サナトリウム乙女

綾波 宗水

第一部:sozial

第1話

久世くぜさんには、転地療養をお勧めします」

 白衣と銀縁メガネのせいか、その言葉はボクを治療するための提案ではなく、冷たい産業の響きがあった。

 新卒一年目。ボクはメンタルを病み、このクリニックへと通っていた。近くにもうひとつ開業していたが、ホームページが少し胡散臭く感じたので、こっちを選んだのだ。けれど、こちらもマニュアルにそった作業のような診察が続き、とうとう、ボクをどこかへと送ろうと言い出した。大病院だったら、入院しろと頭ごなしに言われるようなものだ。

 だが、少し魅力を感じつつあるのも、自分ながら気が付いていた。

「どこに行けば‥‥」

「紹介状を書きますよ」

 答えになっていない気もしたが、ともかくも彼はさほど高くもなさそうな万年筆でサインし、看護師が持ってきたクリニックの封筒へ入れて差し出した。久世詩音というボクの名前はパソコンによるものだけど。


「吉野山を登ったことは?」

 受け取るべきか否か。その判断能力は今のボクには無い。ただ、そこはかとなくデスゲームが始まりそうな予感がしつつ、紹介状と一緒に渡されたパンフレットをただただ見つめるしかなかった。

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