第6話 新しい道が見つかった話

 また月曜日が始まり、妹が学校に行っている間、俺は珍しく筋トレではなく、作業に没頭していた。いや、作業と言っても大層なことではない。

 妹の配信を応援してあげたい。その一心で何とかならないか色々調べているが、一向に答えが見つけられずにいる。

 そもそも配信に興味がなかったから、どうやって配信をするのかすら分からない。


 はあ……こうなるなら配信のこと、少しでも勉強しておけば妹のためになったんだろうにな。まあ、後悔しても仕方がない。


 それにしても相変わらず届くメッセージでは「鬼さんとセシリアちゃんの配信をサポートします」と、あの社長みたいなことを言っている人ばかりだ。

 何だか手持ち無沙汰になったので、家から出て近くの公園を散歩していた。


 その時――――俺の前に一人の女が現れた。


「あの!」

「ん?」

「ひ、久しぶりです!」

「…………誰だ? 会ったことないぞ?」


 近所だから知り合い……なんてことはなく、一度も会ったことない女が挨拶をしてくれる。

 これってあれか……? 新たな勧誘の仕方とか?


「わ、私です!」

「いや、だから誰だよ……」

「私――――リムちゃんです!」

「…………は?」


 いやいやいやいや! リムちゃんってあれだろ? 妹と同期だった子。あの派手な子。

 今の彼女は派手な服装からあまりにも違い、むしろ清楚な女子そのものだった。


「衣装を着ていないだけなんです……え、えっと……鬼さんはここら辺に住まわれてるんですか?」

「口調まで違うんだけど」

「たまに言われます……衣装を着ると仕事のスイッチが入るというか…………あ! え、えっと、ほら、私、ちゃんとリムちゃんでしょう?」


 そう言いながらスマホの画面を見せてきた。

 確かにそこにはリムちゃんのチャンネルが書かれていた。


「分かった。本人だとして、俺に何の用だ?」

「え、えっと…………この前は色々と……ごめんなさい!」


 彼女は腰を直角に曲げて頭を下げて謝罪した。


「…………まあ、いいよ。どうせセシリアはクビになったし、もう二度と会わないだろうし」

「そ、その件なんですけど! どうしてクビになったんですか?」


 なんかよく知らないけど、グイグイくるな……確かにリムちゃんと言われてみれば、グイグイくる点では納得いくな。


「俺と一緒に配信しなかったらクビだと言われたからだよ。そもそも俺は配信に興味もないし、妹が目指している場所はそこじゃないからな」

「そっか……だからクビに…………それで、何か悩んでいる顔でしたけど、何かあったんですか?」

「あ~配信をしたいんだけど、どうやったら配信できるのか分からなくてな」

「ふふっ。配信探索者は基本的に許可のあるプロダクションじゃないと配信できませんからね」


 そう。一番の問題はそこだ。

 配信自体は誰でもできるが、ダンジョン内部で配信が許されているのは探索者のみだ。

 これには無謀にもダンジョンで配信をして亡くなる人が多いからだ。

 それを防ぐためにプロダクションのみに権利が委ねられ、プロダクションも見合った人だけを選別して配信させている。


「それが困っててさ。ダンジョン配信しなくてもいいんだが、それじゃ妹の夢とは違う気がするし~悩みだな」

「なるほど…………それなら、ご自身でプロダクションを開いたらどうですか?」

「え……? 俺が?」

「はい」

「……いや、無理だろ」

「できますよ? 鬼さんなら」

「え……?」

「アークデモンをワンパンしたのは事実ですし、近々アークデモンの素材買取料だって貰えますよね? それでプロダクションを開くなんて造作もないと思います」


 考えてもいなかった。俺がプロダクションを開いてしまえば、妹を配信させてやることができる……! なんて素晴らしい考えなんだ!


「リムちゃんだったな! ナイスアイデアだ! それぜひ使わせてもらうよ!」

「えへへ~これで私に恩が一つできましたね?」

「あ゛」

「私のお願いを一つ聞いてください」


 こいつ……図々しさはやっぱりあのリムちゃんだな。


「聞ける範囲ならな」

「鬼さんが作られるプロダクションに私も入れてください」

「えっ!? いやいや、お前にはレイルスター社があるじゃん」

「そうですけど、正式採用ではセシリアちゃんに負けましたからね。この方法ならセシリアちゃんよりも早く・・・・・私が鬼さんのプロダクションに入ったことになりますから」

「…………実は負けず嫌いか」

「それもありますけど、他にもっと別な理由がありますけど、それは秘密です」

「はあ……分かったよ。お前には恩があるし、プロダクションを立ち上げたら入れてやるよ」

「やった~!」


 嬉しそうに笑みを浮かべたリムちゃんは、まあ、ちょっとだけ可愛かった。妹程じゃないが。

 それからすぐにスマホを取り出してどこかに電話をした。


「社長。こんにちは。私、今日で辞職しますので~ありがとうございました~」

「はえーよ!?」

「いいんです。こういうのは勢いで決めるものですから」

「はあ……まあいい。後悔しても知らんぞ?」

「ふふっ。このチャンスを逃す方が後悔しますから」

「分かった。俺は妹を迎えにいくからな」

「あ~挨拶したいんで私も一緒します。あと連絡先教えてください」


 リムちゃんに言われるがままに連絡先を教えて、妹を迎えにいった。


 校門前で待っていると、妹ともう一人の女子生徒が一緒にやってきた。


「ただいまお兄ちゃん~?」

「おかえり。こちらは信じられないかもしれないが、あのリム・・・・ちゃんだ」

「わあ~! リムちゃん~! お久しぶり~」

「久しぶり~セシリアちゃん」


 あれ……? 二人ってこんなに仲良かったっけ?


「お兄ちゃん、紹介するよ。私の友人の椎名しいなまことちゃん」

「初めまして。マコトです。配信は見ていたので鬼さんにお会いできて嬉しいです」

「どうも」

「それでね。お兄ちゃんが色々悩んでいたから、真ちゃんに相談したら、演出なら相談に乗れるかもってことで、お願いしてきてもらいました!」

「演出!? ほぉほぉ……!」

「昔からアイドルから配信まで見るのが好きで、将来は演出家を目指していたんです。セシリアちゃん可愛いし、もっとこういうのやってほしいとか思っていたので、これを機にぜひと思いまして」

「マコトくん……! ぜひよろしく頼む!」


 それから彼女達を連れて家にやってきて作戦会議を開いた。


 リムちゃんのおかげでプロダクションの件は僕が建てることを説明し、これから配信の演出はマコトくんに任せる形で演者というか配信者はセシリアとリムちゃん二人を出すことで進んだ。


 その日から数日間は会議で明け暮れた。


 そして、ついに国からアークデモンの買取の報酬金とイレギュラー対応の報奨金が送られてきて、それをそのままプロダクションを設立するために使うことになった。

 プロダクションを設立するには資格か実績が必要だったようで、リムちゃんの予想通り、俺は実績が認められて一発で通って無事プロダクション【フロンティア】を設立した。

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