EITOエンジェル総子の憂鬱(仮)17

クライングフリーマン

ヘレン誘拐事件

 ======== この物語はあくまでもフィクションです =========

 ============== 主な登場人物 ================

 南部(江角)総子・・・大文字伝子の従妹。南部興信所所長の妻。EITOエンジェルのチーフ。

 大前英雄管理官・・・EITO大阪支部の管理官。コマンダー。総子からは『兄ちゃん』と呼ばれている。

 足立祐子・・・EITO大阪支部メンバー。元レディース・ホワイトのメンバー。

 石動悦子・・・ EITO大阪支部メンバー。元レディース・ホワイトのメンバー。

 宇野真知子・・・ EITO大阪支部メンバー。元レディース・ホワイトのメンバー。

 丘今日子・・・EITO大阪支部メンバー。看護担当。元レディース・ホワイトのメンバー。

 河合真美・・・ EITO大阪支部メンバー。元レディース・ホワイトのメンバー。

 北美智子・・・ EITO大阪支部メンバー。元レディース・ホワイトのメンバー。

 久留米ぎん ・・・ EITO大阪支部メンバー。元レディース・ホワイトの総長。EITOエンジェルス班長。

 小峠稽古 ・・・ EITO大阪支部メンバー。元レディース・ホワイトのメンバー。

 和光あゆみ・・・EITO大阪支部メンバー。元レディース・ブラック7のメンバー。

 中込みゆき・・・EITO大阪支部メンバー。元レディース・ブラック7のメンバー。

 海老名真子・・・EITO大阪支部メンバー。元レディース・ブラック7のメンバー。

 来栖ジュン・・・EITO大阪支部メンバー。元レディース・ブラック7の総長。EITOエンジェルス班長。

 愛川いずみ・・・EITO大阪支部メンバー。通信担当。

 白井紀子・・・EITO大阪支部メンバー。事務担当。ある事件で総子と再会、EITOに就職した。

 芦屋一美警部・・・大阪府警テロ対策室勤務の警部。総子からは『ひとみネエ』と呼ばれている。

 芦屋二美(ふたみ)二曹・・・。三つ子の芦屋三姉妹の次女。陸自からの出向。総子からは『ふたみネエ』と呼ばれている。

 芦屋三美(みつみ)・・・芦屋財閥総帥。総合商社芦屋会長。EITO大阪支部のスポンサー。総子からは『みつみネエ』と呼ばれている。

 南部寅次郎・・・南部興信所所長。総子の夫。

 幸田仙太郎所員・・・南部興信所所員。総子のことを「お嬢」と呼ぶ。藤島病院の 看護師ワコには、「セン兄ちゃん」と呼ばれている。

 花菱綾人所員・・・南部興信所所員。元大阪阿倍野署の刑事。

 倉持悦司所員・・・南部興信所所員。

 小柳警視正・・・警視庁から転勤。大阪府警テロ対策室室長。

 横山鞭撻警部補・・・大阪府警の刑事。大阪府警テロ対策室に移動。

 真壁睦月・・・大阪府警テロ対策室勤務の巡査。

 藤島院長・・・藤島病院院長。

 指原ヘレン・・・元EITO大阪支部メンバー。エマージェンシーガールズの格好で、マスク外して休憩する所を雑誌記者に見つかってしまい、写真が世間に広まってしまったことで、EITOエンジェルスを辞め、芦屋ビルの会社で働いていた。

 花菱所員・・・元大阪阿倍野署の刑事。今は南部興信所所員。

 友田知子・・・南部家の家政婦。

 佐々一郎巡査部長・・・曽根崎署刑事。横山と同期。

 本郷弥生2等陸佐・・・陸自からのEITO大阪支部出向。

 馬場力(ちから)3等空佐・・・空自からのEITO東京本部出向。

 馬場(金森)和子二尉・・・空自からのEITO東京品部出向。馬場と結婚した。

 工藤由香巡査部長・・・元白バイ隊隊長。EITO東京本部出向。

 安藤詩三曹・・・海自からのEITO東京本部出向。


 = EITOとは、Emergency Information Against Terrorism Organizationを指す =

 ==EITOエンジェルズとは、女性だけのEITO大阪支部精鋭部隊である。==


 午前3時。やすらぎほのかホテル東京。ある一室。

 パウダースノウとの決戦から3日が過ぎていた。EITOエンジェルスは先に返したが、大前と総子は、金森と馬場の結婚式出席の為に、東京に残った。そして、結婚式 当日、新たな敵からの挑戦状が届いた為、新婚の2人を交代で警備することになった。

 2人が泊まっている部屋の隣を用意して貰い、2人の部屋の前の防犯カメラを含む防犯カメラの映像、つまり、警備室の映像と同じものが見られるモニターが設置されている。

 ドアがノックされた。副支配人と共に現れたのは、大前と総子をオスプレイで送り届ける本郷弥生と、監視交代要員の工藤と安藤だった。

 「異常なしのようですね。副支配人。では、我々2人は交代して、大阪に帰ります。依田さんによろしく。」「お疲れさまでした。」大前に副支配人は労った。

 「じゃ、後、頼むね、工藤さん、安藤さん。」と、総子は挨拶をした。

 午前3時半。オスプレイの中。

 「コマンダー、チーフ。お疲れだろうから、向こうに着くまで起さないわ。ゆっくりして。」本郷は優しく言った。

 大前と総子は、床の毛布に包まると、ぐっすりと寝た。

 午前5時。EITO大阪支部。

 大前と総子は、仮眠室に向かった。

 翌日も翌々日も平穏な時間が流れる筈だった。

が・・・大前達が帰って来た翌々日に事件は起こった。

 午前11時。EITO大阪支部。司令室。

 愛川いずみが言った。「コマンダー。大阪府警からです。一美さんです。」

 「繋いでくれ。」大前は緊張した。

 「コマンダー。ヘレンが誘拐された。正確には、芦屋の社員小久保美紀と一緒に。 小久保の実家には二美が、ヘレンの実家には三美が向かったわ。」 

 「ヘレンは、芦屋ビルの中だけで、外には一切出ないことになってた筈やが。安全の為に。」大前は少し狼狽していた。

 「小久保は、入社仕立てで、上司がちゃんと指導していなかったらしい。勿論、あの忌まわしい事件のことも伝えていなかった。」一美はため息をついた。

 「なんちゅうこっちゃ。すぐ、ヘレンの実家に向かうわ。天下茶屋やったな。」     「うん。よろしく。後でEITOに寄るわ。」 

 「いずみ。総子にも連絡しといてくれ。紀子、電動アシスト使うから、今日は買い物なしにしてくれ。」

 大前は、慌ただしく出て行った。

 正午。大阪市西成区天下茶屋。

 芦屋三美が、指原ヘレンの母親の前で平伏している。「お邪魔します。」と、入って来た大前は、並んで平伏した。

 「どうぞ、顔を上げて下さい。芦屋さん、大前さん。事情はよう分かりました。うちの子にも非があることですし。警察の方も準備してはるし。」と母親の加世子は言った。

 「大前君、ちょっと。」小柳警視正が寄って、手招きした。

 奥の部屋には逆探知の用意が進行していた。

 「本日午前10時。あべのハルカスで買い物をして、芦屋建設社員、小久保美紀と 指原ヘレンは、歩道橋の下でワゴン車に乗せられ、連れ去られた。目撃者は大勢いる。数人がかりで車に押し込んだらしいが、何か武器を持っていたかどうかは判明していない。午前10時半。指原宅と小久保宅に、誘拐犯人から電話があり、家人が電話を取った。詳しい事は、午後に電話すると言って切った。両家とも直ちに大阪府警に通報。芦屋警部からEITOと芦屋グループに連絡させた。芦屋会長は、身代金は両家に全額支払う、用意すると言っている。」

 横山警部補が、外から入って来た。「警視正。向こうに行っている芦屋警部からです。」と言って、横山は小柳にスマホを渡した。

 「警視正。逆探知の装置、セット完了しました。母親には、芦屋グループが身代金を払う旨、伝えました。」「了解した。君は暫くそこにいてくれ。それと、真壁をEITOに向かわせてくれ。」「了解しました。」

 「警視正。午後からって事は午後1時からってことでしょうか?」「ん?腹減ったか?パンは用意してあるぞ。」「いえ。時間を確認しただけで・・・取り敢えず、食っておきます。」大前は、小柳の気遣いに感謝した。

 午後1時。大阪市西区立売堀(いたちぼり)。

小久保家の家の電話が鳴った。一美が頷き、小久保房江が電話を取った。

 犯人の要求は、1000万円。天下茶屋跡に、明日午後2時に1人で持って来い、というものだった。

 一美はメモを房江に渡した。『夫は入院中で、私は腰が悪い。お金は何とか工面するが、持って行くのは家政婦でも構わないか?と交渉して。』

 房江は言われる通り、交渉をした。

 同じ頃。天下茶屋。

 小柳警視正の指示で、指原加世子は犯人と交渉した。家政婦が持って行くことを犯人は了解した。

 取引場所は、天下茶屋跡で、身代金の額は1000万円だった。日時は明日午後2時。

 「妙な符号やな。そうか。警視正。犯人は芦屋グループのこと、知らんのと違いますか?」

 「そうだな、知っていたら、芦屋グループに2000万円、いや、3000万円要求してもおかしくない。」小柳は大前に同意した。

 午後2時。EITO大阪支部。会議室。

 総子がテーブルに突っ伏している。

 大前は、総子の顔を上げた。

 顔が真っ赤で、目が腫れている。かなり泣いたようだ。

 側にいるぎんも、ジュンも弱り切っている。

 紀子が何か言う前に、大前は総子を平手打ちした。

 「あほんだら!お前がメソメソしてドナイすんねん。チーフやろが。みんな困ってるやないか。今から24時間、お前を解任する。チーフ失格や。取り敢えず、帰って寝てろ!本郷、マンションに送ってやれ。」

 「了解しました。」本郷弥生は、泣きじゃくる総子を立たせ、出て行った。

 「コマンダー、あそこまで言わんでも・・。」紀子は抗議しようとしたが、気づいた。

 大前が泣いている。そこで、悟った。断腸の思いだった、と。

 「時間はあるわ。皆で作戦を考えましょう。タダでお金をくれてやることはない。そして、逃がすなんてことはしない。総子はきっと、立ち直るわ。皆も知ってるでしょ。じゃあ、状況説明からね。」

 二美は、冷静に会議を進行した。大前も総子も、件の事件のことを後悔しているのだ。

 二美も、EITOエンジェルスメンバーも分かっていた。

 いずみは、自分の席から、そっと南部にショートメールを送った。こういった場合の為に、三美が南部の携帯番号をいずみに教えていたのだ。

すぐにメールの返信が来た。『ありがとう。』短い文面だった。いずみは、すぐに斉藤理事官宛の報告メールを打った。理事官も、こういった場合の対処として、進捗を本部に送るように、姉妹である愛川静音経由で指示していたのだ。

 午後3時。総子のマンション。

 総子の住んでいるマンションは、実は、外から分かりにくいが、芦屋ビルの中にある。一見、オフィスビルに見える芦屋ビルは、知られざる秘密がある。オフィスビルの中にマンションビル。更にその中にオフィスビル、更にその中に植林があり、その植林の中にオスプレイが発着するプールがある空間がある。総子は『あんこビル』と呼んでいる。

 指原ヘレンが匿われていたのは、総子の住んでいるマンションエリアより内側にある。

 オスプレイは、水面が割れたプールに吸い込まれるように入って来た。

複雑な通路を伝って、オスプレイは地下2階の駐車場に到着。専用エレベーターで総子と本郷弥生は、総子の部屋に来た。

 知子が、お好み焼きを焼いて、南部と待っていた。

 「総ちゃん。今日は泊まっていいって、総帥が言われるから予備の部屋を使わせて貰うわね。夕食は回鍋肉よ。おやつはお好み焼き。お母さんからレシピ貰ってるから、不味くはないわよ。」

 家政婦の友田知子は、芦屋の社員である。芦屋三美のことを会長と呼んだり総帥と呼んだりする。

 南部は、ニコニコして何も言わない。

 総子は、あの事件以来、針のむしろの心境だった。勿論、大前もだ。ヘレンはエマージェンシーガールズの応援に行った現場で、ビルとビルの隙間でマスクを取り、汗を拭いた。

 当時は、今と違い、あまり通気性が良く無かったのだ。

 それを、半グレの取材で張り込んでいた、フリーの雑誌記者に写真に撮られてしまった。

 半グレは、ダークレインボーに皆殺しにされた。記者は、こちらの方が金になると思い、雑誌に売り込んだ。

 エマージェンシーガールズは有名になりつつある状況だったから、世間の関心を引いた。『エマージェンシーガールの素顔』というタイトルで、すっぱ抜かれたのだ。

ヘレンは責任を感じ、自殺をしようとさえした。そこで、南部や大間と相談して、芦屋三美は、この複雑な造りのビルの会社の一つの事務員として働かせることにした。そして、ヘレンは一歩もこの小世界から出ることが無くなった。

 ヘレンの母親は、雑誌からヘレンを割り出して取材に来たマスコミに、娘は東京に旅行に行った際に、憧れのエマージェンシーガールズのコスプレをした、と言い訳した。そして、外国に旅行中だとも。幸いEITOエンジェルスは全国的に認知されてはいなかった。

 斉藤理事官は、制服(エマージェンシーガールズのユニフォーム)が盗まれた形跡はない、シリアル番号で管理している、とマスコミに返答した。

 EITOは、ダークレインボーという大きな悪と闘っている(当時は、ダークレインボーの名は不明だった)。万一を考え、ヘレンのパスポートとビザが作られた。

 ヘレンは、幽閉されたのも同然だった。だからこそ、大前も総子も気に病んでいた。

 小久保は、最近、ヘレンと一緒に仕事をするようになったが、過去の事件も知らず、先輩から『外には出られない』位の情報しか聞いていなかったので、買い物の荷物運びを手伝う助手としてヘレンを連れて行ったのだ。

 午後3時。EITO大阪支部。会議室。

 大前は、新人もいることだし、と過去の事件のことをおさらいした。

その上で、「ええか。みんな。総子は追い詰められている。不幸な事件事故に自分を責めている。立ち直る時間をくれ。そのためにも、ヘレンは取り戻すんや。みんなの力でな。総子は前回の合同闘争で体がかなり弱っている。藤島先生によると、体中の傷が体力を奪ったそうや。今朝、点滴を打ったが、充分とは言えん。体力が戻る迄は時間がかかる、ちゅうことや。」

 大前が一息つくと、出席していた幸田が、「大前さん。俺らも手伝うことがあれば手伝うで。所長にも言われてるんや。なあ、花ヤン。」と、幸田は花菱に言った。

 「そいうこっちゃ。」と言う花菱に、そして幸田に大前は頭を垂れた。

 「ありがとうございます。」

 「じゃ、具体的な作戦ね。みんなで知恵を絞りましょう。」と、三美は言った。

 会議は4時間続いた。東京都は違う混成のチームだが、結束力は勝るとも劣らない、会議をしながら、大前は考えていた。

 午後7時。

 明日に備えて、皆は解散した。

 紀子は帰ろうとしなかった。いずみは宿直室に消えた。

 「コマンダー。好き。」と、紀子は背後から大前に背後から抱きついて言った。

 「こんな時に告白なんて、ふしだらな女でごめんなさい。ウチは、総ちゃんに助けて貰った。今度はウチが・・・と思っても何もできん。歯がゆい。でも、コマンダーにお願いすることは出来る。お願いや。ヘレンちゃんも助けて、総ちゃんも助けて。」

 「言わんでも助けるがな。それが俺の仕事や。でも、どさくさで・・・。」

 紀子は、大前の唇を塞いだ。ほんの数秒だった。

 「はよう帰らんと、スーパー閉まるわ。ほな、また明日。お先ですう。」

 紀子は、慌てて支度して帰って行った。

 午後7時半。宿直室。

 「あの鈍感。少しは進展するかなあ。」と、二美は、いずみに言った。

 「さあ・・・ね。」

 午後10時。司令室。

 大前は書類仕事をしながら、うたた寝をしていた。

 思いつき、伝子に電話をした。

 「伝子さん。ヘレンが誘拐された。」「ヘレンって、あの・・・確か芦屋ビルの中にいるんじゃあ・・。」「事情知らん社員がヘレンと買い物に出てもうたんや。そこで、犯人に尾行されて誘拐された。」

 「応援送りますか?」「いや、今の所、闘争になる可能性はないからな。総子が落ち込んでてやあ。南部さんもなだめているけど、ウチが悪いウチが悪いって自分を責めててなあ。総子が奮起せんことには士気が上がらん。」

 「了解しました。任せて下さい。作戦で困るようなら、学に相談して下さい。」

「ありがとうございます。」電話は切った後、大前は自分用の仮眠室に移動した。

 唇に、紀子の柔らかい感触と甘い匂いが残っていた。

 翌日。午後2時。天下茶屋跡。

 一美が到着すると、石碑の横の案内板に貼り紙が貼ってあった。

天下茶屋は豊臣秀吉が堺や住吉への途中立ち寄り、茶の湯を楽しんだところで、その名も殿下茶屋がなまったものという。

 何故、ヘレンの実家から近い、この場所を選んだのか?と不思議に思いながら、一美はその貼り紙を読んだ。

 「ここに、金の入ったケースを置け。そして、離れろ。30分経って、警察の気配がないようなら、回収して、監禁場所を示した紙を残す。」

一美は、キャリーで運んで来たケースを置き、立ち去った。

 5分置いて、二美が現れた。同様に、ケースを置いて立ち去った。

40分後。男達が2台のワゴン車に乗ってやって来た。そして、ケースの中身を確認した上で、ワゴン車にケースを運び込んだ。

 双眼鏡で観察していた、幸田達が、観光客のような体裁で案内板に近づいた。

 貼り紙を見た幸田と倉持は、すぐに大阪府警とEITO大阪支部に電話をした。

 「了解しました。」どちらも、電話の相手は、そう応答した。

 午後2時50分。北区。お初天神出口付近の雑居ビル。

 待機していた横山警部補と、曾根崎署の佐々刑事は、警察官達と到着した。

 施錠を壊した一室には、確かに小久保とヘレンがいた。

 ヘレンの猿ぐつわを外した横山は、ヘレンに言われた。

 「もう、あまり時間がない。」異変を察した横山と佐々は、監禁されていた2人を連れ、警察官と共に、外に出た。

 爆発音がして、白煙が立ち上り、火が窓ガラスを突き破って出だした。

 「佐々ヤン、挨拶は後やな。」「ああ、後のことは任せて行ってくれ!」

 横山は、人質だった2人を捕縄されたまま、パトカーに乗せ、真壁に発進を命じた。

 「こちら、横山。人質は確保しましたが、時限装置が監禁部屋に仕掛けられていました。現場処理は佐々刑事に任せて、このまま藤島病院に向かいます。」

 「小柳だ。了解した。病院には連絡しておく。よくやった。」

 午後3時5分。EITO大阪支部。

 大阪府警の小柳警視正から、マルチディスプレイに知らせが入った。

 「間一髪でしたね、警視正。追跡装置は、十三抜けて、箕面方面に向かっているそうです。オスプレイも芦屋三姉妹も向かっています。」と、大前は言った。

 午後4時。箕面市。越後山荘。

 半グレの越後商会会長が、高笑いをしていた。「こんなに図面通り行くとはな。」

 「図面には、穴っぽこがあったみたいだぜ。」突然現れた、赤い『くノ一』姿の女が言った。

 社員達が追うと、「こっちにもいるぜ、間抜けなオジサン達。」と、先ほどの女とそっくりな女が言った。

 社員の一部が、2番目の女の方に向かうと、今度は違う部屋の方から声がした。また同じ顔をした女だった。

 社員達が武器を持って庭に出ると、3人の『くノ一』が笑った。

 「ぶ、分身の術?」社員の1人が、腰を抜かした。

 「そ、そんな訳あるか。やっちまえ!」会長は銃を天に向かって撃った。

 3人の女忍者は四散して、どこかに逃げた。

 「天が呼ぶ、地が呼ぶ、人が呼ぶ。悪を倒せと私たちを呼ぶ。参上!EITOエンジェルス。満を持して!!」

 中央に現れた、EITOエンジェルス姿の総子が言った。

 電磁警棒を持った社員達は、辺り構わず攻撃を開始した。EITOエンジェルスは、バトルスティックで対応した。

 拳銃を持った会長と幹部数名に、ホバーバイクに乗った一美、二美、三美がメダルガトリング砲で攻撃し、瞬く間に拳銃は地に落ちた。

 逃げようとする彼らに、総子と本郷弥生のシューターが飛んできた。

 シューターとは、EITOが開発した武器で、うろこ形の手裏剣である。先に痺れ薬が塗ってある。足のつま先に刺さると、痛いという感覚の前に痺れてきて、屈強な男でも動きが鈍くなる。

 30分。敵の全員が、空を向いて寝ていた。パトカーのサイレンが遠くから聞こえていた。

 午後6時。EITO大阪支部。会議室。

 マルチディスプレイに小柳警視正が映っている。

 「会長まで出陣するとはね。部下思いだな。小久保と指原の証言で全貌が見えた。2人を誘拐したのは、『元オレオレ詐欺の受け子グループ』だった矢田信次が作った、新しいグループだった。越後商会は、その黒幕だ。前に摘発されて、矢田以外のメンバーは逮捕された。矢田は、指原を見付けて声をかけた。小久保を知っていた訳でも、たまたま狙われた訳でも無かった。指原は、『捕まるだけだから止めて』と懇願したが、矢田は聞かなかった。指原と矢田は幼なじみで、あの天下茶屋跡でよく遊んだそうだ。矢田は、レディースに入っていた頃の指原のことは知っていても、EITOエンジェルスのメンバーであることや、例の事件のことは知らなかった。小久保が芦屋の社員であることも知らなかった。」

 「じゃあ、偶然から始まったんですか?」と、悦子が言った。

 「ああ。幸か不幸か社員バッジみたいなものや社員証は持っていなかったから、小久保にしても指原にしても、ただのOLとしか見えなかった。ただのOLの家が大金を支払える筈もないのだが、矢田のグループの誰1人、疑問に思わなかった。矢田は指原を知っていたから支払えないことは知っていたが、切羽詰まっていた。最初、越後はチンピラの戯言だと思っていたが、相手が簡単に身代金を約束したので、後々のことも考えて、矢田達に2人を運び込ませた、以前の事務所に爆発物を仕掛けた。そのことを知った矢田は、ギリギリでメモを変えた。監禁場所は架空の場所にする予定だったんだ。」

 「矢田は、ヘレンを助けたい、って思ったのね。」と、今度は総子が口を挟んだ。

 「結局、ギリギリでの救出になってしまったが、矢田の裏切りで、痕跡を残さず、身代金の強奪事件でお蔵入り、という越後のシナリオは成立しなくなった。幸田君達の仕掛けた、大文字システムの追跡用ガラケーの発信のお陰で難なくアジトを突き止め、金を渡して引き返すところの矢田達を逮捕することが出来た。横山警部補によると、矢田は指原の無事に安堵し、何度も更生を誓ったそうだ。」

 「後悔していたのね。何の勝算もなく誘拐したことを。本庄弁護士に報告しなくちゃ。」と、一美が言った。

 「そうだ。指原を雑誌に売った記者だがね、南部興信所経由で中津興信所に調べさせたところ、外国旅行中、飛行機事故で亡くなっていたようだ。今回の件で噛んでいるかと思っていたが、取り越し苦労だったようだ。」

 「ばちが当たったんだよ。」と、ぎんが吐き捨てるように言った。

 マルチディスプレイの端に、藤島院長が映った。

 「小久保美紀、指原ヘレン共に、ロープが食い込んで、擦り傷があった程度で、大した怪我はない。それと、大前君。君、南部総子の上司なんだろ?明日、もう一度点滴に来るよう指示しておいてくれ。頼むよ。」

 ディスプレイから院長が消え、「じゃ、概略は以上だ。後は頼むよ、大前君。」と 小柳警視正は言い、画面から消えた。

 隅に隠れていた総子が戻ってくると、「養生してくれんとなあ、所長夫人。」と花菱が言った。

 「養生してくれんとなあ、所長夫人。」と、今度は幸田が言った。

 「養生してくれんとなあ、所長夫人。」と、今度は南部が言った。

 「やっぱり、オチがないと気が済まないのね、関西人は。」と本郷弥生が言い、皆が笑った。

 ―完―

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