第8話 期待の新人はつまり弱すぎるの話

「「「プロダクション設立おめでとうございます~!」」」


 妹とリムちゃん、マコトくんの三人がリビングに座っている。この光景にもすっかり慣れた。

 今日はプロダクション設立を祝ってくれて、リムちゃんが大きなケーキを作ってきてくれた。

 意外というか、お菓子作りが得意だという。


「ありがとう。これも全てリムちゃんのおかげだ。それにこれまでもみんなの力を借りることになる。これからよろしく頼む!」

「「「よろしくお願いします~!」」」

「乾杯~!」

「「「乾杯~!」」」


 炭酸ジュースが入ったワイングラスで乾杯をする。

 カーンという音が気持ちよく響く。

 プロダクション設立の査定は一瞬で通ったし、資金もアークデモンとかいう素材の代金で全て賄えた。

 というかあの弱っちい木偶の棒であんなにお金が貰えるとは驚きだ。後から返してくれと言われても断固拒否するつもりだ。

 記念パーティーでケーキを食べながら、明日を楽しみにする。


 現在、うちのプロダクション【フロンティア】は、俺が社長兼マネージャー兼カメラマン、マコトくんが作戦部長、妹とリムちゃんが配信者になっている。


「鬼さん。明日から午後から私と二時間、夕方前にセシリアちゃんでいいですよね?」

「ああ。その予定で構わないよ」


 一応社長でありながらカメラマンだからな。

 午前中は日課の散歩は絶対外したくないので、午後一時から三時までリムちゃんの配信を行い、その足で妹の迎えに行き、四時から六時まで配信の予定だ。


「鬼さん。配信の予定をしておくと、リスナー達が来やすくなりますよ」

「そっか。今すぐに予約をしておこう」


 すっかりスマホの操作にも慣れて、パパパッと押すと妹の予約ができた。


「鬼さん~私のもやってね~マネージャーなんだから~」

「お、おう」


 リムちゃんの分も終えた。


「よし、これで明日からよろしく頼むぞ。みんな」

「「「は~い!」」」


 記念パーティーも終わり夜も遅くなったので、二人を送ってあげた。

 マコトくんはちゃんと両親に事情を説明して、バイトという形で参加することでご両親に納得してもらえたそうだ。もちろん給料も出す予定だ。

 リムちゃんは一人暮らしらしく、セキュリティ対策万全なマンションだった。

 妹と二人で夜の道をゆっくり歩いて帰る。


「お兄ちゃん~楽しみだね~」

「ああ。明日からセシリアの可愛さを世界に知らしめよう~!」

「えへへ~お兄ちゃんに可愛いって言われると嬉しいな~」


 うちの天使は夜でも月明りを受けて光り輝く。これを世界一可愛いと言わずに何という!

 嬉しそうな笑みを浮かべた天使と一緒に帰路についた。




 次の日。

 午前中はいつもの散歩を終えて、シャワーを浴びて約束の場所まで向かった。

 Cランクダンジョン90というダンジョンで、ここら辺では結構強いダンジョンだと有名だ。


「今日のリムちゃんだよ~ん!」

「…………変わりすぎだろう」

「キラーン☆ スイッチ入ったリムちゃんはこんな感じなの~☆」

「…………」


 女ってなんか怖いな。

 気にすることなく、ダンジョンの中に入ってスマホをチェックする。

 見ていたスマホを隣から背伸びして、俺の胸に頭を擦りつけながら覗いてきた。


「わあ~! リムちゃん配信の待機中がもう三千人もいるの?」

「そうみたいだな。さすがは自称大型新人と語るだけあるな」

「自称じゃないよ~! 私は本物の大型新人なの!」

「ふう~ん。そんなに弱いのに・・・・?」

「鬼さんが強いだけですぅ!」

「そうか? 毎日筋トレくらいしかしてないが」


『-配信が始まりました。-』


 リムちゃんと喋っていたらいつの間に配信開始時間となった。

 急いでスマホをリムちゃんに向ける。


「みんな~☆ リムちゃんだよっ~☆」

『リムちゃん今日も可愛いよ~!』

『配信ずっと待ってた!』

『配信復活おめでとう~!』


 無数のコメントが流れて読むのも一苦労だ。

 正直、妹の配信ではここまで圧倒的なコメント量は見たことがない。有名配信者となるとコメントを追えないというのは、その通りなんだな。


「今日から所属プロダクションを変えて、これから【フロンティア】の一員として頑張るからね~! 同期にセシリアちゃんもいるので、午後からの配信もよろしくね~☆ ちなみに私もちょいちょい出演する予定だから~」

『はいはい! そっちも絶対に見ます!』

『一日リムちゃん二回とかまじかよ!』

『フロンティアまじ神~!』


 一通り現状を報告したリムちゃんの配信がスタートした。

 彼女はそれなり・・・・に動けるようで、C90(Cランクダンジョン90の略)の一層の魔物をバッタバタと倒していった。

 腰に二振りの刀が掛けられているが、基本的には一本しか使わない。


「えっへん! 鬼さん? どう? 少しは見直した?」

『えっ!? 鬼さんいるの!?』

『鬼さんキタァ~!?』

『カメラマンが鬼さんなら社長がカメラマン!?』


 もう俺達の噂がそこまで回っていたのか。

 まあ、ニュースにもなっていたくらいだし、仕方ないか。

 あのニュース。俺が木偶の棒を一撃ワンパンで倒したことを、さもありえなく凄いことみたいに言いやがって、あんな雑魚魔物ならちょっと鍛えた人なら誰でも倒せるっての。

 まあ、リムちゃんはまだ倒せなさそうだが、彼女もまだ新人だしな。


「リムちゃん。腕の振り方がなってない」

「えっ!? そうなの?」

「柄を握る位置がいつも三ミリもズレてる。まずそこから統一しないと腕の振りが毎回ズレてしまうぞ?」

「分かった! 意識してみる!」


 レイルスター社はこんなことも教えなかったのか?


『セシリアちゃんとは違い、この画角……! 師匠っぽくていいかも!』

『てか、鬼さんってカメラマンの天才なんじゃ?』

『世の配信の全てのカメラマンが見習うべき』

『しかも画面全然ブレてないよな。どんなスマホならそんなできるんだ~?』

「ん? スマホなんてどこにでも売ってるものだぞ。カメラがブレたら可愛いセシリアの映りが悪くなるからな。これは動く度にカメラだけ微動だにしないように俺の腕を微妙に固定しているんだ。筋トレすればこれくらい誰でも普通にできる」

『え……筋トレでそれが……できるのか?』

「できるできる。普通だ」

『そっか。鬼さんが言うんだから間違いないっす』

『おお~早速鬼さんのアドバイスのおかげで、リムちゃんにも変化が?』

『いつもより動きにキレがあるね』

「当然だ。握る場所がズレると刀を抜いた時に毎回腕の距離が違うから、斬る向きや場所、間合いの取り方まで変わる。何事も基本が大事。まずは柄を握る手を同じ場所にするんだ!」

『はい! 師匠!』

「声が小さい~!」

「はいっ!」

『はいっ! はいっ! 師匠おおおお! うおおおおお!』


 当然のコメントが大盛り上がりを見せた。


 それにしても、こいつら…………弱すぎないか? 俺より弱いぞ?

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