三回転目 運任せの家づくり
洞窟に潜っておおよそ一週間が過ぎたこの日、俺は一度地上へと戻ることにした。その理由は三つある。
一つ目はそろそろ太陽が恋しくなってきたこと。
二つ目はモンスターを倒して得たメダルが多くなってきて持ち運びには流石に不便になってきたこと。
そして三つ目、地上に出る最大の理由が、地下4階層に出てきた骨のアンデット。俺はスケルトンと呼んでいた。そいつが落としたメダルだ。
そのメダルにはなんと金槌と差金がデザインされていた。どう見ても大工道具だ。
「地上に拠点が作れるかもしれない!」
地上へ戻る足取りも自然と軽くなる。しかし、モンスターに対する警戒も緩めてはいけない。集中力を高めて洞窟の中に神経を張り巡らせる。薬瓶のスロットのレア子役で出てきた赤い薬瓶、それを飲むと集中力を極限まで高めることで、範囲は広くはないがまるで第三の目で見通すように周囲の状況、地形、敵の位置などを知ることができた。とはいえ、長く続けると流石にかなり疲れるので必要な時だけ使うようにしていた。
流石に食事のためとはいえ隅々まで狩り尽くしたので戻る道中にモンスターは一匹も居なかった。なので地上への出口まではスムーズに戻ることができた。
地上に戻るにつれて体も軽くなっている気がして、俺は勢いよく外へと飛び出した。しかし……。
「あれ、夜……か。」
洞窟の外は生憎の夜だった。あまりにも長いこと地下に居たので時間感覚も狂っていたようだ。夜とは言っても月明かりのおかげでかなり明るい。
「リール!」
呪文と共に金槌のメダルを投げる。出てきたスロットはかなり近代的なデザインだった。
「おお、タッチパネル!テンション上がるな。」
この台はセンター液晶の他にリールサイドにタッチパネルがあり俺の知っているスロットの中でも最新モデルに近い形をしていた。
俺はわくわくしながら早速メダルを入れて回していく。
子役が揃うと資材と工具が出てきた。さらには出てくる資材や工具はタッチパネルから選ぶことができた。
「これはすごい。なんでも作れそうだ。」
しばらく回した時、台にある違和感を覚えた。下パネルのランプが消えている。
「これは……。」
期待に少し震える手で7図柄を狙ってみる。
7……7……7!!
揃った!初めてボーナス図柄が!思わず小さくガッツポーズを決める。液晶には“場所を選択して召喚位置を選択しろ”とある。タッチパネルにはこの草原のマップが表示されている。
「召喚……。デカいのかな?この赤い光点が俺か……。で、ここが洞窟の入り口……。ならここか?」
なるべく洞窟の入り口に近くて広そうなところをタップする。ちょうど俺の背後に当たる部分だ。
「あ……?」
思わず言葉に詰まる。振り向いた俺の先には木造の家が立っていた。
「これが恩恵。ってことは今まで頑張って出したこの資材は。」
俺はすっかり行き場のなくなってしまった資材を家の隣に積み上げておくことにして、早速家の中を見て回ることにした。
扉を開けて中に入ると杉のような爽やかな香りに程よい大きさのテーブル。ゆったりしたソファに厚手のカーテン。水回りもしっかりしていて、水道まで使えるのは流石神々の恩恵といった雰囲気だった。そして何よりも俺が心を躍らせたのはこの柔らかくてふっかふかのベッドだ。
これまでずっと固い岩肌で寝ていたんだ。これは紛れもなく俺にとっての神々の恩恵だった。幸いにも体に不調が出ることはなかったが、やはり布団で寝ることができるのは精神的にもとても大きな、そう。この世界に来て初めて心から休まった瞬間なのだ。俺は剣を床に放り出すと、そのままベットで眠ってしまった。
次の日から、俺はこの家を拠点として洞窟探索をすることにした。
まず第一に俺は洞窟の入り口に扉を作った。この洞窟、モンスターを狩り尽くすとすぐには復活はしてこないが、しばらくするとモンスターが湧いてきて溢れ返ったモンスターは夜になると草原にまで出てくる。家は洞窟すぐ近くなのでこれは大問題だ。庭でモンスターに襲われかねない。幸いにも扉の材料は家の材料にとたくさん取っていた木材があった。この木材もただの木材ではない。軽く加工しやすく、その割には丈夫で扉の素材として打って付けだったのだ。
そして次に剣を収める鞘も作った。ずっと抜身のままではいつか自分の身体を傷付けかねない。これは不格好ながら、なんとかそれっぽいものが出来た。
そして裁縫。この世界に着てきた服はもうボロボロになっていた。家のクローゼットに変えの服があったので服はなんとかなったが、特に必要に思ったのは地下で手に入れたメダルを入れる袋だった。これも何とか布同士を縫い合わせただけのものだったが、驚くほど丈夫なものが出来上がった。
ベルトに鞘を通し、メダル袋を括りつける。服の襟を正し、洞窟の扉を開ける。そして今日も俺はこの洞窟に潜る。
そんな生活が狂ったのは、それからまたひと月ほど経った頃だった。
家に帰った俺がドアに手を掛けた時、何か違和感を覚えた。
「なにか、居る?」
家の中に二つ。人影のようなものが見える。
「まさか……強盗?」
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