第3話 妹が学校から帰ってくるまでの話

「ただいま~!」


 家に入ってすぐに妹が声を上げる。が、誰もいないので返事は返ってこない。

 両親は俺が成人してから、海外に出稼ぎに出ている。

 まだ妹が高校生だというのに、俺に全部任せっきりだ。

 妹は現在高校三年生。俺は一つ上だが、現在は無職だ。

 最初は大学に入ろうかなと思ったけど、家から通える大学もないし、それなら妹が見守った方がいいと思ったし、両親からもそうしてくれと頼まれた。

 生活費は両親が出稼ぎした金を送ってくれるが、あと五年は遊んで暮らせる額が通帳の中に入っている。


「お兄ちゃん~今日の配信楽しかったね!」


 ああ……うちの妹まじ天使……。


「今日もセシリアの頑張りでリスナー達も喜んでいたしな」

「むぅ……お兄ちゃんは……?」


 ぐ、ぐはっ!?

 拗ねて口を尖らせたわが金色の天使サイカワでは!?


「もうそれは世界一可愛くて、頑張ってるセシリアの姿に今日も頑張って生きようってパワーをもらえたぞ!」

「え! お兄ちゃん? ちゃんと毎日生きて! じゃないと……私が悲しくなっちゃう……」

「当然だ。俺はセシリアを置いてどこにも行かないさ」

「えへへ~やった~! これからご飯作るからお兄ちゃんはゆっくりしてて~」

「いや、俺は掃除を頑張ろう。セシリアと一緒に頑張りたいんだ」

「うん!」


 放っておくとセシリアは家事全てをやってしまうため、される前に自分でやれる分はやる。

 洗濯機を回して風呂掃除をして、各部屋やリビングの窓を開いて換気をする。

 両親の仕事は貿易系だからか収入も大きくて、一等地の一軒家に住んでいる。

 掃除が終わると妹が作ってくれた世界で一番美味しい夕飯を前にする。

 リスナー達に頼まれた通り、今日の日課のために夕飯の写真を俺目線で撮る。

 食卓から笑顔の妹が写るように撮る。妹を支える【鬼ちゃんリスナー】達のためだ。

 画像を妹のチャンネルにアップして、一緒に手を合わせて食事をする。

 味噌汁も焼き魚も玉子も白ごはんですら世界一美味しい。

 うん。やっぱりうちの妹、世界一可愛い。

 食事が終わると、妹のスマホに電話がかかってきて誰かと会話をする。


「お兄ちゃん」

「ん? どうした?」

「あのね? 社長がまた本社に来てくれないかって」


 うちの可愛い妹をたぶらかしたあのゴ〇野郎か…………まあ、おかげで妹が楽しそうにしているのでよしとしているが……。


「いつ頃?」

「――――明日? 明日はちょっと早いかな……明後日の土曜日なら? ――――はい。分かりました。お兄ちゃん。土曜日はどうかって」

「土曜日か。明後日か。いいんじゃないか?」

「えへへ~じゃあ、土曜日にお邪魔します。は~い」


 急遽妹とのデート日にいらん予定が入ってしまい、ちょっとムカつくが、ついでに行ってやってもいいかもしれない。

 どうせ市街に出るんだし、多少はな。

 お互いに風呂に入って、その日は眠りについた。




 翌日。

 妹を学校まで送る。

 うちの妹はあまりにも可愛すぎて誰かに襲われかねないので学校まで護衛をするのだ。

 もちろん帰り時間を見計らって迎えに来ている。


「行ってくるね~」

「行ってらっしゃい」


 学校に入る妹は何度も振り向いて俺に手を振ってくれる。

 ああ……うちの妹……世界で一番可愛い……。


 家に帰ってきたら、次にやるのは――――筋トレだ。

 と言っても普通に体を鍛えるのとは違って、うちの地下にあるダンジョンに入って魔物を倒すのだ。

 昨日、リスナー達は大袈裟に言っていたけど、うちの地下ダンジョンの一層の魔物の方がずっと強いというか、あの木偶の棒くらいなら初心者くらいのレベルだ。

 妹はまだまだ発展途上中なのでこれから強くなれるし、むしろ強くならなくても俺が守るので、なんら問題もない。


 一層に入ると、黒い大蛇が出迎えてくれる。

 幼い頃は倒すのにも一苦労したけど、今じゃこいつも――――ワンパンだ。

 ここの魔物は基本的に真っ黒い。大蛇も獅子も熊も鷲も。

 三層までなら全てワンパンで倒せるようになったので、今では筋トレというより散歩だな。

 妹が返ってくるまでここで筋トレをしながら時間を過ごす。

 父さん曰く、妹は絶対にここに入れないように言われている。女性が入ると呪われるらしいので、妹には秘密だ。


 散歩を終えてそろそろ時間なので地下ダンジョンから出て、シャワーを浴びてからまた妹の高校に向かう。

 俺は食事は基本的に取らなくても問題ないので昼食は食べない。週末は妹とのデートなのでいくらでも食べるけど。

 学校前に着いて十分後に妹が足早に出てくる。


「お兄ちゃん~? クラスメイト達から、私の昨日の配信が凄くバズったって~」

「ん? バズった? どれどれ」


 気にした事はなかったが、妹のチャンネルを開いてみると――――確かにチャンネル登録者数が凄まじい数に増えていた。

 元々数百人だったのが、既に一万人を超えている。


「セシリア! おめでとう!」

「でも私じゃなくてお兄ちゃんのためみたいだよ?」

「俺のため……?」

「うん! 昨日アークデモンを倒したのが凄かったみたい!」

「ふ~ん」


 あんな雑魚魔物くらいで何を騒ぐのか…………いや、これは間違いない。


「セシリア」

「うん?」


 頭を傾げる妹はまさに天使だ。


「きっとそれは――――照れ隠しだ」

「照れ隠し?」

「ああ。みんなセシリアがあまりにも可愛すぎて、可愛さ天井突破しすぎて、逆に可愛いというのが失礼に当たるから中々言えないんだと思う。それにあんな魔物ワンパンで倒せるくらい弱いんだぞ? セシリアの可愛さ目当てに決まっている」

「そ、そうかな……?」

「なんだってセシリアは世界一可愛いからな。これからの配信で証明されるさ」

「えへへ~それならいいな~お兄ちゃんと一緒に配信頑張ってるから、チャンネル登録者数が増えるの凄く嬉しいんだ~」


 ぐ、ぐはっ!?

 せ、世界一……尊い…………。

 あぁ…………もうこのまま昇天しても構わぬ…………。


「お兄ちゃん?」

「ぬわっ!? セシリアの笑顔は破壊力抜群だな。あんな木偶の棒よりもずっと強力だ。やっぱりセシリアの可愛さがあるから伸びたんだ」

「えへへ~お兄ちゃんのおかげだねっ!」


 あぁ……尊い…………。

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