二十四回転目 運任せの冬支度

 レティシアにエリクシールを渡してから数日。いよいよ肌寒くなってきた頃、ガンホさんが冬の準備品の購入リストを持って家に来た。


「暖を取るための薪も必要ですし、衣服も足りなくなりそうですからね。」


 なるほど。確かに以前テオロアで仕入れた服ではもう些かもの足りない。


「でも薪なら木材がいっぱいありますし、わざわざ買うのはもったいないような。」


 木材なら金槌のスロットでいくらでも出せる。


「もしかして、もう木材が不足してますか?それなら新しく用意しますが。」


 村の建物も結構増えた。この勢いなら木材はあり過ぎるという事もないだろう。


「それは大変ありがたいのですが……。」


 ガンホさんが言い淀んでいるとモティが補足してくれる。


「あの木材は使えないぞ。トーヤには価値がわからないかもしれないけど、あれは超がつくほどの一級品だ。燃やしなんてしたら罰が当たる。」


 なるほど。用途に合った使い方が大事というわけか。それにしてもモティの成長には本当に目を見張るものがある。最近では村の雑務も的確にこなしている。その分、家の家事は分担が多くなってしまったのだが、ここまでいろんなことをこなしてくれているんだ。まったく文句はない。


「とはいえ、材料が少なくなってきているのも事実なんだ。トーヤ、後で出してくれ。」


 本当に頼もしくなった。ガンホさんが言いにくいことをズバリ言ってくれるところもポイント高い。


「では、こちらの交易品は何を持って行きましょう?」


「食料品が良いかもな。これから冬が来るんならどこも需要が増えそうだ。芋とか豆ならどこも喜ぶだろ?」


 冬は保存の効く食べ物はどこだって喜ばれる。


「それなら是非米も持って行きましょう。トウヤ様の飯の炊き方を教えて差し上げればきっと飛ぶように売れます。」


 確かに、この世界の米の炊き方は最悪だ。


「じゃ、今回も一緒に行きます。色々外の世界も見てみたいし。」


「私も行くわ。私も……いろんな世界を見たい。」


 確かに、領主のフェリアはいろんな世界を見た方がいいだろう。


「では、交易の準備をしてまいります。」


 そう言うとガンホさんは帰っていった。


「トウヤ、ちょっとよいか。」


 珍しく静かにしていたマナトリアが手招きをする。


「マナ、どうした?真面目な顔をして。」


 洞窟の入り口まで来たマナトリアは扉に手を付く。


「そろそろ頃合いじゃと思うのじゃが、この洞窟を完全に浄化しようと思う。」


「浄化……?」


 初めて聞いた言葉だった。もちろん言葉の意味ぐらいはなんとなく分かるが。


「うむ。この洞窟の魔気を取り除くのじゃ。ワシもしたことないのでな。出来るかどうかもわからんのじゃが、お主ならできる気がするのじゃ。」


「わかったけど、えらく急だな。」


 唐突な彼女の提案に少し戸惑う。


「先日、夢魔の燕が帰ってきたじゃろ?それで各地の様子を調べておったんじゃが、ここ最近、急にどこかしこもきな臭くなって来ておっての。いい機会じゃと思うのじゃ。」


 彼女の使いである夢魔の燕は先日までギルに捕まっていた。奴をやっつけたことで無事に彼女の元へ帰ってきたようだ。


「なら今から行くか?」


「いや、明日で良かろう。何が起こるかわからぬ。万全で挑んで欲しいのじゃ。」


 マナトリアにしてはいつになく弱気な気がした。しかし、そんな不安をよそに彼女はかっかと笑いながら行ってしまった。


 その後モティの依頼であった材料の補給をするために家の保管庫へと向かった。


 ここには俺が今まで手に入れたメダルが保管してある。それぞれのメダルを多少は持ち歩いているが、持ちきれない分や不要な分はここに置いてある。


 獣、薬瓶、金槌、鍬、蛇、羽、鬼、そして手。今手元にあるのはこの八種類のメダルだ。蛇と羽、鬼、手のメダルは何もないと使えない。おそらく使う為の条件が決められている。その事はテオロアで初めて蛇のメダルが使えたことが証明していた。しかし、未だに羽、鬼、手のメダルはその条件がわかっていない。


 とりあえず二百枚ほど金槌のメダルを袋に入れて資材置き場に向かった。


「待ってたよ。とりあえず木材を二十と石材を三十くらい出してくれ。」


「わかった。道具はどうする?」


「道具は鋸の歯が減ってきたからそういうのを出してもらえると助かる。」


 そうして、モティに言われるまま材料を出していく。


「なぁ、トーヤ。」


 黙々とリールで材料を出す俺にモティが話しかける。


「お嬢様のこととか、いろいろありがとうな。」


 モティからの突然の感謝の言葉に背中がむず痒くなる。


「いいよ。全然。」


 それだけ言っておいた。


「この後、村の家に行って暖炉を作るんだけど、トーヤも来るか?」


 面白そうだったので付いて行く事にした。


 モティは器用に地面に穴を空けて石を規則正しく並べていき、排気用の穴を壁に開けてうまい具合に煙突を繋げている。


「器用なもんだな。」


 思わず思ったことが口をついて出る。この平原に来たばかりの頃はベッド一つ作るのに苦労していたのに。


「この家は子供がまだ小さいからな……。」


 そう言って組み上がった暖炉の手前に柵を付けている。


「ふぅ。」


 暖炉を組み上げるとモティは満足そうに息を吐いた。


「いや、ここの人達も凄いと思ったけど、モティも負けてないな。すごい。」


 感動で語彙力が死んだ。


「ずっといろんな人と作業してるからな。これくらいはやれないと。」


 今日はモティのことがやたら大きく見える。


 その後、数件回って同じように暖炉を作ると二人で家路に着く。


「遅くなっちゃったな。今日は僕が晩御飯の当番だ。トーヤ急ごう。」


「今日は俺が当番代わるよ。」


 たまには、この村を支えてくれる陰の功労者を労ってもいいかなと。そんなことを思ってしまった。


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