九回転目 運任せの村づくり
あれから俺たちは共に生活していくうえで、いくつかのルールを作った。と言ってもそんなに特別な事じゃない。
一つ、フェリアとモティは魔障の洞窟には入らないこと。
二つ、俺たち三人がそれぞれに役割を持って責任を持って果たすこと。
具体的には俺は洞窟探索をして生活の為にメダルを手に入れる。フェリアは元々の目的であるこの草原の開拓を進める。モティは家事全般。それと必要な物があればそれを作るのもモティの仕事だ。
そして最後に、必要があればお互い助け合う事。
こうして俺たち三人の生活が始まり、数週間が経ったある日。
「トーヤ、もうすぐ雨季が来る。」
モティが突然こんなことを言いだした。
「雨季?そういえばこの世界にも季節ってあるのか?」
二人が言うにはこの地方の気候は結構日本と似ているようだ。という事は雨季というより梅雨って感じだろうか。
「それで雨季がどうかしたのか?もしかして、この辺り全部川になるほど雨が降るとか?」
急に不安を覚えたが、モティは首を横に振る。
「そうじゃないんだ。多分それは大丈夫なんだけど、庭の材料や機材をしまう倉庫が欲しいんだ。」
そういえば、庭の大量の材料と工具。ずっと出しっぱなしだった。材料はともかく、工具は雨が降れば錆びてしまうかもしれない。この家ほど立派なものは出来ないが、雨風を凌げるものは出来るだろう。
そして倉庫は割とすぐに出来た。
「木材とかの大きな材料にはシートをかぶせよう。」
という俺の提案をモティがしぶしぶ了承したからだ。だけど俺だってただ楽がしたかったわけじゃない。
「じゃじゃーん。」
俺が取り出したのは鍬と鎌のメダルだ。最近新しく地下のデカミミズから手に入れたのだ。新しいスロットを出すときはいつもわくわくする。
「リール!」
掛け声と共に鍬のメダルを投げる。すると見かけは金槌のスロットによく似たものが出現した。タッチパネルも付いているので、おそらくこの二つは同系統の機種なのだろう。
「やっぱりこれ、土地関係のスロットだ。」
「そんなもの、どうするのよ?」
フェリアは未だにピンと来ていないようだ。まったく、このお嬢様は何をしにここに来たんだか。
「ここに街を作るんだろ?ならここをいつまでもただの草むらにしておくわけにもいかないだろ。」
彼女はやっとピンときたようで途端に身を乗り出してくる。
「なら私はまず畑が欲しいわ。」
なるほど、確かに畑は欲しい。ここでの食事は肉しかない。それでもなんとか生活できているが流石に野菜が欲しい。
「いいな!それに米だ!」
以前モティが持ってきた米は、彼の手によってダメにされてしまった。
そして俺は意気揚々とスロットを回し始めた。これの面白いところは一つの図柄は今までと同じで資材がもらえるので、とりあえず肥料がもらえるように設定した。そして落とし穴の図柄、これがかなり面白い。この図柄が揃うとタッチパネルで指定した位置に穴を作ることができる。今までのスロットは物を出しても、消すことはなかったのでかなり特殊だと思う。
フェリアの指示で位置を決め、穴をどんどん深く大きくしていく。そして、ある程度穴を重ねてから気が付いたが、この落とし穴の規模、深さはタッチパネルをスワイプしたりワイプアウトすることで自由に変えられた。そうして、魔障の洞窟から少し北側に離れた位置に大きく深い“穴”ができた。
こうしてスロットを回していると、再びプレミアムフラグが揃った。
7,7,BAR。
俺の知っているパチスロなら、レギュラーボーナスといったところなのだが、出てきたのはなんと“鍬”だった。以前7が揃った時には家が出てきたので、少し期待外れな気持ちを持て余した。
こうして異世界で初めての雨季が来た。
「結構降ってるな。」
外はもう三日間、雨が降り続いている。
「これだけ降れば、きっと溜まってるわ。今は待ちましょう。」
フェリアは以前作った穴に水が溜まることを期待しているようだ。あの穴が満杯になるには相当な量の雨が降らなければならないが、この雨なら心配はなさそうだ。そして水があれば野菜を育てることができる。
そして雨が明けた。
「トウヤ、見に来て!池が出来てる。」
フェリアに急かされて穴を作った場所を見に行くと、八分目ほど水が溜まっている。
「おお、これだけ溜まれば十分だ。早速畑まで水を引こう。」
さて、ここからが大変だ。これから水路を作り、畑や田んぼを作る場所まで水を引かなくてはならない。
そんな俺の心配は見事に杞憂に終わった。水路を作るために先日出した鍬を地面に当てる。
「地面が掘れてる……。」
なんと先日出した鍬は地面に当てるだけで溝が掘れていくのだ。流石神々の恩恵。これなら大した労力もなく水路を作ることができる。モティやフェリアに任せても大丈夫だろう。
水路作りを二人に任せて、俺は雨の間出来なかった洞窟探索に出かけていった。
「やっぱりあまりモンスターいないな。」
洞窟探索には何日か来なかったのだが、モンスターはあまり沸いていなかった。というより、ここ最近モンスターがあまり出てこない。
「もしかして、枯渇するなんてないよな。」
当然ながら俺たちの生活は、ほぼ全てここのモンスターに依存している。もしモンスターが居なくなってしまえば俺たちの生活は立ち行かなくなってしまうだろう。
「街作り、もっと真剣に考えなくちゃな。」
今俺が潜っている階層は二十七階層だ。転移陣が使えるようになって探索も快適になったが、階層もどこまで続くのかわからない。もう次の階層がないかもしれない。
俺はいつもより軽いメダル袋を持って地上へと帰った。
「な、なんだこれ。」
地上に戻って俺が目にしたものは綺麗に掘り込まれた水路だった。草原は綺麗に区画で分けられ、その間を水路が通り、家の裏には畑と田んぼまで作られている。
「二人とも、すごいな。ここまでやるなんて。後は俺がやっておくよ。種もみと種はどこにあるんだ?」
「何言ってるのよ。あなたがいつものリールで出してくれるんでしょ?さぁ、早く出して。」
「な、なにぃ!?」
やれやれ、俺たちが美味しい米を食べられるのはもう少し先のようだ。
一方その頃、密かな危機が迫っていることに俺たちは気付く由もなかった。
「フェリア様……。」
男は家をまっすぐ見つめている。もうすぐ日も暮れるのに草原から身を引こうともせず。しかしその手は油断なく腰の剣に添えられている。
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