甘いリンゴの境界線
たい焼き。
第1話 きっかけ
「やっほー、
「よ、よろしく……」
「あ、私、
満開だった桜も今は爽やかな風にのり、薄いピンクの絨毯をところかしこに作ろうとしている。
入学してから1週間。通学路にも高校の雰囲気にも慣れ、徐々にクラスメイトの輪が広がっていく。
そんな時に彼女と出会った。
自由が丘
平均的な偏差値だけど、女子校らしく校則は厳しめ。都内にある学校のせいか、土地柄か、金銭的に困ったことはないようなお家の子たちが多いみたい。
「おはよー、愛子~」
「おはよう、みやこちゃん」
「あ、お、おはよう! 愛子さん」
「おはよう、友美ちゃん」
駅から学校に向かっている途中、後ろから声をかけられた。
振り向くと、ひと足早い夏のようなまぶしい笑顔のみやこちゃんと少しおどおどしている友美ちゃんがいた。
みやこちゃんと友美ちゃんは、家も近いようでいつも二人一緒に登下校している。
みやこちゃんと友美ちゃんは、まるで正反対。
ハキハキしていて、竹を割ったような性格のみやこちゃん。今日も周りの温度をあげるようなまぶしい笑顔。
一方、友美ちゃんは……よくわからない。楽しそうに笑ったりもしてるけど、私とあまり目を合わせてくれない。
他のクラスメイトも、距離を測りあぐねているみたい。みやこちゃんと一緒の時は平気なんだけどね。
そう思っていたけど、しばらく友美ちゃんを見ていてわかった。
彼女は周りと打ち解けるのがゆっくりなだけで、打ち解けてしまえば一躍クラスの人気者になった。
「ヤバい! 友美、英語教えて。今日、当たる~」
「麻賀っちー! おっぱい重くね? 何カップよ?」
「あしゃが、あしゃが~。新刊見た? 今回もホント萌えたぁ〜。あ、チョコパイ食べる?」
ギャルからオタクまで全方位から好かれていて、休み時間になると彼女の周りにはいつも誰かしらいた。
友美ちゃんも馴染んだのか、口調がだいぶラフになった。
「ねぇねぇ、愛子さん愛子さん。何でそんなに数学できるの?」
「ん? 普通に授業聞いて課題出してるだけだよ?」
「……これだから勉強ができる人はさー」
友美ちゃんは、透き通るような白いほっぺたをおもちのように膨らませる。
私はつい、ぷくっと膨らんだほっぺたをツンツンと指でつついた。
途端に友美ちゃんの口から「プシューッ」と空気が抜けていく。
それと同時に私たちはケタケタと笑いあう。
「友美ちゃんのほっぺたっておもちみたいだよね」
「はあ? 愛子さん喧嘩売ってんの?」
友美ちゃんのほっぺたが白雪姫のように赤く染まる。ぱっちりと大きな目が線をひいたように細くなり、私を捉えた。
顔が整っている子は怒ると迫力がある。
「ごめんごめん」
「……謝りながらほっぺぷにぷにしないで」
そういう友美ちゃんの目はもう楽しそうに笑っている。
怖い顔は迫力があるけど本気で怒ったりはしていないので、これは些細なじゃれ合いみたいなもの。
しかし、クラスの皆から人気のある友美ちゃん。いつでもこんな風にじゃれ合えるわけではない。
休み時間になると、クラスのみんなが我先にと友美ちゃんの所へ行きワイワイやっている。
私だってもっと仲良くなりたいのに、人気者の友美ちゃんにはなかなか近づけないでいた。
***
「ねぇねぇ愛子さん! これ好き?」
「え?」
「バッカ、麻賀。愛子をけがすんじゃないよ!」
みやこちゃんと友美ちゃんが教室でドタバタ騒ぎをしている。友美ちゃんは右手に漫画を持っていて、みやこちゃんはそれをぶんどろうとしているみたい。
漫画の話をすることと私が汚れることと何の関係があるのだろう。
……というか、漫画を読んで汚れるってどういうこと?
2人は激しい攻防を繰り広げていたけど、面白がったクラスメイトによってみやこちゃんの行く手は阻まれてしまった。
「離せ! それ、愛子に見せんな!」
ゼェハァと息を荒げながら友美ちゃんが私の元へと辿り着いた。
私の前にそっと漫画を広げ、耳元で囁く。熱い吐息が耳にかかる。
「こういうの、興味ある?」
友美ちゃんが見せてきた漫画には見た事のない世界が広がっていた。
「こ、これ……えっと……」
「あれ? こういう本は見ない?」
「え、いや……見ないわけじゃないけど、えと……男同士……だよね?」
「そっ。あれ? もしかして初めて見た? 赤くなってる、愛子さん可愛いー」
友美ちゃんは私をぎゅっと抱きしめて、「めっちゃピュアじゃん! 愛子さん可愛い~」と騒いでいる。
何の気なしに抱きつかれびっくりした。
それと同時に友美ちゃんの柔らかな体に包まれて、気持ちが高揚するような安心するような不思議な感覚に陥った。
なぜか胸をうつ早鐘に気づかないように、ただ黙って友美ちゃんに抱きつかれていた。
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