六回転目 運任せの共同生活

 二人と共同生活を送るにあたって、まず必要なものは二人の寝具だ。俺は俺のベッドを明け渡すつもりなんてさらさらない。


「だからって、私達が用意するのですか?」


「当たり前だろ?ここはお前が元居た屋敷じゃない。自分のことは自分でするんだ。」


 とはいえ、流石に材料は何もない。そればっかりは俺がリールで召喚するしかない。幸い木材は大量にある。後必要なのはマットに詰める綿だ。金槌のスロットを延々回しているとフェリアが興味を持ったようだ。モティは鼻歌を歌いながら木材を指定の大きさに切っている。


「それはなんですか?見たことありません。」


「あー、これは……。」


 彼女の問いに答えかけて言葉に詰まる。パチスロなんてどう説明したらいいんだ。


「やってみるか?」


 説明するよりさせてみた方が早い。そう思った俺はフェリアにリールを回させてみた。しかし……。


「あ、あら?」


 リールを回そうとレバーを叩こうとした彼女の手はレバーをすり抜け空を切る。


「こ、これって!?アイテム?」


 フェリアが驚きの声を上げる。


「アイテム?」


 またRPGみたいな用語が出てきた。


「アイテムは神々の至宝と呼ばれるものですわ。私も文献で聞いたことあるだけで、これが本当にアイテムなのかはわかりませんが、アイテムは所有者以外は触れられないと聞きます。」


 これが神々の至宝……。そう言えば最初にリールに触れた時“触れることが出来し者”と言っていたな。出てくるものも神々の恩恵と言っていたし、これは本当にアイテムなのかもしれない。


ティーン……デン!デン!デン!ティーン……デン!デン!デン!


……


ティーン……デン!デン!デン!ティーン……デン!デン!デン!


…………


「キュー……」


バタン


 隣で見ていたお嬢様はリールの動きに目を回して倒れてしまった。


「はぁぁ。」


 俺は溜息を吐いて、彼女をリビングまで運ぶこととなった。


「トーヤー!トーヤー!」


 庭の方でモティの呼ぶ声がする。庭に出てみるとモティは指示した分の木材を切り終わったようだ。


「お、出来たか。」


「トーヤ、これすごいな。木材をこんな簡単に。」


 彼の使っている道具もリールから出てきた工具だ。


「よし。そっち持ってくれ。」


 モティと二人でベッドを組み立てていく。しばらくすると立派なベッドが二つ組みあがった。


「よーし、良くやったな。モティ。後はマットと布団の準備だけど……。先に飯にしよう。」


 先ほどからずっと腹の虫を響かせていた少年は嬉しそうにはにかんだ。


 獣のスロットでいくつか肉を出し、そのままでは味気ないのでキッチンで火を通し温める。するとモティが麻袋を持ってきた。


「これ、使えるか?」


「なんだこれ?」


 彼から受け取った麻袋を開けて俺は驚愕した。


「うおぉぉぉ―!!こ、米だ。この世界にも米があるのか。」


 俺が早速米を炊く準備を進めていると。


「代わるよ。米ぐらい炊けるから。」


 モティが飯炊きを変わってくれた。


 飯の準備ができるとフェリアも起きてきた。三人で食卓を囲む。


「いっただきまーす!」


 米だ。久しぶりの米だ。肉は毎日食えていたが、日本人たるものやっぱり米が食べたかったのだ。


 俺は米を口いっぱいに頬張った。


「うぅ!?」


 なんだこれは。べちょべちょなのに芯が残り、研ぎも甘くてぬかの匂いも残ってる。


「まずい。なんだこれ?」


「なんだとぉ。テオロアでも最高級の米なんだ。不味いなんて貴様の舌はどうかしてるぞ!」


 モティは俺の批評が気に食わないようだが、本当に不味い。俺は助けを求めるようにフェリアを見る。しかし、彼女もそんな米を満足そうに食べている。


「お前ら、まともな物食ってねぇな。仕方ない。俺が米を炊きなおしてやるよ。」


「何言ってるんだ。もう米はないよ。」


 彼は残酷な宣告をした。


 俺は肩を竦める。美味しいご飯はお預けのようだ。


「それにしてもこのお肉も飲み物も美味しいわ。これもあのリールで出したのかしら?」


 フェリアは俺の出した肉とエリクシールを気に入ったらしく、随分美味しそうにしている。そりゃ、日頃こんな米を食べていたなら当然だ。


「ああ、それは力肉とエリクシールだ。なかなか美味いだろ?」


 少し誇らしげに答えた俺とは裏腹に、二人の食事の手はピタリと止まってしまった。


「トウヤ、あなたエリクシールがどういうものかわかってるの?」


 恐ろしく神妙な顔つきでこちらを見る二人。もしかすると子供に飲ませてはいけないものだったのかもしれない。


「栄養剤みたいなものだろ?子供が飲んじゃまずかったか?」


 俺の問いにはフェリアの代わりにモティが答えた。


「エリクシールは昔、最西の魔女が調合に初成功した薬だよ。どんな大怪我もたちまちに治し、病気の者もたちどころに健康な体を取り戻す。一番最小の小薬瓶でも百億アルスはくだらないんだ。」


 百億アルスが日本円でいくらなのかはわからないが、とてもすごい薬なのはなんとなくわかった。


「かの万能水とも並ぶとも劣らない妙薬よ。それを水代わりに飲むなんて……。」


 その言葉を聞いてピンときた。


「万能水もあるぞ。毒消しみたいなものだろ?」


 緑の薬瓶を取り出し、テーブルに置く。すると二人の目が点になる。


「万能水をただの毒消しと思ってるなんて。万能水はどんなに枯れた土地でも少しでたちまち緑豊かな地に変え、毒を持つ植物もその水で育てれば毒のない実をつけ、飲めば体に入った不純物もたちまち浄化する。御伽噺の中のものだと思ってたのに。」


 そうだったのか。スライムや岩蛇が落とすメダルからいくらでも出せるから、そんな貴重な物とは知らなかった。今度からは水道水を飲むようにしよう。


「そんな良いものを飲ませたからには、この後の作業も頑張ってくれよ。」


 二人ともエリクシールは貴重だなんだと言っていた割には、キッチリ残さず飲んでいた。甘くてすっきりして美味しいもんな。


 その後、無事布団も完成させた二人は家の客間を使ってもらうことにした。


 そしてその夜、二人が寝静まった頃、俺は昼間行けなかった日課の洞窟探索へと出向いていった。

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