3. シュペア10歳、村を出る

それから僕は、魔術の練習もするようになった。


領主様に助けてもらった日は、帰ってから母ちゃんと父ちゃんに、領主様に会ったと報告した。

でも、父ちゃんも母ちゃんも、呆れた顔をして、信じてくれなかった。


魔術が使えたら信じてもらえるかもしれないと思って頑張ってみたけど、上手くできなかった。



「本当だよ。僕は手から水が出せたんだ。」

「本当だよ。領主様に教えてもらったんだ。」

「本当だよ。信じてよ。」



村の他に人にも言ってみたけど、誰も信じてくれなかった。

信じるどころか、それ以降はみんなから嘘つきって言われたり、うるさいって追い払われるようになった。

頭がおかしくなったって、もう要らないって影で言われているのも聞いた。



僕は村にいたくなくて、山に通ってたくさん魔術の練習をした。

家では毎日、温かいのが身体をぐるぐるするのを繰り返した。


ぐるぐるしているだけなら、魔力は減らない。何かに使うと、その温かいのが少し減る感覚も分かってきた。



最初は目を瞑って集中してイメージしないとできなかったけど、目を開けたままでも、歩きながらでもできるようになった。


ご飯がない日は、お水を飲んで空腹を紛らせて、家に入れてもらえない日は、木の上に登って枝にもたれて寝た。


相変わらず村のみんなには避けられたり、怒鳴られたり、突き飛ばされたりしたけど、僕は強くなるために我慢した。





そんな生活をずっと続けていたある日、とうとう鹿を狩った。

腕に温かいのを集めて、槍を速く遠くまで飛ばすことを考えて槍を投げたら、凄いスピードで槍が飛んでいって、鹿の首に刺さったんだ。


でも、僕1人では運べないから、急いで村の人を呼びに行った。



鹿を倒したから、運ぶのを手伝って欲しい、山に一緒に行って欲しいって言ったら、邪魔をするなって怒られた。

めんどくさいガキだって言って突き飛ばされた。


お肉があれば、きっと村のみんなが喜んでくれると思ったんだ。

役に立てば、要らないって言われないと思ったんだ。



「ねぇ、信じて。僕、本当に鹿を倒したんだ。」

「信じて、嘘なんて言ってないんだ。」



誰に話しても、怒られた。

どうして信じてくれないの?



みんなの目に、僕は映っていないみたいだった。



本当に倒したのに。

早くしないと、他の獣や魔獣に取られちゃう。

そう色んな人に訴えても、呆れた顔をされたり、睨まれたり、誰も信じてくれなかった。




最後には父ちゃんが来て、

「いい加減にしろ!みんなに迷惑をかけて!お前なんか要らない!」

そう言って何度も殴られた。



僕が子供だから信じてくれないんだろうか。

擦りむいた掌から血が滲んで、殴られた頬っぺたも痛くて。

口の中も切れて痛かった。


もしここに領主様がいたら、きっと僕のことを信じてくれたと思う。

優しくて温かい手で、僕の頭を撫でてくれたと思う。



父ちゃんも母ちゃんも、村のみんなも嫌いだ。僕は嘘なんて一度も言っていないのに。

それに、もう僕は要らないんだ。

だったらこんな村、僕だって要らない。



僕は槍を持って家を出た。

そして村を出て、今まで山までしか来たことがなかったけど、山を右手に通り越して、もっとずっと歩いた。

道が続いていたから、きっとどこかに辿り着けると思う。


街があったら、僕は冒険者になるんだ。



辺りが暗くなると、僕は木に登って枝にもたれて寝た。

お腹が空いたけど、何も持ってなかったから、手からお水を出して飲んで空腹を紛らせた。

いつもご飯が無い時はそうしていたから平気。


そうして何日も歩いて、3回くらい木の上で寝たら、やっと街が見えた。



街は、僕の村とは全然違った。

人がたくさんいて、たくさん家があって、お店もたくさんあった。



「凄い。」


全部が凄かった。

街の中を馬車が走ってたし、みんな綺麗な服を着ていた。


「あの、冒険者ギルドはどこ?」


近くにいた、木箱に座っているお爺さんに聞いてみた。


「ん?冒険者ギルド?この道を真っ直ぐ行くと右にあるよ。看板に剣がクロスした絵が描いてある。」

「おじいさん、ありがとう。」


僕はお爺さんにお礼を言って、冒険者ギルドに向かった。


入り口を入ると、中には強そうなお兄さんたちがたくさんいて、少し怖かったけど、優しそうなお姉さんがいる受付まで行って、冒険者になりたいって伝えた。


「文字は書けますか?代筆しますか?」

「文字は書けない。」


「名前と年齢は?」

「名前はシュペア、10歳です。」


「得意な武器と魔術はある?」

「武器は槍、魔術は身体強化です。」


「あら、意外と優秀ね。じゃあ登録するからこの機械に手をかざして少し魔力を流してね。」

「うん。」


「できたわ。これがあなたの冒険者カードね。これは身分証にもなるから、無くさないよう気をつけてね。」

「うん。」



「まずはランクはGからよ。そこにランク別に依頼が貼ってあるから、Gランクのものを選んでね。

文字は読めるかしら?」

「僕、文字が読めなくて。」


「そう。この文字が『G』よ。

依頼は絵でも書いてあるから、分からなければ聞きにきてくれれば読んであげる。」

「分かった。」



僕は冒険者カードをポケットにしまって、依頼が貼ってあるところに向かった。

お金が無いから、稼がなきゃ。ご飯も食べられない。

頑張ろう。


Gランクのところは、草を摘むのと、掃除と、農家の手伝いもあった。

冒険者みたいじゃないけど、でもこれなら僕にもできる。


「これを、お願いします。」

農家の手伝いの紙を受け付けへ持っていくと、お姉さんがスタンプを押してくれた。


地図を渡されて、場所を教えてくれた。

そこに行ったら、紙を見せて、冒険者ギルドから来たと言えばいいみたい。




「こんにちは!冒険者ギルドから来ました!」

大きな声で挨拶したら、優しそうなおじさんが来て、今日やることを教えてくれた。


本当は大人の人がやる仕事なんだと思う。

じゃがいもをカゴに入れて、それをひたすら運んだ。

お金を貰うんだから、ちゃんと役に立たなきゃいけないと思って、たまに身体強化を使って、頑張って運んだ。


「坊主、お前力持ちだな。それに根性がある。気に入ったよ。また依頼を出すときには来てくれると助かる!」

「うん。分かった。その時はよろしくお願いします。」


おじさんにサインをもらって、冒険者ギルドに向かった。

もう陽が傾いて、少しずつ辺りが暗くなっていた。


冒険者ギルドに入ると、来た時よりたくさん人がいて、受付に行列ができていた。

僕も1番後ろに並んだ。


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