんぱい。」


乾杯をすると、なぜか分からないがシュペアは少し嬉しそうな顔をした。



「美味しい。凄い。こんな飲み物があるんなんて知らなかった。」


「ん?リンゴジュース知らないのか?」

「うん。」


リンゴジュース知らないのか。

田舎の村には店がないところもある。その村でリンゴを作ってなけりゃ飲む機会もないか。



「そっか。シュペアはきっと田舎の小さな村の出身なんだな。」

「うん。なんで分かったの?」


「ルシカお兄さんは物知りだからだよー」

「そう・・・。」


「何か嫌いな食べ物はある?」

「無いよ。」


「おぉー、シュペアは好き嫌いが無くて偉いねー」

「偉くなんかないよ。揶揄わないで。」


甘やかせて褒めるのは苦手みたいだ。

1人で生きていくという決心からだろうな。



「せっかくだし、肉食おう。やっぱエールには肉だ肉。」


3日も何も食べてないなんて、相当腹が減っているだろう。

せめて腹いっぱい食わせてやろう。

俺は色んな肉料理を頼んだ。



「ルシカ、そんなにたくさん頼んで大丈夫?他の人のお肉が無くなっちゃうんじゃない?」

「ん?問題ない。この店の奥には肉がいっぱいあるからな。」


「そうなの?このお店は独り占めしてるの?」

「さっき冒険者ギルドに人がたくさんいたろ?あの人たちが魔獣を狩って帰ってくるから、この街には肉がたくさんある。

街のみんなで分けても余るくらいな。」


そんな心配をするなんて、可愛いことだ。

そうか、田舎では肉は貴重なのか。



「凄い。あのたくさんいた人たちは魔獣を狩れるんだ。僕もいつか。」

「シュペアもできるさ。この俺がついているからな。」


シュペアは肉料理を喜んで食べていた。

うんうん。良いことだ。たくさん食べて早く大きくなれ。




「女将さーん、今日から俺の部屋にこの子泊まるから。」

「あら、こんな可愛らしい子どこで攫ってきたんだい?」


「俺は子供なんか攫わないよ~

色っぽい女の子なら攫いたいけど。」

「はいはい。じゃあ朝ごはん代は2人分貰うよ。」


「あの、僕自分で払う。」

「いいのいいの。ルシカお兄さんお金いっぱい持ってるから。シュペアはお金貯めていい槍買いな。」


「でも・・・。」

「ルシカに頼っておきな。

ルシカは適当なところはあるし、チャラチャラしてるけど、まぁいい奴だから安心しな。」


女将さんが援護してくれた。

援護、だろうか?なんかちょっと貶された気もするが・・・。


まぁでもいい。

シュペアは俺がちゃんと一人前になるまで面倒見てやろう。その間は水に困らないしな。


ーーーーーーー

お金の価値

銅貨(100円)

小銀貨(1,000円)

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