少年シュペアの冒険譚 〜無自覚に最高峰を目指す〜
たけ てん
準備編
1. 出会いと約束
ここはエトワーレ騎士団の魔術演習場。
僕は苦手な火の魔術を騎士団のお兄さんに教えてもらってるところ。
「ちょっ、あ・・・」
シュヴェアト騎士団のお兄さんがなんか焦った感じだったけど、僕はそのまま手の前に出したファイヤーボールを的に向けて撃ってみた。
ドゴーン!!!!
僕が撃ち出したファイヤーボールは、的を破壊して壁までいっちゃったから、凄い音が鳴った。
「シュペア、大丈夫か?」
「うん?大丈夫だよ。」
「そうか。魔力の残りも大丈夫か?」
「うん。」
みんなが僕の方に駆けてくるのが見えた。
団長と話をしてた仲間ルシカとゲオーグもこっちに駆けてくる。どうしたんだろう?
「シュペア、大丈夫か?今のはなんだ?」
「えっと・・・シュヴェアトに火の魔術を教えてもらったの。」
「そ、そうか。で、シュヴェアトはシュペアに何を教えたんだ?いきなり高火力の魔術を教えたのか?」
「あ、いや、俺は自分が出した火の魔術は自分を害することはないから怖くないと教えただけで・・・。」
「僕、何か間違えちゃった?的、壊しちゃってごめんなさい。」
「いや、それはいいんだが、威力が普通じゃなかった・・・。」
「とんでもねぇな。」
「あぁ、あの的って中級魔術でも耐えられるんじゃなかったか?」
「そうなの?確かにあれで焚き火つけたらすぐに全部燃えちゃうね。」
「そ、そうだな。」
『初級魔術で中級魔術に耐えられる的を壊したんだ。もうこの時には規格外に片足を突っ込んでいたじゃないか?』
後にそう言われるんだけど、それはまだ先のお話。
僕が憧れの領主様の護衛兼側近を目指すことになるには、まず僕が5歳の時、領主様との出会いから話そうと思う。
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僕が住んでる村に、『りょーしゅさま』って男の人が来た。
なんか分からないけど、魔術ってやつで、土をブワーって掘って、石が浮いて掘った穴に落ちて、新しい井戸ができた。
畑に水撒くための井戸と、村の真ん中にしか井戸がなかったから、いつも村の人が並んで使ってた。
不便なことを解決してくれるのが『りょーしゅさま』って人らしい。
「他に不便なことはないか?
他の者も不便なことや望みがあれば言ってくれ。私にできることなら対処しよう。」
「僕、お肉食べたい!」
不便なことってのは分からなかったけど、望みがあれば言っていいって言ったから、僕は声をあげたんだ。
「シュペア!余計なことを言うんじゃない!」
でも、母ちゃんに怒られた。母ちゃんが僕を見たのは久しぶりだったと思う。
「だって、最近野菜ばっかりだし・・・。
お腹が空いて・・・。」
望みを言っちゃいけなかったの?
お肉を食べたいって言ったのはダメなことなの?
『りょーしゅさま』という綺麗なお兄さんは僕のところまで歩いてきて、しゃがんだら僕と同じくらいの身長になった。
「君は肉が好きなのかい?」
「うん。でも、ごめんなさい。」
『りょーしゅさま』って人は、僕に話しかけたけど、僕はまた母ちゃんに怒られるのが怖くて謝った。
「謝る必要なんか無いんだよ。
よし、お兄さんが特別にお肉を狩ってきてあげよう。」
「いいの?」
「あぁ、いいよ。たくさん食べて大きくなるんだぞ。」
この『りょーしゅさま』って名前のお兄さんは、謝らなくて良いって言ってくれた。
お肉を狩ってきてくれるって言って、僕の頭を優しく撫でてくれた。
その手は温かくて、優しくて、心が温かくなった。
こんな温かい手は、初めてだった。
「りょ、領主様、領主様に狩りなどさせられません。お怪我でもされたら・・・。」
「大丈夫だ。私は魔術師だからな。じゃあちょっと行ってくる。」
「あ、、、」
お兄さんは、凄いスピードで走って村を出て行った。
あんなに速く走れるなんて凄い。
僕もいつか、あんな風に速く走れるようになりたい。
「行っちゃったね。」
「お前が余計なことを言うからだ。」
僕は村のおじさんに怒られて押された勢いで倒れた。
尻餅をついた僕は、手が少しだけ擦りむけてることにも気付かなかった。
お兄さんは謝らなくていいって言ってくれたけど、僕は悪いことをしたのかな?
「領主様にもしものことがあったら、わしはどうすればいいんじゃ・・・。
それに。長居されるのは・・・。」
「長老・・・」
長老が、地面に座り込んで落ち込んでいるのを見て、やっぱり僕は悪いことをしてしまったのだと思った。
「ごめんなさい。」
「お前のせいで領主様は危ない目にあっているんだ。どうするんだ!」
「そうだ!どうするんだ!」
「ガキが余計なことを!」
「ご、ごめんなさい。」
何が悪かったのか分からないけど、お兄さんが危ない目にあうのは、僕のせいなんだって。村のみんなにいっぱい怒鳴られた。
どうしたらいいんだろう?
危ない目にあっていても、僕ではきっと助けられない。
僕は、どうすればいいの?
あの優しく頭を撫でてくれた温かい手、僕のせいでお兄さんは怪我をするの?
怖い。
どうしたらいいのか分からないし、怖いのが止まらなくて、村の中をウロウロしていたら、お兄さんが大きな鳥を担いで帰ってきた。
大きな鳥は、村のおじさんたちが担いで、広場まで運んで行った。
僕はお兄さんに謝らなければいけないと思い、お兄さんの元に走った。
「りょーしゅさま、ありがとう。あと、ごめんなさい。僕のせいで。」
「ん?何も謝ることはないと言ったはずだよ。どうした?」
怖かった。涙が溢れそうになって、必死に堪えた。
「僕が余計なこと言ったから、りょーしゅさまが危ない目にあったって・・・。」
「そんなことないぞ。私は強いからな。危ない目になんかあっていないし、謝ることなんかない。
君の名前は?」
お兄さんは僕を抱き上げて、溢れそうだった涙を黒いハンカチで拭いてくれた。
やっぱりお兄さんの手は温かくて、そして力強かった。
人の手って、温かいんだ。知らなかった。
「僕は、シュペア。」
「シュペア、誰に言われたか知らないが、私はこうして怪我もなく、大きな鳥も狩って来ただろう?
私の言葉を信じてみろ。」
そうだ。お兄さんは大きな鳥を狩ってきた。どこも怪我もしてない。
お兄さんは強いんだ。
僕はお兄さんを信じるよ。
「うん。りょーしゅさまは強いから大丈夫。」
「そうだ。私は強いから大丈夫だ。
さぁシュペア、大好きなお肉をたくさん食べよう。
そして強くなるんだぞ。」
お兄さんの笑顔は眩しくて、綺麗な人の笑顔は眩しいものなんだと初めて知った。
僕も強くなれるかな?
「うん。僕もりょーしゅさまみたいに強くなりたい。」
「なれるよ。
じゃあいつかシュペアが強くなったら、私を守ってくれるかい?」
守りたい。
この優しくて温かい手で包んでくれた、お兄さんのことをいつか守れるようになりたい。
「うん。僕、強くなってりょーしゅさまを守るよ。」
「うん。楽しみにしているよ。」
僕はたくさん食べて、早く大きくなって、お兄さんを守るんだ。
僕に夢ができた瞬間だった。
お肉をみんなで分けて、しばらくするとお兄さんは帰ると言った。
そっか。お兄さんは強くて優しい人で、色んな村に行かなきゃいけないから、ずっとここに居ることはできないんだ。
黒馬に跨って駆ける姿は、とても格好良くて、強くて優しくて格好いい、僕もあんな大人になりたいと思った。
お兄さんがいなくて寂しい。でも、僕には夢がある。
それに約束したんだ。
だから、僕は寂しくても頑張るよ。
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