第13話-初めての介抱

この世界に来てから一ヶ月がたった。

相変わらず俺が帰る手掛かりは見つからない。

けれど、それなりに忙しく過ごしているためか、気付けば一ヶ月が過ぎていたという感じだ。


ジョセフは仕入れや移動販売で忙しくあちこちの屋敷を飛び回っている。最近の売れ筋がこれだ。

俺は、机の上に並んだウサギやクマの縫いぐるみを見る。

むかーし、テディベアが作れるキットを使って縫いぐるみを作ったのを思い出し、売れ残る生地やリボン、針や糸を貰って作ってみた所、バカスカ売れるようになってしまったのだ。

俺は料理係兼、内職係になっていたのだった。

元々可愛い物が大好きだった事もあり、楽しく作業に勤しむ日々が続いていた。

縫い方については素人だが、まぁ縫い目は見えないので大丈夫だろう。


俺の作業スペースは海の見えるあの部屋だ。

西に位置しているので太陽が西に沈んできたら夕食の準備に取り掛かる。

そうしていると、出来上がる頃にはジョセフが帰ってきて一緒に温かい食事が食べられるなだ。と言っても、夜は軽く食べるのが習慣らしく、手軽に食べれる消化に良い物か、酒のアテを作って晩酌をしてから寝る。

俺が準備する時は大体消化の良いスープか麦のリゾットだ。


今日はまだ昼を少しまわったころだ。ジョセフは弁当用のショートブレッドと林檎を1つにワインを昼食用に鞄に入れて持って行ったので、今頃簡単な食事を済ませている頃かもらしれない。


俺はチクチクと布同士を組み合わせて縫いぐるみのパーツを作っていく。綿を詰めている時にふと思いつく。


「縫いぐるみの香水…。」

縫いぐるみに持たせてあげたい。きっと可愛いのではないだろうか。

ジョセフが帰ってきたら相談してみよう。彼の、コティの名前が少しでも売れれば嬉しい。

作業を進めて、夕日が海に差し掛かる頃には1体のクマの縫いぐるみが出来上がっていた。


くるくるとクマの縫いぐるみを回転させ、ほつれが無いかをチェックする。目は可愛いく、くるみボタンを付けて、鼻は刺繍糸で縫っている。

「よし!可愛いな!。」

俺は縫いぐるみにリボンを巻きつけ結んでやると、今日の作業をおしまいにした。


今日の晩御飯は何にしようかなぁ。

かんがえていると、庭がガヤガヤとうるさい。

なんだ?と思って玄関に近づくと、バンッと扉が勢いよく開いた。ビクリと固まっていると、ガッシリとした髭もじゃの男にジョセフが担がれヨタヨタと入ってきた。

「おら、ジョー!しっかりしろよ!あれぐらいで潰れやがって!……お!お前コースケか!ジョーから話は聞いてるぞ!同居人なんだろ?」

ニィと笑い俺の顔を覗きこんでくる。

俺は勢いのあるガッチリとした男にビクビクしていた。

「は、はぁ、おたくはどちら様で?」

「俺か?俺はコイツの仕事仲間でギャスターってんだ。おいコイツ頼んでいいか?ちっと客んちで強い酒飲まされてな!まったくモテる男は辛いねぇ。」

モテる男って事は、ご夫人宅で酔わされたのか。

いつの時代もガチ恋は怖いな。

ははっと乾いた笑いで考えていると、ジョセフがふらりと顔を上げた。

「ギャスター……コースケに変な事言うなよっ……うぅッ」

「潰れたお前を運良く回収してやったんだ。文句言うんじゃねーよ。んじゃ嫁さんが待ってるんでな!ソイツ明日は休ませとけ!」

ギャスターは俺にジョセフを託すと、じゃーなー!と豪快に笑いながら帰って行った。


「ギャスターさんいい人だな。」

「……アイツは一言二言多いんです。う〜気持ち悪い。」

俺は呆れたようにジョセフを見る。

「吐くか?吐くなら外だぞ!?」

「いや――っ大丈夫です。吐く…っほどじゃ……っ。」

それにしては怪しい言葉の詰まり方をしている。

「ったく。部屋で寝とけ。ハーブティー入れてきてやるから。」

俺は彼を肩に担いで2階の自室を目指す。

力の入らないジョセフを支えながらの階段はひたすら長く感じてしまう。

ギッ…ギッ…ギッと木の板がしなる音がした。

「お前酒弱かったのかよ。」

「……そんな弱くはないはずなんですが……。」

ヨタヨタと自室に到着すると、ジョセフをベッドに座らせた。

「ほら、寝とけ。」

「コースケは?」

腕を掴まれて寂しそうに見上げてくる酔っ払い。

「お茶入れて来てやるっつったろ?」

「……また来ますかぁ?」

「来る来る!お茶入れたらな。」

そう言うと、すっと手を離してくれた。

「じゃあ待ってます。」

「へいへい。寝てろよ?」

そう言うと、ジョセフは素直にベッドに横になったので、俺はそのまま部屋を出たのだった。

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