五十一回転目 運任せの魔女の覚醒
私は幼いころから魔法の才のに恵まれていた。人に出来ないことが私には出来た。私が小さな火球を前に飛ばす練習をしていた時、同い年の子供たちは未だに指先に火花を飛ばす練習をしていた。しかし、それも名家に生まれた才と思い、気にもしていなかった。
もちろん、それはただの才覚だけでなく、努力によるものだとも思っていた。誰よりも勉強したし、練習も人一倍した。だからこそ私には人に出来ないことが出来るのだと信じていた。
最初に異変に気付いたのはフェリスフィルドに来てからだった。でもそれは魔女のそれと思うことはなく、トウヤの出す不思議な薬のおかげだと思っていた。いや、それも要因の一つにはなっていたのだろう。
トラゴローを従魔にして、しばらくしてアルルから聞いた。従魔を持てるのは魔女の素質があると、自分の中の魔女の素質を意識しだしたのはその頃だった。
明確に魔女の力が発現したのはそれからしばらくしてだった。
ある日朝起きると体の中を風が通り抜けるような感覚に陥った。しかしそれは少しも不快感なく体中を駆け抜けていき、いつもより身体が軽く感じられた。私はそのままトラゴローを連れて草原の向こうの森へと入っていった。
体中の神経を張り巡らせて感覚を研ぎ澄ます。魔力を集中させて目の前の木に放ってみる。木は轟音を立てて倒れた。
「すごい!今なら何でもできる!」
今度は体中の魔力を全身に纏わせてみる。羽が生えたように体が軽く感じる。
もっと、もっと。
足が地面から離れ、私は空を飛んだ。どんどん高く、あの木よりも高く、もっと高く。地平線の向こう側にフェリスフィルドが見える。たった一軒の家から始まった街づくりは私の思った以上に立派な街へと成長した。
魔力を調節して前へと飛んでみる。風になったような速度で私は宙を飛ぶ。だけど少し油断してると私の魔力は尽きて地上へと落ちて行った。
地上ではトラゴローが私のことを受け止めてくれる。
トラゴローの上で空っぽになった魔力を感じながらごろりと寝転がる。とても爽快だった。自分を覆っていた殻を突き破って脱ぎ捨てたかのような気分だった。
不安は夜、眠るときに襲ってきた。この力は明らかに人のそれではない。こんなことが出来るのは魔女だ。私は魔女になったんだ。
それから私の秘密の特訓が始まった。用事のない日は毎日トラゴローと訓練に出掛けて行った。火を使ったり、水や氷を出したり、風に乗ったり……。出来ることはどんどん増えていった。
これで私は自分の大切なものを守ることができる。ただ守られるだけの自分じゃなくこの街を、仲間を守れる自分になったことが嬉しかった。
だけど言えなかった。モティにも、マナトリアにも、トウヤにも……。普通の人間として見られなくなることが怖かった。
「そうですか。では目覚めたのはつい最近の事なのですね。」
フェリアは静かに頷いた。
「まぁ、ワシらの力は確かに人を越えた力じゃ。恐れる気持ちもわかる。」
マナトリアは戸棚からコップを取り出してテーブルの上に置いた。
「壊してみい。」
フェリアはただ指を振るだけでテーブルの上のコップは粉々に砕け散った。
「ふむ、威力はまずまずじゃが、速さが桁違いじゃ。間違いないじゃろうな。」
フェリアの目をじっと見つめる。
「ごめんなさい。私自分から言う事が出来なくて。」
「いや、フェリアはフェリアだ。それはこれからも変わりはしない。」
フェリアの手を握りしめる。
「お熱いところをすまんが、フェリアにはこれから魔法の鍛錬をしてもらわねばならぬ。魔力が暴走してこの街ごと消し飛ぶのはごめんじゃからな。まずはその力の制御を覚えねばならん。」
マナトリアは厳しい目をフェリアに向ける。
「では、私たちも同行致しましょう。みな魔女になって長いのできっと力になれるでしょう。」
そう言うとタナトリシアは家を出て行った。
「おい、オリビアはどうするんだ?」
俺の横にちょこんと立つ少女を指差す。
「すまんが、フェリアが落ち着いてからじゃな。おぬしが面倒見てやってくれんか。」
それだけ告げると、マナトリアはフェリアを連れて出て行ってしまい、家には俺とオリビアだけが取り残されてしまった。
俺は椅子を俺の椅子の横に並べ、オリビアを隣に座らせると彼女に向き直る。
「おーい。」
彼女はこちらを向いたまま微動だにしない。
「参ったな。二人にされたところで話も通じているのか……あ、そうだ……。」
俺は思い立って席を立つ。すると彼女も同じように席を立って後ろをぴったりとついてくる。
「座ってて良いんだぞ。」
そう言いながら戸棚を漁るとレティシアが置いていったお菓子を取り出す。
「さぁ、行こう。」
オリビアを椅子に座らせてお菓子の包みを解いてやる。
「ほら、食べな。」
お菓子をオリビアに手渡す。彼女は手渡されたお菓子を不思議そうに見つめていたが、再び促すと恐る恐る口を付けた。お菓子を一口食べた彼女は驚きの顔を浮かべて目を白黒させる。
「ほら、いっぱいあるからいくらでも食べていいんだぞ。」
言葉を離さない彼女だが、俺の言う事はわかるようで、彼女は一つ、また一つ、お菓子を平らげていった。
夕方になるとフェリアたちも家に帰ってきた。
「どうだった?」
「まだまだ安定しない部分があるが、毎日練習あるのみじゃな。わしらも各々の仕事があるから交代で練習に付き合うしかないがな。」
まだまだフェリアの練習は続きそうだ。
「この子はどうするんだ?」
俺はオリビアの頭を撫でながら問いかける。
「うーむ、実はわしらにはこの子の言葉がわからんのじゃ。」
「そうなのか?タナトリシアはこの子の名前がわかったみたいだけど。」
タナトリシアはこの子の名前を教えてくれた。
「いや、瞳で読み取れるのはこの子が経験した事のみよ。周囲の人が話しているのを読み取っただけじゃろう。タナトリシアの言葉もこの子に届いているようには見えなんだ。」
俺が話す言葉を理解してくれているように思えたのだが、それは勘違いだったのだろうか。
結局この日オリビアは俺のそばを離れることはなく、風呂も寝床さえも共にすることとなった。
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