第10話 愛妻家カミュスヤーナ

 私の名はカミュスヤーナ。先ほど薬を盛られた魔王である。


 湯あみも終わり、寝台に腰かけて、この地ジリンダについてまとめられた書類を読んでいると、首にかけられた装飾品の宝石が熱を帯びた。


 首飾りの宝石が熱を帯びるのは、先方の準備ができたという合図だ。


 私は持ってきた荷物の中から、手鏡のようなものを取り出す。自分の顔の前にそれを掲げると、手鏡であれば鏡に当たる部分がぼやけだし、一人の少女の姿を映し出す。


「カミュス。ご機嫌はいかがですか。」

 水色の髪、青い瞳の少女は、その顔を緩めて言った。


「テラ。こちらは問題ない。」

 彼女も私と同じように、この通信機を自分の前に掲げて話をしているはずだ。


「そうですか?若干お疲れのように感じますが。」

「今は隣のジリンダの地に来ているのだ。普段着ない正装などを着たせいで、肩が凝った。」


「まぁ。」

 テラスティーネはクスクスと笑う。


「私の仕事の方は、間もなく終わりそうです。ルグレイティにお戻りになるのに合わせて、私もそちらに向かいます。いつ頃ルグレイティにお戻りですか?」


「あと2日くらいかな。ジリンダの地を少し見ておきたいのでな。」

「ジリンダには海があるそうですね。私も見てみたかったです。」

「ジリンダはさすがにテラには危険だから、エステンダッシュに帰ったら、海を見に行こうか。」

「本当ですか?とても嬉しいです。」


 こちらに笑顔を向けていたテラスティーネの顔がゆがんだ。

「どうした?テラ。」

「・・早くお会いしたいです。やはりこの通信機ごしだと、寂しくなってしまって。」


「私もいつも君に会いたいと思っている。今日もアシンメトリコに、君のことを考えて気を緩めるなと叱られてしまった。」

 テラスティーネの頬がほんのりと赤くなる。


「ふふっ。アシンメトリコはこちらのフォルネスみたいですね。あまり困らせないようにしてくださいね。では、明日もお早いかと思われますので、これで失礼します。カミュス。よい夢を。」


「あぁ。テラ。よい夢を。」


 テラスティーネの姿が通信機から消える。名残なごり惜し気にその表面に指を這わせる。


「おやすみ。テラ。」

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